第16話
季節は10月。
ある休日の昼、僕は気分転換に「学生通り」を歩いていた。
先日のキャロット様の話でクリムソン様が廃嫡し、キャロット様が後を継ぐということを思い出していた。
親から子へ、爵位を継いで国のためにその責務を果たす。
貴族はそうやって自分の与えられた責務を果たすので尊重されている。平民ではできないことだ。
そしてふと思った。
僕は誰の子なんだろう。
親はどうしているのか。死んでいるのだろうか。
実は僕は10歳以前の記憶がない。気づいたときにはエクレアたちがいた。
そしてシェラに剣の修行や魔法の修行をつけてもらい、イオニア、リューシュ、ホーネットに世話をうけていたのだ。
生活になんの不満もなく満足していたんだろう。そして自信がついて13歳の時に家をでたのだ。
だけど、自分の親はどんな人なのか今まで考えもしなかった。貴族なのか平民なのかすら疑問に思わなかった。
それだけ幸せだったのかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、通り道でふとすれ違った貴族がいた。
その貴族は僕の顔を一瞬みたあと、ギョッとした表情で立ち止まったのだ。
その貴族が僕に声をかけてきた。
「突然で悪いが、ぶしつけな質問をするよ。もしかして、君、エメラルド子爵家の血筋のものか?」
しかし僕はエメラルド子爵という名を聞いたことがなかったので、
「いえ、違います。それにそれ、貴族の家名ですよね。僕は平民ですので関係ないと思いますよ」
と返事した。貴族は「ふむ」とうなずき、
「しかし、よく似ている。君の目の色、髪の毛、そして顔立ち」
そして、少し考えるそぶりをして、
「ねえ君は貴族の参加する夜会というものに興味は無いかい。ああいやいやそんな大げさなものでなくちょっとした集まりがあるんだ。私が主催者なんだが、悪いようにはしないよ。平民でも有名人なら呼んでいるし」
「君さえよければその夜会に出席しないかい。こうして話しかけたのも何かの縁だ。その記念のつもりで君を招待しよう。いやなら、給仕としてバイトで来てくれてもいいよ。報酬は期待していてくれ」
あ、これ逃がす気がない誘いだなと鈍い僕でも理解した。
「じゃあ、給仕のバイトとして参加します・・・・・・」
と小さい声で返事をすると貴族は「ハハハ」と大声で笑い、冗談のつもりだったがといいながら承諾をしてくれた。
でも僕の顔をみて驚いた表情をしていたから誰かに似ているのだろう。
いったい誰と似ていたのだろうか。
僕は仕方なくその夜会に参加することにした。
服は学園の制服で行った。
だめだと言われたら帰るつもりだったが門にいた門番は僕の顔と招待状を見て通してくれた。
なら、覚悟をきめて夜会に参加するしかない。
まあごはんだけ食べて帰ってもいいや。
そう考えると気が楽になった僕はキョロキョロしておいしそうなごはんを探す。
すると、ある令嬢が、
「ふふふ、あまりきょろきょろしていると田舎者と思われちゃうわよ。いったい何を探しているの?」
と声をかけてくれた。
僕がその令嬢と顔をあわせたとたん、その令嬢は僕の顔をじっと見て、凝視する。
「そんな・・まさか・・・・」
とつぶやき、表情を変えて、
「あなた!!よくもおめおめと姿を現せたわね。この恥知らず。私がどんな思いをしたとおもってるの!!」
急に僕にむかって怒鳴りはじめ、そしてほっぺにビンタをした。
パシィッと音が響く。
僕は茫然として何が起こったのかわからない。そしてあの貴族がやってきて、すぐさま帰るよう手配をしてくれた。
後日。
魔法学園の学生寮の僕の部屋で、あの貴族がお忍びでやってきた。そしてあの夜会の出来事をお詫びしてくれた。
どんなことであっても主催者の自分にも責任があるからと言って。
そしてなぜ僕をあの夜会に呼んだか。
そして僕に声をかけビンタをしたあの令嬢は何を誤解したのか話してくれた。
まずあの令嬢はローリア・アクアマリンという。
アクアマリン伯爵家の令嬢だそうだ。
アクアマリン伯爵家はこのプラチナ帝国でも名の通った家で名門と言っていい。そしてその令嬢には婚約者がいた。
その婚約者の家がエメラルド子爵家だという。
子爵家なので格は下がるように見えるがエメラルド子爵家はなんとプラチナ帝国草創期から存在する貴族で高位貴族からも一目置かれるほどだとか。
そして婚約者であるエメラルド子爵令息には双子の弟がいたそうだ。
その弟にも婚約者がいたが、なぜかその令息は自分の弟の婚約者と仲良くなり浮気をしてローリア・アクアマリン伯爵令嬢を振ったらしい。
それはそれは心に残るほどのひどい振り方だったという。5年も前の話なのにいまだに怒りが残っているぐらいに。
その後、なぜかプラチナ帝国の皇族がじかに動いてエメラルド子爵家は取り潰しにあい、その婚約者も弟も行方知れずになった。
「実は君は例の婚約者に顔立ちがにていた。だから戻ってきたのかと思ってびっくりしたのだ。しかし、よく見ると本人ではないように思える」
「とすればその弟かと思い声をかけたのだ」
と言って再度謝られた。
そう言って何度も謝ってくれたのはアクアマリン伯爵の嫡男、つまりローリア嬢の兄にあたる人だった。
5年前の話ではあるが面影といい顔立ちといいよく似ていて、妹に会わせようと思ったらしい。
「やっぱり妹の中では終わっていなかったんだな」
とつぶやいていた。
もちろん怒りは残っているがそれ以上になぜ取り潰されたのか、どこへ行ったのか、死んだのかさえもわからないらしい。
プラチナ帝国の皇族が中心となって処理したということで貴族にはなにも知らされていないのだそうだ。
情報を教えてもらったお礼をいい、僕は考えた。
もしかしてその弟が僕かもしれない。
記憶がないのは薬のせいか魔法のせいかもしれない。
いちど、調査をしてみよう。
アクアマリン伯爵の嫡男である青年貴族は別れるとき、
「もし何か知りたければこの人物を訪ねてみるといい」
といって住所と名前の書いたメモをわたしてくれた。
そのメモには平民区の小さい飲食店の住所とメアリーという名前が書かれていた。
僕は休日を利用して、メモに書かれてある住所の飲食店へと足を運んだ。
そしてメアリーと言う人がいるかと聞くと、店主が呼んできてくれた。
メアリーと言う人は40代くらいのおとなしそうな印象を受ける女性だった。
僕はエメラルド子爵家について調査していることを言い、あの家について何か知っていることがあれば教えてほしいとお願いした。
するとメアリーは僕の顔を凝視して、
「もしかして・・・・小坊ちゃんですか?」
どうも僕をエメラルド子爵家の双子の弟と間違えているように思う。
僕は、
「違いますよ」
といったが、メアリーはずっと僕を凝視しながら
「知っていることをお話します」
と言って語ってくれたのだ。




