第6話
今日は、給金が貰える日だ。
ダン先輩も他の警備隊員もみんなソワソワしている。
警備隊の本部の大広間で隊長から手渡しで給金が手渡されるのだ。
僕もみんなと同じように一列に並んで給金が手渡されるのを待つうちに唐突に気付いたことがあった。
・・・・どう考えても生活するのにお金が足りない。
警備隊の給金は1か月に1回もらえる。
額は王都で大人1人が1か月ギリギリ生活できる程度と聞いている。
じゃあ、足りないじゃん。
大人はあとメイドが5人いるんだよ。
それにメイドというからには、僕が雇用主で彼女たちに給金を払う義務があるはずだ。
僕は急に体が震えてきた。
彼女たちは給金がもらえなくて出て行くのではないかと思ったからだ。
家族とは言ってくれたがそれとこれとは別だというぐらいわかっている。
金の切れ目が縁の切れ目という言葉が頭をよぎる・・・・・
「おいおい、おまえさん。今日は給金日なのに、なんでこの世の終わりのような顔をしてるんだい!?」
ダン先輩が僕の顔色を見てびっくりしながら声を掛けてくれた。
「体調が悪いなら、むりをすることはねぇや。今日はもう帰れ。隊長には俺のほうから言っといてやるから」
僕はその言葉に甘えてふらふらとした足取りで家へ帰ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「・・・ただいま」
なぜだか恐る恐るドアを開けて僕は家に入った。
エクレアが出迎えてくれたので、僕は、
「あ・・・今日はちょっと体調が優れないもので早く帰らせてもらったんだ。それよりもあの、お金・・・なんだけど・・・」
と言うと、エクレアはにっこり笑って
「お金でございますか。承知いたしました。少しお待ちくださいね」
と言って僕の前から立ち去り別の部屋へ行ったかと思うと、すぐに大きな袋を抱えて戻ってきた。
「いま、手元にあるのは、これだけでございます」
と言ってその袋を机の上に置いた。
ジャラジャラジャン
という音がするほど袋の中は金貨でみっちり詰まっている。
僕が唖然としてどんな顔をしていいかわからない表情をしていると、
「これだけでは足りないですよね。本当に私が至らないばかりにご主人様にご不便ををおかけしまして申し訳ございません」
エクレアは申し訳なさそうに言う。
「そっちじゃないよ!?」
何をしてこんなに稼いだのかとか、僕がお金を払う立場じゃないのかとか、つっこむことが多すぎる。
少し頭を整理してからエクレアに話しを聞いた。
この袋のお金は僕に使ってもらうために稼いだ金貨なので遠慮なく受け取って欲しいと言われたがそれはさすがに遠慮した。
むしろ主人として稼ぎが少ないことを詫びようとしたが、
「家族なのですから、助け合うことは当たり前ですよ」
とむっちゃいい笑顔で返されてしまった。
でも、僕は助けになってないよね。
10対0で僕が助けられっぱなしだよねと思ったが口に出さないでおくことにした。
いつかたくさん稼いでお返ししようと思った。
あと、稼ぎが少ないことを僕が苦にしていると判断したエクレアから提案があり、僕に迷惑をかけない程度にお金を稼ぐことを許してほしいという申し出があった。
なんでも当てがあって、商会のお手伝いをするつもりらしい。
事務とか経理かな。
なら大丈夫か。あ、美人だし、受付かもしれない。
どちらにしろ商会の手伝い程度なら心配することはない。
なにより、お互いに助け合おうと言う気持ちがとても嬉しく感じた。以前の冒険者のパーティーにはなかったことだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どうも、自分は栄えあるブルー王国近衛騎士団を預かる騎士団長のガーネットと申す者です。
今から自分の紹介と世間話?をします。
家名を名乗らないのは平民だからです。
あと・・・・・・女です。
女の身で平民。
しかもなんの後ろ楯もないのに武官の最高位と言っていい近衛騎士団長にまでなれたのはひとえに創造神エクレアーナ様のご加護と日ごろの訓練の賜物だと思います。
あ、内緒なのですが、自分は創造神様の使徒でもあります。
剣術が得意ですし、身体強化魔法もこの国トップクラスです。
ですが本当は他の属性魔法も使えるのですが敢えて伏せています。
趣味は石をコレクションすることです。
特に自分の髪と瞳の色である赤色をした石を探すことが好きです。
そんな自分ですが、男ならば爵位を得て貴族になると言う道も考えられますが、女の身なのでぜひ嫁にと言い寄ってくる貴族が後を絶ちません。
まぁ騎士団長を務めるような野暮な女を嫁にほしいと言う貴族は下位貴族が多かったりします。
自分はどうやら男性の目を引く顔立ちのようでして、素顔をさらしたままだと騎士団長の務めも果たせないことが多くなり已む無く、顔を隠しております。
顔を覆い隠す兜をつけているのですが、おかげで今度はブスだのなんだの顔に大ケガを負っているのだという悪いウワサがたつようになりました。
成り上がりで女でもある身には貴族社会はやさしくないのです。
あと貴族では無いにしても、騎士団長として数々の功績を上げているので、王国からは褒美としていくつか土地をもらっていたりします。
豪邸を構えるにふさわしい土地や商会が欲しがりそうな鉱石が出る鉱山など、いくつかある中で、唯一の不良物件があります。
もちろん最初から不良物件ではなくて、褒美としてその土地をいただいてから数年後に瘴気が出るようになり人が住めなくなったという経緯があるのです。
あ、瘴気とは、人体に有害なガスのようなもので、これが濃くなると魔物が生まれるとも言われています。
もともとは土地そのものよりも隣国や裕福な貴族の領地につながる街道のど真ん中ということに価値をもつ土地だったので、そこに関所を設けて通行料をとれば利益が上がるだろうということでいただいたものでした。
しかし、人が住めなくなり隣国に通ずる道とは言え、馬車も輸送車も通らなくなった土地になってしまい管理代だけがかかる不良物件となったのです。
そこへ、以前大変お世話になった方・・・今はある方のメイドを務めている方からの申し出がありました。
最近の話です。
それはこの土地の権利を賃借する契約についてでした。
土地を貸す代わりに利益を生み出せたならその利益の8割をお渡しするというものです。
ちなみに、鉱物錬成を専門とする錬金術師や鉱物を見わける技術を持つ種族であるドワーフは、このように土地を賃借しそこから取れる鉱物や錬金術で作成したものを活用し、利益を上げることがあります。
そしてそこから得られた利益の何割かを配当金として所有者に渡すという行為は商業行為として認められているのです。
もちろん自分としては願ったりな話ですし、あの方はそういうことも得意な方なのでおそらく莫大な利益を上げるだろうと思い了承しましたが、利益の8割を所有者の自分にわたすと言うのはかなりの暴利です。
さすがに取りすぎなので遠慮しようとしましたが、その方に意見をするという行為は創造神に逆らうことと同義なので最初の条件をおとなしく受け入れることにしました。
しばらくして。
やはりというか、ものの1カ月ほどで莫大な額の配当金が自分のもとに舞い込んできました。
あの方の手にかかれば、瘴気が充満していようと関係ないとは思っていましたがここまで利益をだすとは。
さすがエクレア様ですね。
え、どうやってあの瘴気が充満する土地を収益の上がる土地にしたのかですって。
言っちゃっていいんでしょうか。どきどき。
エクレア様は、鉱物を採掘したのでもなく錬金術で鉱物を錬成し価値あるものを産み出したわけでもありません。
まったく別の方法で土地の価値を変えたのでした。
なんでも、まず土地にうずまく大量の瘴気を浄化したそうです。
次に、でこぼこの街道を舗装で整え、さらに大人数が宿泊できるような大型施設を建設し、多くの人が行き交うような環境を整えただけだとそう仰っていました。
なるほど、街道の舗装は土魔法でできるだろうし、大型施設も創造魔法を使えば可能だと推測します。
まぁ、莫大な魔力とそれを扱う緻密な魔力制御が必要ですが・・・・・・
ちなみに、あの瘴気はどうやら別の次元の世界に通じており、そこでは多くの魔物や魔獣が跋扈していたようですが、全て殲滅したうえで、浄化したみたいです・・・・・・
それぐらいの事は軽くこなしてしまう方なので、特に驚きはありません。
もともと隣国との街道は最短距離にあり、瘴気がなくなっただけでもありがたい上に宿泊や休憩ができる大型施設が立ち並んだことで商会関係者や貴族、高ランクの冒険者まで殺到したそうです。
本来の目的であった関所を設け通行料をとるのでなく、利用しやすい状況をつくり自分たちからお金を払わせるように仕向けたところがエクレア様らしいやり方ですね。
そこから得られる宿泊費や商談に使う部屋の使用料、それに伴う飲食代や接待費だけでもかなりの額になったそうです。
お陰で自分は莫大な配当金をを得ることができました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エクレアが商会で働きたいと申し出てから1ヶ月が経ったころ。
エクレアが僕に、
「ご主人様、わたくしどもも働いて賃金を得ました。このお金は生活費にいれますね。ですのでご主人様も気になさらず、家のお金をお使いくださいませね」
とにこやかな笑顔で言ってきた。
僕があれ以降、生活費を気にしていることを知ってメイドたちは働いてくれたようだ。
そして家族として働いて得たお金を生活費にいれてこれで生活しようというわけだ。
僕の懸念を減らすためにしてくれていることがわかるので、その心遣いだけでとても嬉しく感じる。
とそこへエクレアがとびっきりの笑顔で
「「飲む・打つ・買うは男の甲斐性」といいます。ご主人様はしっかり稼いでらっしゃいますので遠慮なくお金を使って遊んでくださいね」
そういうエクレアの手には金貨の入った袋がある。
「飲む・打つ・買うは男の甲斐性」とはどんな意味かは分からないが決していい意味では無いことだけは雰囲気で感じ取れた。
ダメ男になりたくない僕は金貨の入った袋の受け取りだけは遠慮したのである。




