⑥
「何でもないです。荷箱にお忘れ物ないか確認してください」
声をかけると、女子レスラー見習いが荷箱をあげてポンと輪ゴムで束ねた札束を投げ込んだ。
そして「ありがとうございました!」と叫びまた一礼すると、体育館へと消えていった。
ぼんやりとその背中を見送る。
悪くない時間だった。あの筋肉質な肉体と、おそらく代謝のなせる熱。そして特有の匂い、クラッチの締め付け。
あの緊張と興奮は思ったより整ってしまう。
遠目に見えた警備員が来る前に、おれは総合体育館を後にした。
その後も何人かの若くて綺麗で不機嫌じゃないシラフの金払いが良い女の人を運んだが、誰もが細い腕だったしクラッチは緩く、ひたすらに甘い匂いの香水がキツかった。
後ろに乗っているのか、ちゃんと捕まっているのかすら不安になる事すらあった。
日曜日の夕方になると注文は途切れがちになる。
おれは自宅に戻る前に、もう日課となってしまった例のお社に立ち寄り、何を言うかぼんやりと考えていた。
再び「若くて綺麗で不機嫌じゃないシラフの金払いが良い女の人をお願いします」と言ったところで、また彼女らに会える訳ではないだろう。
しかし具体的にお願いするには、お供え物として出せる彼女の物は何も無い。
だいたい、おれは彼女らに会いたいのかも分からない。
顔もよく覚えていないし、急進的な団体に所属している女子レスラーであること以外は何も知らない。
雑誌を探せば、インタビュー記事などから生年月日や本名、出身地が分かるかも知れない。
しかし。
そうじゃない。
おれはコンビニで履歴書を買って、お社に手を合わせた。




