第7話
みんな!!オレのことを忘れてないか?
冒険の町オーキッドのエース(候補)にして今抱かれたい男NO1(妄想)のリックだ。
そんなオレだけど、今は命の危険を感じている。
冒険中でもなく、何ならギルド内にいるのだが目の前にいる「聖女」ノワールから襟をつかまれ締め上げられているところだ。
「ゴホッゴホッ、はな・・・しを聞い・・・てくれ」
オレは、涙目でノワールに懇願し仲間からも
「手を離してあげて。そして落ち着いてちょうだい」
と言ってもらっているがノワールは構わずオレを締め上げている。
「どの口がそんなことを言うんですかねぇ?」
その漆黒の瞳は怒りに燃え、低くとても威圧感のこもった口調である。
怒りに燃えた目を向けられた魔法担当のオリエは目をそらして黙ってしまった。
なぜこんなことになったのか。
ほんの数分前。
オレたちはノワールが戻ってくると聞いて冒険者ギルドの食堂で彼女を出迎えたんだ。
恋人でもあり、オレの力を十分に発揮するために必要な回復魔法、支援魔法の両方が使える彼女の存在を俺はずっと心待ちにしていた。
そんな彼女をオレたちはにこやかに歓迎した。
「おかえりノワール。待っていたよ。これでオレたちパーティーは全員揃ったんだ。また前のようにオレたちの活躍をオーキッドのみんなに見せてやろうぜ!」
オレは会心の笑みを浮かべてノワールを出迎えたつもりだった。
しかしノワールからは冷ややかな声で返された。
「ねぇ・・・・あの人はどこにいるの?見当たらないけど」
「あの人・・・・ああ、あのクズのことを言っているのかい。それならもう1ヵ月以上前にクビにしたさ。あいつはオレたちのパーティーに所属するには、剣の力も魔法の力も何もかもが足りなかったからな」
「それは君も認めるだろう。だからクビにしたんだ」
そう蔑むような口調でで言い放ったオレに対しノワールは、
「何を馬鹿な真似をしたんですか!!それにあの人のことをクズだなんて」
おもむろにノワールは黒い目を薄めて殺気を出し、オレの襟首を捕まえて壁に叩きつけたのだ。
そして冒頭に戻る。
未だ怒りが収まらないのか、いまだその黒い髪が震えている。
ノワールは手を離す素振りがなかったが、俺の意識が落ちそうになりようやく力を緩めてくれた。
聖女だと言うのに腕力も近接専門でやってきたオレを凌駕するほどだ。
しかし、あいつをクビにしたことで、ここまで怒りをあらわにするだなんて。
ノワールのその態度がオレには許せなかった。
「ケホッケホッ。オレにこんな真似をするだなんて。恋人のノワール以外のやつがしたら許さなかったが」
「誰があなたの恋人ですか!!」
と被せて言い捨てるような言い方で、ノワールは叫んだ。
「勝手に私を恋人認定し、その上あの人までクズ扱いで勝手な真似をして!!」
「・・・・・もうほんと気持ち悪い。これ以上がまんできません。私、このパーティーから抜けさせてもらいます!!」
ノワールはそう言って、踵を返し、冒険者ギルドを出て行った。
オレは、不覚にもノワールが何を言ったのか理解できず、しばらく呆然としてしまった。
しかし、冒険者ギルドの中で起こったこの出来事はすぐにオーキッドの町を駆け巡った。
そのため、オレたちはメンバーを勝手な理由でクビにしたり、それを理由に聖女に逃げられたりと問題のあるパーティーだというレッテルを貼られてしまったのだ。
そうなったからには、以前のような目では誰も見てくれなくなり、この町での冒険者としての活動は事実上不可能になってしまった。
しばらく経った後。
オレと一緒にいることで、自分たちまで白い目で見られることに気づいたメンバーたちがパーティーの解散を提案するのに時間はかからなかった。
その後、誰もパーティを組んでくれなくなったオレはこの冒険の町オーキッドを出て行かざるを得なくなったのだ。
このまま負け犬のようにオーキッドを出るのは嫌だったオレは王都に向かうことにした。
王都に行けば、このオレでも活躍できる場所がきっとある。いや絶対ある。
そう信じていく以外今のオレには道はなかった。
「くそおおおおおおお。見てろよおおお!!オレはこんなとこでは終わらない。きっと何か大きなことをしてやるぞおおおお!!」
オレは、オーキッドの小高い丘の上で吠えた。




