第4話
ここは、ブルー王国の中心である王宮。
王宮内にある執務室に国王をはじめとして国の中心となる大臣たちが集まっている。
これから大事な会議が始まろうとしている。
しかし大臣たちの顔は全員真っ青。
なぜなら王国が滅亡する・・・・は言いすぎだが、王国の威信やらプライドやらが粉々になってしまうほどの事態がおきたからだ。
「どうする?・・・・・大臣」
国王陛下からの言葉に、そばに控えている大臣、公爵位をもち、この国の王を補佐する国一番の臣下ブーゲンビリア第一大臣は応えた。
「まずは、冒険者ギルドに該当する魔物の討伐が可能かまたはその可能性があるかを聞くこと、次いで、王宮や王国の貴族たちに保有しているかを調査すること、でしょうな」
「これぐらいが今打てる手だとは思いますがおそらく難しいでしょう」
そう答えたが、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
それを聞いていた隣の第二大臣マロー侯爵は心の中で、
(国王陛下も公爵閣下も保有していないほどの魔石を我々のような下級貴族が保有しているわけがなかろう!)
(冒険者ギルドにもこのような条件をみたす魔石をもつ魔物の討伐となるとAランクどころかSランクにも匹敵するだろう。それを可能にする冒険者など、この国にはおらん!!)
そう心の中で毒づいたが、第ニ大臣マロー侯爵の心の声はブーゲンビリア第一大臣には届かない。
そんなブーゲンビリア大臣は弱々しい声で、
「しかし、可能性は低くてもこの国のためにできることはしていかぬと」
と呟くのみである。
この国の大臣たちを悩ますのはある一通の親書が原因であった。
それは、ブルー王国の宗主国である魔法国家プラチナ帝国から来た親書。
そこには、できるかぎり大きな魔力を有する魔石を献上するようにという内容が書かれていたのだった。
魔石とは魔物の心臓に埋め込まれている宝石の一種で、魔力が込められている。
魔力が強ければ強いほどそれに比例して魔物は強くなる。
それが冒険者たちの飯の種になっている。
それ以外にも魔石は特殊な鉱山から採掘されることもあったり、地下深くの迷宮に転がっていることもある。
ちなみに、Eランク相当の魔物の魔石は小指の爪ほどの大きさ、Bランクのサーベルタイガーだとその魔石は親指ほどの大きさにもなる。
ここ、ブルー王国が保有する魔石の中で最も大きいものは、こぶし半分ほどの大きさであり、これでも相当な大きさである。
しかし、それだけではここまで慌てることではない。
問題はここからであった。
ブルー王国はプラチナ帝国の傘下にいる国であり、プラチナ帝国を宗主国として仰いでいるが、ほかにも傘下にいる国が複数存在し、その国たちはみな序列を争うライバルなのである。
現在ブルー王国の序列は5位に位置する。
この序列はあらゆる交渉や国家間でのトラブルが起きた時に少なくない影響を及ぼす数字なのである。
先代の国王は、死ぬ間際までこの序列を1つでも上げようと腐心し、現国王も序列を上げるための努力を惜しまない。
序列を上げることはいわばブルー王国の悲願なのだ。
今回のような親書に要求される課題にプラチナ帝国が満足するものを献上できれば序列も大きく上がるだろう。
にもかかわらず今回の課題である魔石について、どうやら序列6位のブラウン王国がこぶし2つ分ほどの巨大といってもいい魔石を保有していることが密偵からの連絡でわかっているのだ。
このままでは、序列をあげるどころか、格下の6位のブラウン王国がブルー王国を上回る可能性が出てきてしまった。
もちろん、見栄やプライドもあるが、王国民の生活にもかかわってくる問題だ。
たとえば、街道の使用料や港の賃借料、関税など、さまざまな分野で隣国との交渉が不利になり、そのしわ寄せとして国民の生活に負担が生じてしまう。
大げさに言えば、ブルー王国の経済基盤を揺るがしかねない事態が起きたのである。
ブーゲンビリア第一大臣は眉をしわ寄せながら苦しそうに、
「王国全土に対し、保有する中で一番大きな魔石を王国に献上するよう御触れを出します。もちろん褒美はのぞみのままということで」
と言ってまた、目をつむり考えこんでしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕はあれから変わらず警備隊の一員として、王都の治安維持のため頑張っていた。
最近は仕事になれてきたことを隊長も理解してくれて色々な仕事を振ってくれるようになった。
やっと僕も一人前に仕事ができると認められるようになってうれしい限りだ。
そのなかで最近特に気になる場所へ足を運んだ。
そこは、小高い丘の上にあるレンガ造りの家。
遠くから元気な子供の声が聞こえてくるそこは孤児院。孤児の面倒をみる施設だ。
戦争は絶えて久しいが、魔物による被害や自然災害、疫病でよい薬や治療を受けられず両親をなくしたなどの訳ありの子供がここへ引き取られていく。
国によっては孤児院がなく、子供だけでの生活を余儀なくされ、汚い大人の食い物にされたり、奴隷として売られてしまうというようなことも冒険者時代に聞いたことがある。
それに比べればこの国はマシなほうじゃないかな。
そんなことを考えながら僕は、孤児院へ足を向けた。
子供たちは今日も元気だ。
「おにいちゃん。今日も見回りに来てくれたの?」
「そうだよ。元気だったかい。なにか困っていることは無いかい?」
すっかり顔なじみでむこうから元気よく声をかけてくれる。
孤児院の院長が遠くから僕を見つけ近寄ってきてあいさつする。
「これはこれはいつも見回りご苦労様です。若い警備隊のお方。おかげさまでもめごとや不審者にも巻き込まれずに済んでおります」
「それは良かった」
僕はにっこりと笑って、院長にそう答えた。
「おにいちゃん。今あそんでよー」
「これ、わがままを言って困らせてはいけませんよ。治安を守る大事な仕事をしているのだからね」
遊んであげたいのはやまやまだったけど、たしかに仕事をおろそかにしてほかの困っている人を助けられないのは本末転倒だ。
「ごめんよ。僕もあそんであげたいけど今日はできないから、お詫びになにか遊び道具を今度持ってくるよ。みんなで仲良く遊んでくれよ」
「わかった。待ってるねー」
子供たちの元気のよい声を聞きながら僕は孤児院をあとにしたのだった。




