あの時森で君に会えて良かった
自分が売られる話を聞いて前世を思い出した。
前世は35歳社畜。今世は貧乏農家の三男だ。
夜トイレに起きた時に、母屋で親が自分の名前を出したので、こっそり聞いてみると、7歳の洗礼式を迎えたら、下働きとして商家に売り払う話をしていた。
前金は親に渡されて一生給与もなく働かされる一種の奴隷契約だ。逃げよう。
7歳の洗礼式まであと1か月。
商人がいつくるかわからないから準備ができたら早いめに逃げよう。どこに?隣の村や町じゃダメだ。連れ戻される。じゃ、近隣にある普通の人は入らない魔の森へ行こう。
転生特典か、魔法は使えないけど、生成スキルを得ていた。作りたいものを頭に思い浮かべると必要材料が表示される。材料さえあれば何でも作れるという便利スキルだ。
翌朝、素知らぬ顔で畑仕事を手伝い、終わったらこっそり野原で生成スキルを使って土から槍を作り出して、野兎を狩る。皮でしっかりした靴とカバンを作り、肉は干し肉にして、胃袋で水筒を作った。
夜中、母屋の灯りが消えた時に、そっと出ていく。三男の俺の寝床は納屋だから抜け出しやすい。
俺を売ろうとした親からも2人の兄からも殴られたり蹴られたりサンドバック扱いだったから、未練はない。
魔の森まで子どもの足で二日、森に続く川沿いに必死で歩く。
近隣の村や町とは逆方向だし、わざわざ命が惜しいと思う人間が魔の森に行くなんて考えないだろう。
へろへろで魔の森に着いた後、川沿いに1歩1歩進む。
魔物の気配はしない。魔の森と呼ばれているけど、魔素が少し多いだけ、魔物が少し多いだけの普通の森だと自分に言い聞かせて奥へ歩いて行く。
冒険者に登録できるのは10歳からだ。あと3年ここで生き延びよう。
川に近い場所で良さげな洞窟を見つけ家に改造した。
倒木を使ってテーブルや椅子を作る。誰かが落としたのか朽ちた鍋を新品の鍋に作り直す。キノコや野草を食べられる料理に生成する。そう、毒キノコだろうが、人が食べることができる料理へと生成すれば毒が消えるのだ。便利なスキル!
住処の洞窟の周辺を探索する。もう少し森の奥へと入ると亡くなった冒険者の死体と出会った。もう白骨化していたので怖くはない。
近くに錆びた剣と小銭が落ちていた。冒険者タグもあった。
地面に手をついてお墓を生成する。その中に白骨を納め、土を被せて祈っておく。
安らかにお眠りください。
死体からいただいたぼろぼろの服や皮の防具もそのままじゃ使えないものを材料に自分の冒険者っぽい服や防具を作る。剣も新品に作り直した。
冒険者タグはいつか自分が冒険者になった時にギルドに提出しよう。
こうして1年ぐらい過ぎた頃、森に子どもが倒れていた。
赤毛で品のいい服を着ている、お貴族様か。年は同じぐらいか、手の平には剣だこがある。
ちゃんと稽古してきた手だ。騎士の子なのか。
でも、何故、この魔の森のこんな奥で倒れている?
抱きかかえて、水を飲ませる。
「う、うううん・・・。」
「大丈夫か。」
「ああ、だいじょうぶ・・・。ここは?おれは?」
「ここは魔の森だ。おまえ自分のことわからないのか?」
「お、俺?わ、わからない。俺・・・。何もわからない。何故ここにいるのかも・・・。」
「記憶喪失か、困ったな。わからなければ家に帰られないな。どうする?俺の家に来るか?」
「悪い、行ってもいいか?」
「いいよ。久しぶりに人と話すのは俺も嬉しい。」
俺の住処の洞窟に案内すると、彼はきょろきょろと興味深く周りを見ていた。
「なぁ、一般的なことは記憶があるのか?」
「ああ、これがテーブルでこっちが椅子だっていうことはわかる。俺と俺に関係することがわからない。俺が誰なのか。どこから来たのか、どこに住んでいたのかとか全くわからない。」
「そうか、じゃ、名前も思い出せないか?」
「名前・・・。わ、わからない・・・。」
「そうか、じゃ、名前なしだと不便だから俺が適当につけていいか。それとも自分でつけるか?」
「んー。おまえがつけてくれ。」
「そうか、じゃ、綺麗な赤毛だよね。ルーファスでどうだ、赤毛っていう意味なんだけど。」
「ルーファスか、いいぞ。それで。」
「そうか、俺はエリオだ。」
「エリオ、よろしく。」
「おお、早く記憶喪失治るといいな。しばらくは俺の家にいるといい。」
「なぁ。エリオ、お前って家出中か?魔の森の洞窟が我が家っていうのは普通じゃないって記憶のない俺でもわかる。」
ルーファスに売られそうになって逃げてきた話を聞かせたところ、かなり同情してもらった。
そしてこの森に1年も暮らしていることに驚かれた。
まぁスキルがあるからどうにかなったんだよね。
魔物が出ても、地面に手を置けば土の槍が地面から生えてあっという間に殺せる。
死体を材料にご飯も必要なものも生成できる。このスキルが無かったらさすがにヤバかったな。ルーファスにスキルの話をしたら羨ましがられた。
ルーファスのスキルはわからない。自分のことは全部わからないんだ。
ルーファスはかなり質の良い服を着ている。
この服だけで俺の実家だと数年は暮らせそうだ。
ルーファスはきっとお貴族様だ。
何かの陰謀に巻き込まれたのかもしれない。
この服は記憶が戻ったら家に帰る時に必要だろう。俺が作った冒険者風の服に着替えてもらった。着ていた服は洞窟の奥にとりあえず保管だ。
風呂もトイレも洞窟の隣に作っているのを知って、更に驚かれてしまった。
お貴族様で1人で何もできないルーファスと一緒に魔道具で水を入れ、魔道具で沸かしたお風呂に入り、一緒に髪を洗い、一緒にご飯を作り、ルーファスと俺はとにかく一緒に生きていくことにした。
ルーファスはお家騒動に巻き込まれのかもしれないから、やつの記憶が戻るまで危なくて森から出て行く気になれなかった。
ルーファスは剣を使い慣れていたから、俺の作った剣はルーファスに預けた。
2人で森の中を探検する。木の実を探し、ビックボアを倒し、魔物から取れた魔石で魔道具を作り、風呂に入り、時には馬鹿みたいに笑ったり歌ったりしてみた。
前世35歳だったのに、今は8歳だ。逃げて1か月ぐらいは追手が来ないか常に緊張していた。ようやく1年経ってもう大丈夫だろう、それでも魔の森だ。慎重に生活しているけど、ルーファスが一緒にいると馬鹿なこともやってみたくなるのだ。
川で魚取り。
「エリオ!魚が逃げる!!」
「魚は普通逃げるんだよ!ルーファス、俺のスキルで魚を囲ったぞ!」
「おう、取った!!!」
「ルーファスやったな。」
川遊びは食料調達だったけど、ルーファスははしゃぎながら手伝ってくれた。
大型の魔獣と戦う。
ルーファスの剣の腕前は凄い。
何度も一緒に戦えば連携も上手くいくようになった。
ぴったり息の合う連携が出来た時、ルーファスに拳を向ける。最初何のことかわからなかったルーファスだったが、拳を出すんだよと言うと「俺たちの勝ちだな。」と拳と拳をぶつけ合い互いに笑い合い勝利を喜ぶ仕草も息が合うようになってきた。
「エリオはここに1人で1年も暮らしてきて寂しくなかったのか。」
「寂しいかと言われたら寂しい時もあったよ。でも、ここには自由がある。俺はもう搾取されて生きていきたくなかったんだ。」
「さくしゅ?とはどんな意味だ。」
「自分の利益を他人に奪い取られることかな。」
「エリオは農民だって言っていたのに、時々難しい言葉を話す。おまえ変なやつだな。」
薬草のスープと干し肉を齧りながらルーファスは笑う。
「ルーファスおまえこそ、どこかのお貴族様だったと思うのに、この生活に馴染み過ぎだ。」
「いや、俺もよくわからないけど、エリオと2人暮らしは悪くないな。」
「お互い様だな。」
「おう。」
実家でも、ほぼ放置の1人だったから、森で1人で暮らすことに抵抗はなかった。
前世もずっと1人だったしな。でも、ルーファスと出会い、2人で他愛のない話をする。
一緒に戦う。一緒に喜び合うことが心地よくなってきた・・・。
ルーファスはお貴族様、記憶が戻れば住む世界が違うのだ。
ある日の夜、星を見ながらルーファスが言う
「俺、記憶ないけど、これだけの星空見たことなかったと思う。凄いな星。記憶、俺、記憶戻るかな。」
「大丈夫だ、きっと大丈夫だ。」
「なぁ、エリオ、記憶が戻っても俺と友達でいてくれるか?」
「ああ、ずっと友達だよ。」
言った後、胸がちくりとした。本当にルーファスの記憶が戻っても友達でいられるんだろうか。
「そうか、エリオはずっと友達だな。」
不安げな幼い顔をするルーファスを励まし、背中をとんとんしてやる。こいつはまだ小さい幼子だ。俺がしっかりしないと。
俺がしっかりしないと、俺がお兄ちゃんだと思いながらも、俺が鼻歌でつい歌ってしまう、ニチアサヒーローの曲を、ルーファスも覚えて一緒に歌う。
前世は35歳なのに精神年齢はルーファスと同じなんだろうか。少し自己嫌悪に陥るが、楽しそうにニチアサヒーローの歌を歌うルーファスについ笑ってしまう。
記憶が戻ったらルーファスとは縁が切れる。だから今だけだと思い込みながら過ごす毎日。
ルーファスと一緒に暮らしだして1か月ぐらい経った、ある日、森の気配がおかしい。
2人で気をつけてその方向に進むと、タイラントベアが人に襲いかかっているところに出くわした。ルーファスが剣を構え飛び上がる、俺は地面に手をつき土を槍に変える。
ばしゅっ!!
ルーファスに切られ、俺の土の槍に貫かれたタイラントベアがどさっと倒れた。
「やった!」
「おう!」
「俺たちの勝利だな。」
いつものように2人で互いの拳をこつんと当てる。
「おっさん、大丈夫か?」
腰を抜かしたのか、普通の装備の中年男性がへたり座り込んでいる。
「こんなところに子どもが2人?ああ、君たちのお陰で助かった。」
「なんでこんなところへ?」
「娘の熱が下がらなくて、魔の森にしかない薬草を探しにきたのだ。」
男性が手に持っていた薬草を見せてくれる。ああ、これなら森にたくさん生えているやつだ。薬になるのか。生えている薬草をぶちぶち取ると、生成スキルで薬を作ってみた。
「これを娘さんに。たぶん病気治ると思う。」
目をまんまるにした男性が俺の顔と薬を何度も見て、
「あ、ありがとう。娘に飲ませてみる。君たちはどうする?うちに来るか?一緒に来てもらえると助かる。早く娘のところへ行きたいが、またベアが出たらどうなるかわからない。すまない。どうだろう。」
拝むようにお願いされてしまい、ルーファスと顔を見合わせて仕方がないなと一緒に行くことにした。もちろん倒したタイラントベアは皮と肉と爪、魔石と生成加工をしてからだけどね。
中年の男性はガレスと言う名で町に住む商人だと言う。娘さんは15歳でガレスは36歳らしい、えー。前世の俺、35歳だった、記憶が戻ってから1年経ったからガレスと同じ年?えー。こっちの人は老けて見える?日本人は若く見えるっていうやつ?それとも前世の俺はおじさんだったのか?!
ガレスはしっかり中年男性に見える・・・ああ。
変なところでショックをうけつつ、休み休み森の中を歩いていく。
ガレスは俺より濃い茶色の髪と緑かかった茶色の瞳だ。俺の髪は茶色というよりぱさぱさの麦わら色だ。目は普通の茶色。ルーファスは燃えるような赤色の髪に黄金色の瞳だ。高貴な感じがひしひしと伝わってくる。やっぱりついて行くのは森の端までにしよう。
ガレスの住む町の近くの森の端まで案内した。
「本当に家に来ないのか?」
「俺たちはいい。早く娘さんのところへ帰ってやれ。」
「ああ。わかった。君たちありがとう。ルーファス、君は記憶喪失だと言ったね、言うか言うまいか悩んだけど、君たちは命の恩人だ。ルーファスはこの国のシドニアン第一王子殿下に似ていると思う。絵姿を見たことがある。殿下は魔の森で魔物と戦って死亡したとお触れが出ていた。1か月前だ。王宮には近寄らない方がいい。気をつけて。」
そう言うと、ガレスは何度も俺たちに振り返りながら、町へと帰っていった。
うん。第一王子殿下?ルーファスが?魔物と戦って死亡したと?なんですとー!!
ルーファスは自分事ではない感じだ。淡々とそうかっていう感じ。
俺は怒った。ルーファスを魔の森に捨てた誰かを、陰謀を!!
こんな可愛い子を殺そうとしたやつがいる!信じられない!!
ああ、それでいけば、ルーファスの記憶喪失は故意によるものかもしれない。だったら俺の生成スキルでなんとかなるかもしれない。
森に生えている薬草を片っ端から薬にしてみて、飲ませてみた。めちゃくちゃ嫌がられた。薬で記憶喪失になったわけじゃないのか、じゃ、ベアから取った魔石で呪いを解く魔道具を作ってみた。あ、ルーファスの体が光る。魔道具が反応している。
「エ、エリオ、俺の体、光っているぞ!なんだ!!」
おお、光っているね。ルーファス。
ルーファスの体を纏っていた光が一か所にぎゅーっと集まったかなと思ったら、どこかへ飛んでいった。へー。って思ってみていたら、ルーファスが倒れた!
「ルーファス!大丈夫か!!!」
「お、俺、シドニアンだ。エリオ全部思い出せた!」
「やった!ルーファス、あ、シドニアンか、良かったな。」
「エリオ、おまえの前ではルーファスでいい。全部思い出せたから、すぐに戻れない。」
「陰謀か?」
「ああ、側妃だろうな。側妃に第二王子がいる。俺が死んだことになっているのであれば、あれが王太子になるか。まだ7歳だけどな。」
「ルーファスは俺と同じぐらいなら8歳か?王子が産まれているのに、何故側妃がいるんだ?」
「俺も7歳だ。エリオは農民だった割には結構鋭いな。側妃は宰相の娘だ。俺の母は隣国の王女だ。隣国に力を与え過ぎてはてはいけない、国のためだと宰相が言い張ったらしい。父上は宰相に言いくるめられている。あやつが俺を殺そうとしたのであれば、父上も目が覚めるかもしれない。」
「そうか、じゃ、王宮へ行くか、でも、陛下に会うまでに、子ども2人だと途中で敵に見つかり拉致監禁更に暗殺される可能性はあるな。何か作戦を立てないとな。」
「おう、俺も殺されかけたからここは譲れない。俺は必ず戻る!」
「よし、こうなったら魔の森で材料を探そう。」
俺たちは魔の森の奥へ探検に行く。王のところまで無事にたどり着く必要がある。俺の生成スキルは欲しいものを思い浮かべるとその材料がわかる。今欲しいのは姿隠しのマント、認識阻害のチャーム、自白薬か。
ばしゅっ!
ルーファスの剣で切る音がしてゴールデンスネークが倒れる。
「やった!」
「おう!」
いつものように二人で互いの拳を当てて勝利を喜ぶ。
材料のひとつを手に入れた。これで後1個手に入れればすべての材料は揃う。魔の森は人が入らない分、素材が豊富だ。ルーファスと一緒に一個ずつ採取に討伐と頑張った。
奥の方の洞窟には水晶がぎっちり生えていたのを見つけていくつか材料として採取した。水晶が洞窟中に生えているのは美しいし、お金になりそうちゃんと場所は覚えておかないと、少し遠出した際には、魔の森とは思えないほど清らかな泉もあった。泉のほとりで黄金のりんごみたいな木の実を見つけて、ルーファスと一緒に食べた。旨いなって互いに笑い合った。ルーファスは品はいいけど、そこら辺のやんちゃな男の子と一緒だ。いつの間にか木にも登れるようになった。
王宮に戻ったらルーファスと一緒にいるのも終わりだ。
俺は10歳になるまで、ここでまた1人で暮らしていくことになる。
寂しくない、前世35歳だったんだ。
それより、俺の隣ですうすう寝ているルーファスは正真正銘まだたった7歳の子どもなんだ。早く両親のもとに戻してやりたい。
2人で必死で集めた材料をもとに生成する。姿隠しのマントはインヴィジブルカメレオンという魔物の皮と水晶を材料にしている。魔物は透明化してくるので大変だった。目を瞑ったルーファスが気配で倒していた。7歳なのにルーファスの剣の腕前は凄い。
生成スキルで物を作り上げるたびに、ルーファスがキラキラした目で見つめてくる。材料があっと言う間に物になるのは面白いしな。
「エリオおまえ凄いな!」と褒められるとちょっと嬉しい。実家でも前世でも出来て当たり前、出来ない時は暴言に暴力、前世はサービス残業だった。
自分の仕事が褒められるっていつぶりなんだろう。ルーファスの素直な賞賛に心が温かくなる。こいつは絶対俺が守ってやる。
さぁ。準備は出来た。王宮へ行こう。
ルーファスは最初に着ていたお貴族様の服を着る。その上に姿隠しのマントに認識阻害のチャームを付ける。互いに、少し離れただけでわからなくなるなと確認できたので、手を繋いで進むことにした。
王都へ向かう荷馬車の後ろに隠れて乗り、こっそり門をくぐり、王城に着いてからはルーファスが先導する。
慎重に1歩ずつ気をつけて、とうとう父王の自室に忍び込んだ。ごっそりやつれている中年男性が王なんだろうか。
姿隠しのマントと認識阻害のチャームを外したルーファスが王に抱き着きに行った。
「父上!!!」
「な、な、そなたはシドニアン!!魔の森で亡くなったのではないのか!シドニアン!!」
お貴族様の家族はもっと繋がりが薄いかなと思っていたけど、王はしっかりルーファスを抱きしめている。泣きながら抱き続ける姿を見ていると胸が苦しくなる。いいな。俺はこっちの両親から一度も抱きしめられたことがない。売られる寸前だったしな。ルーファスがちょっと羨ましい。呪われて殺されかけだったけどな。
「シドニアン、そなた、どうして、ここに!?」
ルーファスが今までのことを全部王に話した。魔の森の奥で倒れていたこと。呪われて記憶喪失になっていたこと。俺のスキルで呪いが解除されたこと。姿隠しのマントと認識阻害のチャームで、ここまで忍び込んだことを。
「そうか、生きていてくれて良かった。本当に良かった!!!でも、そなたは、魔の森の魔物を倒したいと我儘を言って勝手に森の奥へ行って魔物に襲われて死んでしまったと騎士団長から報告があったのだ。何故魔物を倒したいと言ったのかわからないまま死体もなく死んだと告げられた。妃はその日から寝込んでいる。」
「父上、俺は自分の部屋で寝ていて、起きたら、記憶を喪って魔の森で目が覚めました。記憶喪失は呪いでした。」
「そうか、敵は多いな。」
「あ、あのー。ここに自白薬があります。これを飲めば、嘘はつけません。」
「なぬ。本当か!」
「父上、信じて下さい。エリオの作るものはすべて本物です。こいつは凄いのです。俺はエリオに助けられました。俺がここにいるのはエリオがいたからです。」
「そうか、息子を助けてくれて感謝する。その自白薬を使わせてもらおう。」
王が信頼できる側近を、こっそり呼び出し作戦を立てる。明後日、弟の第二王子殿下を王太子指名する祝宴が開催されるので、その時に陰謀を暴き決着をつけるらしい。
後は大人に任せた。ルーファスと過ごす夜も後少しだ。
「エリオ、俺のスキルも思い出したぞ。剣豪だ。俺が魔物を倒し続け、おまえが物を作り続ける。そんな関係がずっと続くと良いな。」
にこにこ笑うルーファスは明後日、シドニアンに戻るのに。
俺とルーファスは王宮の客間に隠されながら過ごした。その間、竹とんぼを作り、ビー玉を作り、ベイゴマを作り、2人でずっと遊び続けた。
決戦の当日、俺は客間に残った。ルーファスはどこから見ても高貴なお貴族様の恰好をしている。王子様だものな。
「エリオ。行ってくる。決着つけてくる!」
「ああ、ルーファスなら大丈夫だ。終わったら勝利を喜び合おう。」
凛々しいルーファスの後姿を見ながら、魔の森に戻るか、王都で魔道具技師として生きていくかどうしようかと思案していた。材料さえあればどんな複雑な魔道具でも作ることができる。前世の知識があればあっと言う間に金儲け出来るだろう。ただ8歳で商売をするのは難しいだろう。そこは王家に後ろ盾になってもらうか。
そんなこと考えながら、なかなか戻ってこないルーファスのことを案じていた。
決戦の日から、10日後、決着をつけたルーファスと王から話を聞くことができた。
「エリオ、待たせて済まなかった。後片付けが大変だったんだ。」
祝宴の乾杯のお酒に入れた俺が作った無味無臭の自白剤のお陰で、宰相のたくらみがすべて暴かれたそうだ。
側妃と騎士団長は元は婚約者同士で、宰相の父から王の側妃になれと言われ、泣く泣く別れたが、裏で繋がったままで、第二王子殿下は騎士団長の子だったそうだ。
騎士団長はそれを宰相に知られ黙って指示に従うしかなかったそうだ。魔の森でルーファスにとどめを刺せなかったのは、騎士団長の良心だったのかもしれない。
ルーファスを呪った呪術師は呪い返しですべてのことを忘れてしまっているそうだ。もう呪術をかけることはできないだろう。悪いことは出来ないものだ。
宰相は自分がこの国のトップになり、国を動かしたいと思っていたそうだ。娘も孫もその駒のひとつだった。
盛大に国中の貴族が集まった祝宴で、王に問われ自ら罪を暴露した宰相は現在地下牢にいるらしい。国家反逆罪で処刑だろう。
側妃と騎士団長と弟の処分をどうするのかが、結構議論が白熱したらしい。全員処刑、騎士団長が処刑、側妃と弟は修道院等。
結果、被害者のルーファスが傷一つなく戻ってきたこと、騎士団長も側妃も宰相に脅されていたこと、弟は何も罪がないことを勘案して、騎士団長と側妃と弟は辺境に送られ、防衛の前線に立つ約束をされた。家族で一緒に住めるだけで御の字だろう。
そして、ルーファス、いや、シドニアン王子殿下と俺の今後については、
「エリオ、俺の学友として傍にいてくれ。おまえがいないと寂しい。」
「へ?」
「父上と母上からの了解は取った!母上も起き上がれるようになったから会いに行った。エリオ、おまえは賢い。優秀だ。貧乏農家の息子だと思えないぐらいだ。魔の森の毎日は刺激に満ちて、それでいて安心して暮らすことができた。全部おまえのお陰だ。おまえと出会えていなかったら俺は死んでいた。俺は自分の恩人に不義理はしたくない。」
「お、俺は・・・。」
「おまえが搾取されることを怖がっていることは知っている。だから俺はおまえを搾取したりしない。一緒に学ぼう。」
俺が学友?王宮で暮らす?ルーファスと離れるのは確かに寂しい。魔の森で、また1人で暮らしていくのも確かに厳しいし辛いし寂しい。じゃこの話に飛びついていいのか?俺の自由はどうなんだろう???
「エリオはまだ8歳だ、1人暮らしに戻るのは、もう少し大きくなってからでいいんじゃないか。」
あ、そうか、精神年齢は35歳だけど、エリオはたった8歳だ。甘えてもいいか。10歳になれば冒険者に登録できるし、それから今後を考えてもいいか。
「わかった。とりあえず10歳まで世話になる。」
「エリオ、おまえは俺を利用しない。俺が王子だってわかっても、今までどおりでいてくれた。俺たちはずっと友達でいたい。これからもよろしくな!」
ルーファスが拳を向けてきた。
「ああ、こっちこそよろしく!」
互いの拳をぶつける。
にかっと笑ったルーファスが眩しい。絶対信頼をされ俺は前世を思い出して初めて心から許せる人を見つけた。
この後、ずっと俺たちは友達でいた。ルーファスはずっと俺が搾取されないように動いてくれた。
俺はルーファスが今後暗殺されたり誘拐されないようにがっつり魔道具を作った。何かあったら、ルーファスの周りに結界ができる優れものだ。いい仕事した俺。
ルーファスは健やかに成長し、婚約者の公爵令嬢と結婚し、立派な王になった。庶民のことも心を配れる優しくて強い王になった。
俺はルーファスの友達だ。側近でも従者でもなく、ただの友達。
15歳まであらゆる勉強を一緒にさせてもらった。
読み書きから、ルーファスの苦手な歴史、地理、法律、礼儀作法の勉強をし、時々剣豪のルーファスから剣術を教えてもらい、乗馬も教えてもらった。時には一緒にニチアサヒーローの歌を歌い、それが他の人にばれて赤面したり、時々魔の森に行って魔物の討伐もした。
10歳まで世話になるという話だったけど、ルーファスが王都の学園に行く15歳まで世話になった。さすがに庶民で学園に行くのは断った。
その代わり15歳になったら王都で魔道具の店を出した。いきなり王家御用達だ。ルーファスの暴走がわかってくれるだろうか。
7歳と8歳で一緒に暮らした魔の森での数か月間。互いの命を背中に預け生きてきた。
俺たちは誰にも言えないぐらい強い絆が出来た。
俺たちはずっと友達だよ。
何かあったら一番に駆け付けるよ。
緊急連絡ブザーとGPSを仕込んでいる腕輪をプレゼントした、仕込んだことはやつには内緒だ。
君がずっと幸せでありますように。
あの時森で君に会えて良かった。会えたのが君で良かったよ。
終




