第4部 勇者と2人の王子編 第1話
「わたし、勇者の幼なじみという負けヒロインじゃん!!」
私の名前は、リリ。
どう、平凡な名前でしょ?もちろん名前のとおり私はただの平民よ。
トープ自治国という国の出身なの。
さらに詳しく言うとトープ自治国の北に位置するケープルの村という田舎の生まれよ。
しかし、私の幼なじみがただの平民ではなかった。
なんと勇者だって。勇者様。あの伝説の勇者様。
シルバー王国の託宣の巫女様が予言をし、トープ自治国のケープルの村ということろに伝説の勇者様が誕生すると予言したそうなの。
勇者の誕生は500年ぶりらしいわ。
シルバー王国の騎士様たちがケープルの村へ訪れ最初に見たのは、ケープルの村を襲う魔物の群れを幼なじみが勇者として「覚醒した力」でなぎ倒している場面。
騎士様たちはその力を見て幼なじみが勇者であると確信したそうよ。
幼なじみはアベルというの。
おなじケープルの村で生まれ育ち、いつも一緒に遊んでいたわ。当然アベルは剣を振ったことも魔法を使ったこともなかった。
だけど魔物が村を襲いみんなや私が危険な目にあい、わたしが助けを求めたそのときアベルは力が覚醒したと言っていたわ。
「大切な誰かを守るための力。その力で周りに勇気を与えるもの」
それが勇者だって。
勇者は正しい心と強大な魔力をもち、勇者に与えられた真なる力で悪を討ち果たすと言う。
ここだけの話、私からみてもアベルはパッとしない男の子だった。
でも私はアベルが好きだった。アベルと生涯を共に過ごすと思ってた。
そんなアベルがどこか遠くの人になるように思えたの。
なんでかっていうと魔物の群れを撃退したあとのアベルの表情がそうだったから。
清々しい、いやちがう。初々しい、ちがうな。凛々しい。これよ。
おなじ顔をしているのに別人みたいに見えるの。なんか急に成長したみたいな。
翌日、アベルが急にシルバー王国に行くことになったと聞いた。
勇者としての認定を受け、その後、勇者に必要な修行を託宣の巫女様が与えるからですって。
私は悲しかったけど、大好きなアベルのために、精一杯、笑顔で見送ろうと思った。
アベルがシルバー王国へ向かう日。
村のみんなに見送られる中、アベルが私に話しかけてきた。
「リリ、しばらくの間会えないけど、絶対帰ってくる。魔王を倒して。だから、リリ。待っててほしい」
そしてお互い抱きしめあってから、アベルは馬車へ乗り込んだ。
馬車の窓からずっと私のほうを見てた。
そして私も馬車から目を離さなかった。馬車の姿が見えなくなるまで。
あれから数年が経ち、私は15歳になった。
アベルも15歳になっているはず。
そして私は気付いた。私はどうやら「幼なじみ枠ヒロイン」という負け組らしい。
あれからアベルはシルバー王国の王都で勇者の認定式を受け、修行をしていた。そして3ヶ月に1回の割合でケープルの村に帰ってきてくれた。
ところが、帰るたびに綺麗な女の人がくっついてくるの!!
いや女の人だけではなく男の人もいたんだけど。明らかに女の人はアベル狙いで、アベルが私に話しかけるたびに睨んでくる。これ絶対気のせいじゃない!!
そして2人きりになったときに、
「私はアベル様とともに戦うことが許されているけど、あなたは幼なじみというだけの強みしかないのね。そういうのを「幼なじみ枠ヒロイン」というのよ」
といわれた。
なんでもプラチナ帝国では娯楽の小説が近年出回っており、勇者ものは小説の中でも人気ジャンルだそうだ。
そして、その中にそういう名前のヒロイン枠があるらしい。
「ふふふ、さしずめ私は美貌の女剣士といったところね」
とうっとりした表情で言う。
自分で美貌とか言っちゃったよこの人。確かに美人だけども。
そんなアベルの帰省のたびにパーティの仲間もついてくるのだが、毎回ちがうメンバーだ。
なんでもアベルの勇者としての実力は中央平原の国中に宣伝されており、続々と有力な冒険者がシルバー王国に集まってくる。
勇者も厳しい修行をしているが、その仲間も厳しい選抜が行われているのだそうだ。
だから帰ってくるたび違うメンバーなんだとか。そしてついてくる女の人も毎回違う。
だけど美人さんばかりだよ。ほんとに実力で選んでいるの?
ついてくる女の人全員が私にマウントをとってくる。
アベルが出て行って2年目ぐらいからアベルは帰省をしなくなった。
徐々に帰る頻度が減っていってたからやっぱりねという感じ。
多分、普段あっている女の人と私を比べて物足りなくなっていったのだろう。
私も女だから他の女と比べられて負けたというのはショックでだけど、ずっと言われてきたおかげで心の準備はできていた。
まあ仕方がない。幼なじみとはいえ、勇者様と私は釣り合わない。
自分は自分だ。
私は逆に女の人からの嫌味を受けながらも精いっぱい情報収集をしていた。
そのなかで私はプラチナ帝国の魔法学園というものに興味をもっていた。
私は両親にプラチナ帝国の魔法学園に入学をしたいとお願いした。
ここからは聞いた話なんだけど。
シルバー王国とプラチナ帝国はもともと仲が悪かったが、近年協定を結び戦争をやめた。
そしてお互いの交流も盛んになり国境を行きかう人も増えてきた。シルバー王国圏内の人間もプラチナ帝国にある魔法学園への入学は許されているそうだ。
私はそこに目を付けた。
平民の自分もそこへ入学し勉強しながら友人と交流をもちつつ自分の進む道を見つけようと考えたのだ。
ありがとう。
魔法学園のことを教えてくれた金髪デカパイの人。
この人はアベルの何回目かの帰省に同行してた人だ。私は心の中で名も知らぬ金髪デカパイの人に感謝をした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リリです。
今、私は、父さんと一緒にプラチナ帝国の首都プラチナムに訪れている。
観光じゃないよ。観光したいけど。魔法学園の入学の手続きのために来たの。親の許可なしでは入学できないからね。
ところが事件がおきた。
事件。生まれて初めてよ。盗難事件という言葉を聞くのは。
しかも自分の身内が容疑にかけられたの。
父さんなんだけど。当然父さんがひと様のものを盗むだなんてあり得ない。誤解か冤罪に決まっているわ。
事件の始まりは、私が魔法学園へ入学するための手続きをするため内務省の教育課へ行こうとしたことがきっかけだったの。
父さんも自慢の茶色い四角のバッグを肩にかけ意気揚々と歩いていたわ。そして先に内務省の教育課へ手続きをしに行ったの。
そのあと、宿屋へ戻る前に外でごはんを食べようということになり、並んでいる飲食店のうち、すこし豪華なところを選んで父さんと入った。
私はそこでハンバーグステーキを食べたわ。
やっぱりプラチナ帝国の帝都で食べるハンバーグは違うわね。絶品よ。ただ、あまりにも混んでいたので相席というものをお願いされたの。
相手はどこかの国の役人らしいわ。
向かいの役人も、父さんと同じ“茶色い四角のバッグ”を肩にかけていた――今思えば、ここが分かれ目だった。
知らない人と席を同じにするのは抵抗あるけどこれもいい経験かなと思って承諾したの。
そしてお会計をしてから宿屋へ戻ったわ。
その後、宿屋に泊まっていると、ドアの外が騒がしくなって急に宿屋の主人がカギを開けて部屋に入ってきたの。
その後ろから騎士団の人が入ってきて父さんを窃盗犯として逮捕し、連行していった。
当然、私は無実を訴えたわ。
父さんはそんなことをしていない。
私もずっと側にいたと言ったんだけど聞いてもらえなかった。
なんでこんな目に会うんだろう。
父さんが犯罪者として逮捕された。
私は都会のプラチナムでひとりぼっちになっちゃうし。
私はただの小娘で父さんのために何もしてあげられない。
うう、アベルぅ。
私は心細くて泣きそうだった。
そんなときだった。ある男性に声をかけられたのは。




