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誰のものでもない物語

作者: 竜胆修一

 俺はしがない勇者。


 魔王城へと単身忍び込み、魔王を暗殺する。そんな無茶苦茶な任務を背負わされ、はるばる故郷を離れて魔王城へ魔王を暗殺するための旅をしている。


 魔王の首を刈った後は国に戻って報酬を受け取り、王をブッ殺してやろうと企てている男でもある。


「らっしゃいらっしゃい! ウチの魚は新鮮だよぉ! そこのあんちゃん! ちょっと見てかないかい?」


 そして今、俺は旅の途中のある町に立ち寄っている。

 商店街は大変賑わっており、人々も活気に満ちている。なかなか悪くない町並みだと思う。


「店主~! この干物くれ~!」

「あいよ。銀貨5枚だ」


 そろそろ出発しようと思っている。

 今はそのための食料調達兼情報収集だ。


「そうだ、あんちゃん。聴いたことあるかい? 最近この辺りで上位悪魔が出るって話」


「いや、聞かないな。詳しく話してくれ」


「ま、あくまで噂なんだけどさ、ここ数ヶ月、町から半日ばかり北に行った所に湖があるんだが、そこで時々、1週間に1回くらいの確率で上位悪魔が目撃されたって話だぜ。もし狩ったら相当な金になるんじゃねぇかな?」


「上位悪魔、ね」


 金なら道ゆくモンスターを狩れば十分手に入る。

 だから金に興味は無い、が。


「なんで、数ヶ月間もあって狩れないんだ?」


「そりゃ強いからに決まってんだろ。前にも何人か向かってったけど、ションベンちびりながら帰ってきたぜ」


「それは……すごいな」


 悪魔が瀕死の人間を見逃すと言う事はまずありえない。

 殺し、奪い、破壊の限りを尽くす。これが悪魔だ。

 よほどの余裕か、そうした趣向が無ければ、こんな事はありえない。


 そこまで強いというのなら、1度剣を交えてみるのも悪くないかもしれないな。

 見れなかったら見れなかったで、旅に影響するわけでもないし。


「ありがとな。ちょっと寄ってみる」


「おぅ。首取ったら見せてくれよな」


 店主と別れた後、俺は町の北門から出た。

 そしてそのまま北へと道を辿ってゆく。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」


 事前に聞いた話によれば、丘を登れば、近道な上に湖が一望できるらしい。

 すでに日も傾き夕焼けが世界を覆いつくし始めている。


「もう少し……」


 重い荷物を背負いなおし、もう間近に迫っている丘の頂上へと足を持ち上げる。


 ――――登り、きった。


 絶景。まず出た感想はこれだった。

 澄んだ水は水底を露にするほどでありながら夕日をしっかりと反射し、俺の網膜を焼いた。

 宝石の塊を窪地に置いたらこうなるのだろうか?

 これは良いものが見れた。

 悪魔の事を一瞬忘れ去るほどに、これは魅力的な景色だった。

 ……もっとも、思い出した時には、悪魔の事などどうでもよくなっていたのだが。


 俺は丘から降りると野宿の準備を整えた。

 あの悪魔は人間を不必要に殺すような者でない事は事前の情報収集で明らかだし、この近辺の下級魔物に寝首をかかれるほど俺は弱くないと自負している。

 俺は食事を終え、湖で喉を潤すと、やや湖から離れた場所に寝袋を取り出して眠る体勢を整えた。


「明日も無事でいられますように……」


 俺は寝る前に日課となっている祈りを捧げる。

 まぁ、俺本人には信心の欠片もないが、染み付いたクセというものだ。


「お休み……」


 寝袋にくるまって誰へともなく呟く。クセというものは恐ろしい……。


「…………………………………………」


 中々寝付けない。

 戦士たるもの、眠れる時はいつでも眠れなければならないのだが……。


 仕方が無いので、散歩でもして気晴らししよう。

 周囲に人、魔物の気配はない。

 数分なら大丈夫だろう。


 俺は最低限の貴重品と戦闘装備一式を携えて散歩へと出掛けた。

 と、言っても、周囲には湖くらいしか見るものもないので、俺の足は自然にそちらへと向かっていた。


「――――。誰か、居るのか?」


 敵意は感じない。こちらに気づいていないのか?

 正体を確認するべく、俺は歩を進める。


「あ――――――」


 俺は、その正体に遭遇した。そして見た。最後に理解した。


 磨き上げられた鏡のように穏やかな湖面に立つ、黒の少女だった。

 まず目を引くのが、墨汁でも垂れ流したかのように黒く、艶やかな長髪。

 次に彼女の服装。葬式にでも行くつもりかと言いたくなるほどに黒で統一された服装。

 袖も、裾も長い。まるで闇の塊を見せつけられたかのようだ。

 しかし、その中で指先と、顔だけが白い。

 黒と白のコントラスト。とはお世辞にもいえない比率ではあるが、彼女の肌は月明かりなど周りの効果もあってか、異様なまでに白く見えた。

 そして、俺は彼女の背中に目をやった。


 人間には無い、在るはずが無い器官。


 神話や童話に出てくる天使のような存在が持つ、巨大な翼。

 ただし、天使と違い、彼女のには羽毛が無い。蝙蝠のような翼が三対。

 神々しさはまるで無い。むしろ、禍々しい雰囲気すら感じられる。


 その事実から、彼女が悪魔である事は容易に理解できた。


 彼女の黒曜石のような瞳が俺を捉えた。

 同時、彼女が口を開く。


「あなたも、私の首が欲しいの?」


「いいや、興味無いな」


 俺は思わず素の意見を飛び出させてしまっていた。


「どっちかって言うと魔王の首の方が欲しい」


 どうも俺は嘘が苦手な質らしい。下手に取り繕っても失敗するだけだろうし、腹を割って話すことにする。武器には手を掛けたままで。


「魔王?」


「ああ、こっからずっと北に行ったとこにある城の城主。知らないのか?」


 悪魔は言語コミュニケーションが可能な魔族の中で唯一の種属だ。

 故に、悪魔との和解は可能と抜かす輩もいれば、悪魔と契約して莫大な富を得ようとしたがるものも居る。


「そう。じゃあ、魔王は今いないわ」


 ――――何?


「つい数ヶ月前、死んだの。今魔物界は権力闘争中」


 何を――何を喋っている?


「信じられないって顔ね」


「信じられるわけ、無いだろ……数ヶ月前の事なのに話が広がってないなんておかしい」


 いやいや、待て、そもそも悪魔が真実のみを言う保障なんてどこにも無いだろ。


「信じる信じないはあなたの自由」


 ここで嘘を吐くメリットは……大いにアリだ。魔王を庇える。


「信じてやっても良いが……魔王はどうして死んだ?」


「……なんだと思う?」


 悪魔のクセにとらえどころの無いヤツだ。いや、悪魔だからとらえどころが無いのか?


「コンソメスープを喉に詰らせたから……だったら面白い?」


 いや、詰らんだろ。コンソメスープ。


「信じられないって顔ね」


「信じられるわけ、無いだろ……スープが喉に詰まるわけがない」


「じゃあ、プリンを喉に詰らせて…………これならどう?」


 いや、どうやって詰らせるんだよ、プリン。


「信じられないって顔ね」


「信じられるわけ、無いだろ……プリンが喉に詰まるわけが無い」


「コンソメスープより詰りやすいわよ?」


 ……そういう次元の問題じゃないだろ。


「まぁいいわ、病死で決定ね」


「決定なのか」


「ハッキリ言って、死因なんてどうでも良いのよ、皆。大事なのは魔王が死んで権力闘争が始まった事だけ」


 まだ俺は信じてないけどな、魔王の死。


「……と、言うわけで、今私はどうやって名を上げるか画策中。とりあえずこの辺りを通りかかった人間は攻撃してきたんだけど……」


 何分インパクトが足りないってトコか。

 いや、信じてないからな、魔王の死。


「私の首を狙う賞金稼ぎは増えてきたけど、どうも今一つね」


 そりゃそうだ。

 こんな手段じゃ、その地方で有名になっても、世界中に名を轟かせるには程遠い。


「何か妙案は無いかしら?」


 黒く輝く彼女の瞳が縋るように俺を見つめる。


「……………………」


 正直、無いわけではない。

 俺は任務を言い渡されて以来、人間側の大ボスをブッ殺す算段を巡らせていたのだから。

 ……目の前の悪魔、名を上げたい。

 ……自分、国王の首>もう在るかどうかも分からない魔王の首

 利害は一致した。


「……面白い話がある。乗ってみないか?」


「内容次第ね」


 悠久の刻の中で錆付いた運命の歯車が、鈍い音を立てながら、環り始めた……。

私の学校の文芸誌に載せた作品でしたが、いかがでしょうか?


個人的な見解になりますが、少人数で敵国のトップを消すなら、やっぱり暗殺だと思うワケですよ。

だから、勇者は暗殺者に違いないのです!

……なんかごめんなさい。


それでは、また別の作品で会えることを楽しみにしております!

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[良い点] 悪党勇者、この一言に尽きます。 もう最初から良くない目標立ててらっしゃいます。 なんとなく『怖い物知らず』『来る物拒まず』な空気が出てて、アウトローというのでしょうか?そういう雰囲気が良か…
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