⑤
乗り逃げか?
そこらへんのサラリーマンなら「待てよ」とタックルでもして転ばせるが、相手がプロとなるとそうもいかない。
……などと頭の中で言い訳しながらその背中を見送ることしかできなきった。
考えてみればこういうのは案外と初めてで、これをきっかけに乗り逃げの対処を考えてみても良い気がする。
それにしてもやられたものは仕方ない。
若くて綺麗で不機嫌じゃないシラフの金払いが良い女の人、などと言う数え役満みたいな願いをしたおれが悪いのだ。
神様だって取りこぼしがある。
諦めてバイクのエンジンをかけた瞬間だった。
「待って下さい!!」
体育館の方からジャージを着た別の若い女が猛然と走ってきた。
呆気に取られているおれから半ヘルを奪うと、タンデムシートに座って「さっきのとこまで戻って下さい!早く!」と叫んだ。
あまりの勢いにおれはウィリー気味の発進をしつつ話を聞いた。
「どうされました?」
「先輩がコスチューム忘れたんです!」
それは一大事だ。たぶん後輩の彼女はそれを取りに戻らされたのだろう。
おれは法定速度+20kmをギリギリ越えないあたりで走りつつ来た道を大急ぎで戻った。
さっきの先輩女子レスラーを拾った地点に着くやいなや、タンデムの後輩ジャージレスラーは半ヘルも脱がずにマンションに駆け込み、おれが煙草を吸い切る前に戻って「出して下さい!」と言いながら再びタンデムシートに座った。
パシらされているから恐らくかなりの若手だ。新入りかも知れないが、信用されているのだろう。
しかし相変わらずおれより筋肉質で、何ならさっきの女子レスラーよりクラッチがキツい。緊張か焦りか、力加減が甘いのだ。
痛みによる緊張と、なんか良い匂いの興奮を何とか制御しつつ、おれは再び総合体育館まで戻った。
「ありがとうございます!助かりました!」
女子レスラー見習いはバイクを降りると、半ヘルを脱いで直角に頭を下げた。
さすが、こう言うところはしっかり教育されているらしい。
「またお願いしますね」
クラッチは弱めがいいです、と言うと女子レスラー見習いは不思議そうな顔を上げた。




