第8話
僕に剣や魔法を教えてくれたのはメイドの1人でシェラと言う。
シェラは濡れたような黒髪で、少々釣り目だがその瞳に見つめられると男女問わず魅了されてしまうようなまさに魔性の美女に相応しい美女だ。
1年前、冒険に出るまではいつもシェラから剣と魔法の稽古をつけてもらっていた。
シェラは剣の技術がかなり高く、僕が傷つかないギリギリのところで攻撃をしかけ、実戦さながらの稽古をいつもつけてくれた。
また魔力の修行もつけてくれた。
きつかったが、それよりも強くなりたいという気持ちのほうが強かったのだ。
だから修行の辛さに根をあげた覚えはない。
おかげでこう見えても、僕は強いとそれなりに自負していた。
しかし、冒険者時代のパーティの中では僕は剣の腕も魔法の力も1番ではなかった。
回復魔法も使えたが、聖女がいたのでそちらの方が当然上だった。
しかしそれでも腐らず支援魔法や生活魔法も覚えていったが、結局、器用貧乏で終わってしまったように思う。
なぜ、こんな話をしたかと言うと、実はブルー王国が他国と戦争をするかもしれない事態が起き、僕もその戦争に参加することになったからだ。
とりあえず部隊を派遣し、互いに様子を見るらしいが、戦争は戦争だ。
身の危険はあるだろう。
この危険な任務に、僕が警備隊からの代表で百人隊の隊長の1人として派遣されることに決まったのだ。
僕はまだ入ってそれほども経っておらず年も若いが、腕はそれなりに認められているらしくて百人隊長の1人として選ばれたらしい。
あと平民ということも関係しているそうだけど。
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ダン先輩は僕の方をまともに見ず目を伏せて、
「すまねぇ・・・・後輩のお前に責任を押し付けるような真似をしちまって・・・」
それを聞いた僕は努めて明るく、
「気にしないでくださいダン先輩。むしろ嬉しいですよ。戦争に行って皆さんがどうかなるぐらいなら、まだ僕が行ったほうがマシです」
ダン先輩には今年産まれたばかりの子供がいる。
危険な戦争に派遣はされたくなかったであろう。
警備隊の本部でその発表があったとき、隊のみんなは口々に謝罪の言葉をかけ、僕を気にかけてくれた。もちろんダン先輩も。
3日後に部隊は王都を出発する予定なので、僕は準備をするために家へ帰った。
家につくと、まずはエクレアに事情を話すことにした。
するとエクレアから、隊を率いる長ともなればそれなりの経験がいることを諭され、5人のメイドのうちから1人を従者として連れて行くように懇願された。
僕も隊長として隊を率いるにはある程度の経験値が必要になるだろうと思う。
それなのに経験のない僕が仮にも王国の国民100人を預かるのだから、頼りになる従者を連れて行きたいという気持ちはあった。
おそらく5人のメイドの誰を選んでも経験豊富だろう。
だから僕は、5人のメイドに、
「こちらこそお願いするよ。どうか僕を守って欲しい」
そして熟慮の末、僕は戦闘面でも頼もしいシェラを従者として連れて行くことに決めたのだ。
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ブルー王国の王宮、執務室にて。
執務室でブルー王国の国王と大臣が会議をしている。報告を聞いた国王が、
「その話はまじか!?」
第一大臣のブーゲンビリア公爵が、少し諦めた様子で
「マジでございますぞ陛下。あと、声大きいいし、言葉が悪いです」
しかしその言葉を無視して国王が、
「せっかく序列5位から3位に昇格した記念式典を計画中であったのに、このようなくそ面倒なことをふっかけてきおってからに」
とぶつくさいう。
「ホントにあの国はロクでもない国じゃ。なんせ前国王がアレ過ぎて上の連中から〇〇〇で×××なもんで、国民まで△△△じゃからな」
と悪口のオンパレード。【聞くに堪えない暴言なので自主規制しました】
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相変わらずこの国の大臣たちは口がきたないなとため息をつきながら、近衛騎士団長ガーネットは国王陛下と大臣の様子を見ていた。
近衛騎士の本分は王族の護衛である。
ゆえに団長たるガーネットもこの執務室で護衛をしているのであるがこの国の王族や大臣たちは総じて口が悪い。
しかし、まあ今度の件ではそんな気取っていられるような事態ではないか。
ガーネットはことの起こりである隣国コーラル王国とのトラブルについてまとめてみた。
というのもトラブルの原因には少しガーネットも関わっている。
ガーネットが以前に褒美としてもらった土地の中で、瘴気が出るようになったため使えなくなった土地があった。
その土地はエクレア様の手によって高収入の利益がでる土地に変貌を遂げ、そのおかげで同時に多くの物流がその土地を介して流れるようになった。
そのおかげでブルー王国にとっては黒字で儲けが出るようになったから良いのだが、隣国のコーラル王国は赤字に転落してしまったらしい。
コーラル王国がブルー王国の商会の品物を購入しなければ良い話だが、商売というのはそう簡単にいく話ではないようで。
このままでは経済が危うくなると焦ったコーラル王国は自国に有利な条件となる交渉を持ちかけてきたそうだ。
当然それをブルー王国は拒否した。
それで収まりのつかないコーラル王国が1000名を超える部隊を街道沿いに派遣したのだ。
ちなみにコーラル王国はプラチナ帝国を宗主国と仰ぐグループには属さない国。
コーラル王国はプラチナ帝国と対立するシルバー王国を宗主国とする国なのである。
お互い派閥の違う国同士なので、交渉がうまくいかなければ武力に訴えるという事態に発展する可能性があるが、今回がまさにそのケースにあたる。
もちろん宗主国に許可なく戦争はできないが、そこは抜け道があって、部隊の数を少なくすれば強くいわれない。
そこでコーラル王国は少数でも部隊を派遣し、武力を背景にした威圧を相手にかけ、交渉を少しでも有利にしようと考えた。
これが同じ派閥同士なら例の序列がものをいうが、派閥の違う国との貿易はこういうリスクを抱えている。
以上、ガーネットによるトラブルのまとめ。
ガーネットがつらつらとそのように考えていると、大臣たちのほうから、
「王国軍から、騎士500名と平民隊500名を編成し、王国軍として編成しコーラル軍に向かわせます。国王陛下、それで、よろしいですな」
という声が聞こえてきた。
それに国王は許可を与えた。
これで国王の許可がおりたので部隊の編成が決定し、ブルー王国はコーラル王国と戦争をすることになったのだ。
その決定を聞いてガーネットはため息をつくの我慢しながらこの国の状況を考える。
ガーネットが考えるに、近衛騎士団は王宮を守護するブルー王国の最後の砦といえる部隊なので国外への派遣は無い。
しかしブルー王国には近衛騎士団と違う別の軍が存在する。
出征を主な任務とする王国軍だ。
この王国軍の定員は2000名である。
今回はそのうちの4分の1を出すというのだ。
さらにその同数の平民隊を出し、計1000人の部隊を編成するらしい。
この数はブルー王国としては決して大規模と言える人数ではないが、プラチナ帝国の許可なく動かすにはこの人数が限度といえる。
ちなみにブルー王国での軍隊の法律上、兵100人を1つの単位とし、100人隊長をつけることになっている。
先ほどの話では平民隊は500人といっていたから、平民を束ねる100人隊長を5人選ぶのだろう。
そしてその5人は王宮の文官や警備隊から選ぶのが通例となっている。
というのも王国軍の多くは貴族であり、本職の軍人は名誉でもあるが、平民隊はちがう。
平民隊は平民から編成されるが素人の集まりなので王国軍の盾にされてしまうのだ。
身分が低く命令に逆らえないからという理由もある。
そんな平民隊を率いる平民隊長は隊長自身も王国軍の犠牲にされやすい。
よってだれも平民隊の百人隊長をやりたがらないので、王命で王宮の役人からむりやり任命するのが通例となってしまったのだ。
任命されるのは、年若く王命に従順で後ろ盾のないものが選ばれる。
「いけにえ隊長」と陰口を叩かれる所以でもある。
そして平民隊として徴兵される平民は、この王都と近隣の4つの町から募集し構成するのがいつもの常だ。
隊長とちがって、平民隊に入れば危険手当もでるし手柄を立てれば王国に取り立ててもらえるなどの見返りがあり、それなりに人気はあるようだ。
実際には、この平民隊だけが被害を受け、王国軍は軽傷で帰還し、手柄は王国軍がとるということがまかり通っているのだが。
今回もそれに近い結果になるのではないか。
そう考えていたガーネットは誰1人死者が出ずにこのくだらない戦争が終わることを願わずにはいられなかった。




