第15話
その後、僕とノワールは指定された町はずれの一軒家で馬車を側に置きながら待機していた。
依頼に従うなら2時間ほどその場で待機する予定だったから。
しばらくすると、遠くのほうからプラチナ帝国の魔法騎士団とグレープ王国の紋章をつけた依頼人が馬に乗ってやってきた。
そばにはナルガもいた。
僕たちをみつけた魔法騎士団は大声で、
「キャロット・アプリコット公爵令嬢様がさきほど誘拐されたとの通報があった。通行人からあやしい馬車が町はずれの一軒家まで走っていくのを見たそうだ。その馬車と家を接収し、お前たちを重要参考人として拘束する。無駄な抵抗はやめろ!!」
依頼人とナルガはニヤニヤと笑って僕と魔法騎士団の様子を見ている。
この表情をみて、いくら鈍い僕でもだいたいの筋書が読めてきた。
筋書はこうだろう。
キャロット・アプリコット様を男に誘拐させる。さらに僕を雇い馬車を走らせて共犯者に仕立てる。
そして自分はキャロット様を探して救いに来たと見せかけるというところか。
しかし、
「残念だったな」
僕は拘束魔法で縛ったままでいる男を魔法騎士団の前におき、さらに家の中で休憩していたキャロット様を連れて無事でいることを魔法騎士団に見せた。
魔法騎士団はキャロット様の無事を確認できたことに安堵のため息をしていた。
しかし、依頼人とナルガは驚きの表情で、
「そんな馬鹿な!!」
と叫んでいる。
「ち・な・み・に、すべてそちらの方が仕組んだことだとこちらの男が白状してくれましたよ。あとはよろしくおねがいしますね。魔法騎士団様」
と僕は依頼人たちを指さして言った。
詳しいことはキャロット様が説明し、すべての黒幕はこの依頼人であることを告発した。
驚くことにこの依頼人はグレープ王国の王太子だったのだ。
側近候補のナルガとともに今回の事件を企てた。
魔法騎士団はグレープ王国の王太子とナルガ、それに誘拐を実行した男を捕縛し魔法騎士団本部で取り調べをするために3人を連行した。
後日、グレープ王国の王太子がなぜキャロット様の誘拐という大胆な犯罪を計画したのかその理由を教えてもらった。
キャロット様を危険な目に合わせ、その状態からグレープ王国の王太子が救出することでキャロット様の覚えをめでたくし、国の序列を優遇してもらうという目的があったようだ。
しかも、キャロット様との仲を深めあわよくば婚姻にまで持ち込もうと言う考えもあったようだ。
グレープ王国はプラチナ帝国傘下の国であるが、序列は最下位なんだそうだ。そのため、経済や貿易に関しては非常に苦しい状態を長年強いられてきたらしい。
同情はできないけど、国際的な地位の低い国は苦労をしているんだなと僕は思ってしまった。
さらに王太子たちの計画では、犯人のかわりにスケープゴートとして罪をかぶせるために僕に依頼をしたという。
キャロット様と僕が昔仕えていた縁でお互い顔見知りと知っていれば、僕に依頼することは失敗だということがわかったはず。
この件はアプリコット公爵も知るところになった。もちろんカンカンなって怒ったそうだ。
その後、グレープ王国は多額の賠償金を請求されたうえに、プラチナ帝国傘下の国からも外されることになったそうだ。
キャロット様とはあのあと昔の話をした。
初めて会ったときのことや僕から魔力制御の方法を習い練習していたこととかいろいろ。
僕が公爵様の命令で帝都に向かい任務に就いたことや、その後で僕がクビになったことも話した。
話の中で驚いたことが一つある。
なんと、僕がクビになった原因の一人であるクリムソン・アプリコット様が後継ぎの資格を消され廃嫡となったらしい。
なので現在キャロット・アプリコット様が後継者となる予定らしい。必然的にキャロット様は婿取りをすることになる。
魔法学園に通うのは次期当主としての勉強もあるが人脈を増やすためでもあるとのことだった。
キャロット様が寂しそうに、
「私の立場は、とくに傘下の国にとってはプラチナ帝国の皇帝よりも魅力的なの。なんせ自分たちの序列を直接決定することができる権限を持っているのだから」
序列最下位のグレープ王国も国内の事情があってこのような強硬な手段にでたのかもしれない。
まあ僕をまきこんだから同情はしないけど。
考えごとをしているとキャロット様が、
「どこかに私のことをよく知っていて私を支えてくれる人がいないかしらね。身分は気にしないわ。外野が何を言おうともアプリコット公爵家の力で黙らせるから」
と僕のほうをうっとりとした瞳で見つめながら言ってくる。僕は赤くなりあわてて顔をそらす。
なんて言ったらいいかなと考えていたら、そばにいたノワールが
「お任せくださいキャロット・アプリコット様。アプリコット家をクビにはなりましたがお世話になった恩に報いるため私と私のご主人様がキャロット様のために最高の婿殿を探してまいりましょう」
僕はそれを聞いて恥ずかしくなった。
一瞬、キャロット様が僕のことを好きでそんなふうに言ったのかもと思ったからだ。うぬぼれもいいとこだ。
ノワールの言う通り、大恩あるキャロット様のために相応しい人物を探さないといけないな。
しかし、キャロット様は悔しそうに顔をしかめ、
「いえ、別に探してほしいと言うわけでは・・・・。たしかにクビという形ではありますが」
となぜか言いにくそう。
探しほしいというわけではなかったのか。
そう思ったけど、ノワールは僕のほうを見ながらウフフとほほ笑んでいる。
なんでキャロット様があんな反応をしたのかよくわからないな。
ノワールが、
「それでは私どもはそろそろ行きますね。キャロット様、どうかごきげんよう」
といってカーテシーをする。
そして僕に行きましょうという視線を送り、あわてて僕はノワールについて行ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
キャロット・アプリコット公爵令嬢。
プラチナ帝国の四大公爵の一つであるアプリコット公爵家の跡取りであり、魔法学園でも絶大な権力と影響力をもつ。
だが、彼女は取り巻きも作らずひっそりと学園生活をおくり勉学に励んでいた。
勉学だけでなく、実習である魔物狩りにも参加し文武両道に力を入れている。
加えて社交パーティーにも積極的に顔をだし、人脈づくりにも精を出す。
だが、彼女の瞳にはどんな美麗な青年も映らない。
今、自分から去っていく2人の後ろ姿のうち、聖女ではないほうの少年の姿以外は。
キャロットは去っていくその後ろ姿をだまって見つめていた。
作品の中心となる人物のイメージ画像を挿絵として貼っています。第1部第1話、第5話、第8話と第1部のおまけ、第2部の第3話、第10話、幕間、そして第3部の第3話と第7話の合計9つに貼っています。
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