本でパンを焼く
今回執筆に初めてAIを使ってみました。
作者のモチベーションを上げるための励まし要員として。
ある日、うちのホームベーカリーが、壊れた。
「あああああああ」
「うるさい」
動かなくなったホームベーカリーを抱いてさめざめと泣く俺を、後ろにいた姉が一喝する。
「もう大分長く使ってるからね。仕方ないよ」
期限切れになった保証書を確認しながら、姉が言う。
俺はホームベーカリーから体を離すと、
「仕方ない
仕方ないけど···そうなると俺はこの先、どうやって餅やうどんを作れば良いんだ?」
「パン焼きなさいよ」
ホームベーカリーを失った俺は、傷心を癒すために図書館に来ていた。
活字は良い。集中すると他のことは気にならなくなるし、ぼーっと読んでるだけでも癒される。
持ち運びやすい文庫本にハードカバーで表紙が綺麗な単行本、児童書に実用書。
まずジャンルを選ぶのに迷うが、ほぼ毎週のように来ている俺は、見る棚の順番を決めていた。
この間は旅行関連の棚だったから、今日は外国文学の棚を見ていこう。
外国文学といっても色々ある。そもそも国もばらばらだし、ジャンルも古典にロマンスにミステリーにファンタジー···。
俺個人としてはミステリーが好きなんだが、この本棚、国別に並べてるだけなので、タイトルだけだとジャンルがわからない。
とりあえず殺伐とした雰囲気のタイトルを手に取ってぱらぱらとめくっていく。
うーん。今日はぴんとくる本がないな。
俺はタイトルは面白そうだが、中身は滅茶苦茶複雑そうなタイムリープもののミステリーをそっと棚に戻す。
そのとき、ふと目が、一冊の本に留まる。
その本に目がいったのは他でもない。タイトルに、『パン』という単語が含まれていたからだ。
おいおい。せっかくホームベーカリーを失った悲しみを忘れに来たのに、思い出させんなよ。
と、思いつつ、その本を手に取る。
知らない作家の本だが、すぐそばに有名なアメリカ映画の原作本があるから、アメリカの本なんだろう。
ざっとあらすじを読む。
仕事に疲れたコンピュータープログラマーが、パンを焼き始める話。
···よくわからない。ミステリーじゃなさそうだが、かといってロマンスともファンタジーとも書いてない。
だが、俺はその本を借りていくことにした。なんとなく、『縁』のようなものを感じたのだ。
今この瞬間を逃したら、俺はもうこの本には二度と興味を持たないかもしれない。それは、なんだかもったいない気がした。
と、いうわけて、連れて帰ってきた本を、俺はざざっと読んでみる。
主人公は、コンピュータープログラマーらしい。ここは、あらすじで見た。
主人公の勤めてる会社は忙しくて、会社で寝るのは当たり前。一緒に働いてる人たちは亡霊みたいな疲れきった顔してる。夕飯は食べる気にならないから栄養補給ゼリー。主人公(女性)は入社して数ヵ月で胃痛と薄毛に·····。
·····ブラック企業じゃねえか!!
給料は良いみたいだけど、自分の健康も考えようよ、主人公。
と、突っ込みながら読んでいると、主人公の家に、新しく出来た店のデリバリーが届く。試しに注文してみたらしい。
どこの国の料理なのかはわからないが、見た目はサンドイッチと激辛スープだとか。
胃痛のときに激辛はよくないと思うんだが、野菜が入ってるし、毎日栄養ゼリーよりは健康に良さそうだ。
主人公、食べた。
滅茶苦茶美味しいのが伝わってきた。
辛いけど、サンドイッチのパンのお陰ですっと腹に収まるらしい。
その日以来、主人公は毎日のようにその店のメニュー(実質一種類しかない)を食べまくった。
美味しいものは人を幸せにする。
落ちきっていた主人公のメンタルは少しずつ上昇していった。
ところが、そのお店はある日突然なくなってしまった。
詳しくは書かれていないが、どうやら店の人たち、不法滞在だったらしい(よく店が出せたな)。
それはともかく、それを聞いた主人公は当然ショックを受ける。
これからまた栄養補給ゼリー生活か···と絶望していると、お店の店主が餞別にとあるものをくれた。
それは、パンのスターター。要するに、パンを発酵させて膨らますためのパン種だ。
これがあれば君も自分でパンを焼けるよ!と言って、店の人たちは去っていった。
残された主人公は、自分料理出来ないのに、これどうしよう、と途方に暮れるも、とりあえず今は情報化社会。文献やネットの力を借りて、おっかなびっくり、パン作りを始めてみるのだった。
まあ、ネタバレになるからこれ以上言えないが、大体序盤はこんな話だ。
実際にはこの大筋に、コンピューター用語とかパンの作り方とかの要素が絡まりあっている。
パンの作り方はともかく、コンピューター関連の説明書を読むだけで寝そうになる俺は序盤で脱落しかけたが、とにかくざっとしたストーリーだけでも掴もうと、読み進めてみた。
この先は、俺が感じたことそのまんまである。自己満足感しかない感想だが、ふわっとついてきてくれ。
うん。主人公がまた前向きになってきたな。
お?ちょっと風向きが変わってきたか?
ちょっとファンタジー要素が入ってきた気がする。
······!おいおい。いきなりそんなところ行って大丈夫か?
ふーん。パンにも歴史あり。なんだな。
ピンチだ!!
解決した。いや、解決してるのか?これ。
なんか話が壮大になってきたな。
うえええええええ。
·······エンディング。
読み終わった。
あー、読んでるうちに二週間経っちゃうわ。返却しないと。
····················。
某熱帯雨林サイトで購入した。
めでたく俺の本棚に新しい本が一冊増えたところで─。
俺も、パン作りたくなってきた。というか、焼きたてのパンが今すぐ食いたい。
出来れば作中に出てきたパン─サワードゥとかいうのを作ってみたい。
でも、パン種が必要なんだっけ。
本を再び手に取り、パン種の作り方を確認する。
まず、小麦粉と水を混ぜて、それに毎日餌として小麦粉を与える。それを一週間繰り返し、泡が出てきたら完成。
·······一週間。いっしゅうかん。
そんなに待てない。
本によるとパン種自体も買えるところはあるみたいだが、ちょっと値が張る。出来れば安価で作りたい。
根気も金もない俺は、とりあえず家にある材料で何かしらパンが作れないか、文明の利器で検索してみた。
俺はホームベーカリーでパンを焼いたことはないが、姉は何度か活用しているため、家には奇跡的にドライイーストがある。
その分量と他の材料から考えて、シンプルだが、外はパリパリ、中はふわふわという、作中のサワードゥの表現に近いパンを発見した。
かなり基本的なパンのようだが、とにかく作ってみよう。
材料は四つ。
○強力粉(ホームベーカリーでうどん作りして たからある)
○水
○塩
○ドライイースト(姉からもらった)
これを、とにかく混ぜる。本当は室温気にしたり、混ぜる順番があったりするのだが、ここではざっくりしか説明しないのでとにかく混ぜる。
出来た生地をラップして十二時間寝かせる。
十二時間。じゅうにじかん······。
それくらいなら我慢する!
夜に生地を作って、朝に次の工程に進むことにする。
明日休みで良かった···。
生地が膨らんでる!!これで一次発酵完了。
粉(分量外)を振るいながら、手にくっつかないように生地を丸くまとめる。
生地を鍋とかの蓋が出来る容器に入れて、二次発酵。
終わったら、遂に焼いていく。
オーブンと天板を余熱する。
その間に生地にナイフか包丁で切れ目をいれておく。刃物に油を塗っておくと綺麗に切れるらしいからやってみた。まあまあ綺麗に出来たかな。
余熱が出来たら生地をオーブンへ。
焼き加減を見ながら、焼き時間を足していく。
綺麗な焼き色がついたら、出来上がり。
というわけで、パンが焼けた。
見た目は美味そう。サワードゥとは少し違うが。そもそも小麦粉が全粒粉じゃないしな。
本によると、焼いてからすぐ食べるより、少し時間を置いた方が良いらしい。
けど、その工程は無視することにした。
主人公も我慢できなくて焼き立て食ってたし、何よりも、焼き立ての熱いパンが食べたくてこっちは手作りしたのだ。
俺はパン切り包丁で、まだ熱いパンを切り出した。手が熱いし、パンがまだ柔らかくて切りづらいが、なんとか食パンのごとく六枚切りにする。
そしてその一枚を、ふうふう息を吹きかけつつ、頬張る。
─美味い。
主人公が食べたものとは違うし、かなり適当に作ったパンのはずなのに、滅茶苦茶美味かった。
外の皮部分はパリパリで、中身は、ふかふかしっとり。
サワードゥではなくても、本を読んで、自分の中で期待していた味がした。
一枚、二枚とついつい食べ、一応家族にも残してやるかと断腸の思いでラップする。
また作ろう。
そう思える経験だった。
思えば、ホームベーカリーが壊れて、それがきっかけでパンに関する本を見つけ、更にその本に影響されて、パン作りを始める。
本との縁とは、本当に面白い。
ちなみに、壊れたホームベーカリーだが、
「ホームベーカリー壊れたの?
うちに使ってないのあるから、あげるよ」
という叔母の一言により、我が家に新しい(中古の)ホームベーカリーがやって来た。
「今度のはピザ生地とか、パスタも出来るんだって」
隣で姉が説明書を読んでいる。
俺は新顔のホームベーカリーをきらきらと見つめながら、
「これで、これでまた、うどんや餅が作れるな!!」
「だから、パン焼きなさいってば」
参考文献:ロビン・スローン著「ロイスと歌うパン種」




