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吾輩は戦術家である。無謀に勝機は無い。

拙い文章かもしれませんが、読んでいただければ幸いです。


感想や評価などもいただければ励みになります。

 今回の依頼は、帝国国境付近に位置する『忘却の峡谷』の防衛であった。敵は、死霊術師(ネクロマンサー)に率いられたスケルトンの大軍。数は約3000体。対する我ら守備隊は、わずか50名。約60倍の絶望的な戦力差である。


 だが、戦場の勝者は数の差だけで決まるものではない。重要な要素ではあっても、絶対的な要素ではないということである。地形は典型的なボトルネック。V字型に切り立った岩壁の間、幅十メートルほどの狭路が、敵の進軍ルートとなっている。


「いいか、野郎ども! ここを抜かれたら後ろの村は終わりだ!

 タンク、お前は入り口のど真ん中で踏ん張れ。俺たちが横から一気に叩く!」


 アルスの作戦は、相変わらずの「脳筋」であった。吾輩は、峡谷の入り口、風が最も強く吹き抜ける場所に陣取った。まず行うべきは「視界」の確保である。


 吾輩は腰のポーチから、魔力を帯びた小石――『哨戒石』を取り出し、周囲の死角となる岩陰に配置した。これによって、敵の伏兵が回り込む予兆を、戦場の霧の向こうから察知できる。


「視界、良好である。敵の先鋒は重装歩兵。ふむ、物理防御に特化しているな。

 メイジ、準備を。敵が足を止める瞬間に範囲魔法を落としてくれ。」


「1秒のズレも許さぬぞ。

 君の魔法がこの戦場に与える影響はとても大きいのだからな。」


 やがて、闇の向こうから骨の軋む嫌な音が聞こえてきた。峡谷の奥を埋め尽くす白骨の波。その圧倒的な圧力を前に、背後の新米兵士たちが震えるのがわかった。


「来るぞ……。おい、タンク! 本当に止められるんだろうな!」



「安心したまえ。吾輩の想定では、この狭路において敵の同時接触数は最大6。

 それ以上の圧力は地形が吸収する。」


「吾輩のHPが5割を切るまでには、最短でも30分はかかる計算だ。

 それまでに、君がその震える足で逃げ出さないことを祈っている」


 最初の波が、吾輩の盾に激突した。ドォン、という重低音が峡谷に響く。吾輩は左足を半歩引き、盾の角度を十五度傾けた。正面から受けるのではなく、衝撃を地面へと逃がす。


 防御において最も重要なのは、防御力そのものではなく、敵の攻撃の『ベクトル』をいかに逸らすかにある。このベクトルさえ意識できれば、ただ防御するときと比較して負担は3割軽減される。


 同時に、腹の底から「挑発」の叫びを上げた。敵のスケルトンたちの虚ろな眼窩に、赤い光が宿る。彼らの本能が、最優先排除対象として吾輩を認識した。


「さあ、殴るが良い。生を欲する亡者よ。

 君たちの無意味な攻撃が、吾輩の防具を磨いてくれるのだよ。」


「もっとも、君たちに美醜という概念があればの話だがね」




 戦況は、しばらくの間、吾輩の描いたシナリオ通りに推移した。吾輩が敵を引き付け、その隙に後方のメイジが魔法を叩き込む。アルスたち前衛職は、吾輩の盾の陰から飛び出し、体勢を崩した敵を確実に仕留めていく。


 これこそが「集団戦」の理想形。吾輩が作り出した「秩序」の中で、味方が「破壊」を享受する。これほど合理的で、これほど美しい方程式が他にあるだろうか。


 だが、敵の指揮官もさるものである。死霊術師は、こちらの前線が強固であると見るや、波状攻撃を一時停止させた。そして、数名の精鋭スケルトン・ナイトを一点に投入してきた。いわゆる『フォーカス攻撃』だ。


「ほう、多少は頭を使う者が混じっているようだな。だが、遅い」


 吾輩は装備の切り替えを行った。盾の裏側に仕込んだ『重力子の核』を起動させる。これにより、吾輩の体重は一時的に3倍へと増加し、ノックバック耐性を極限まで高める。


 激突。鋼の骨と氷晶鉄が火花を散らす。敵のアタッカーが吾輩を突破しようと焦りに似た「乱れ」を見せる。その乱れこそが、吾輩が最も好む獲物だ。


 しかし、戦場には常に「不確定要素」が付きまとう。


「よし、いけるぞ! 敵の前線が崩れた!

 全員、追撃だ!奥にいる死霊術師を直接叩くぞ!」


 アルスが、吾輩の静止を待たずに盾の影から飛び出した。


「止まれ! アルス殿! 敵の死霊術師はまだ強力な拘束魔法を温存している!

 今出るのは、自ら罠に飛び込むようなものだ!」


「うるせえ! 逃がしたら元も子もねえだろうが!

 タンクなら黙ってついて来い!」


 吾輩の脳内の計算機が、激しく警告音を鳴らす。アルスが飛び出した先は、敵の遠距離攻撃が集中する場所である。案の定、岩陰から巨大な骨の鎖が飛び出し、無防備なアルスの四肢を絡めとった。


「なっ、体が動かねえ……!? クソ、この鎖、魔法耐性を吸い取ってやがる!」


 そこへ、奥に控えていた死霊術師が、禍々しい黒炎を凝縮させ始める。最大級の単体攻撃魔法。まともに受ければ、防御力の薄い戦士のHPなど一瞬で霧散し、文字通りの塵と化すだろう。


 吾輩は一瞬、冷徹な2択を迫られた。


 1.アルスを見捨て、後方の支援職とメイジを連れて第二防衛線まで撤退する。

 この場合、アルスは死亡するが、残りのメンバーの生存率は8割を維持できる。


 2.アルスを救うため、間に割って入り吾輩が敵の魔法を肩代わりする。

 この場合、本来逃走用にとっておくべき魔法的な跳躍「瞬間移動」を使用しなければ、時間的に間に合わない。吾輩のデス率は急上昇し、全滅のリスクを伴う。


 吾輩は、迷わず前者を選ぼうとした。無謀な戦士1人のためにタンクのリソースを捨てるのは、戦術的な「損失」だからである。しかし、吾輩の視界の端に、必死にアルスへ回復魔法を飛ばし続けている新米支援職の姿が映った。


 彼女は恐怖に顔を引き攣らせながらも、自分の役割に殉じていた。タンクが維持している戦線を信じ、最後まで味方を支えようとしていた。


「……やれやれ。吾輩としたことが、計算式に『情』という不確定要素を混ぜてしまうとは、耄碌したのである」


 吾輩は自らの意志で、生存確率の低い「最適解の外」へ踏み出した。

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