第6話
そこへ園長室にキャロット様が入ってきた。キャロット様は息を切らしている。
外から走ってきたようだ。
そして走ってきただけはなく顔を険しくしている。
何か言いにくそうなことを言おうとしているようだ。
しかし、意を決したように口を開いてジェード皇子に向かい、
「殿下、このようなことは間違っております。私はアプリコット公爵家の名にかけてこの映像が創作であり、ご自分の都合の良いように作られたものであると証言いたしますわ」
ジェード皇子は口を噛んで目をそらした。
キャロット様は続けて、
「あのときは、私も現場にいたのです。そして護衛のカナイも。あなたのしたことはカナイが命をかけて私たちを守った行為にも泥をかけたことになります」
キャロット様は僕のほうを見て、
「そもそも彼が我々を救ってくれたんですよ。なのにこんな真似をして恥ずかしくはないのですか!!恩を仇で返す行為ですわ」
それを聞いている側近の魔法騎士と聖女も声をつぐんで目をそらしている。
あ、やっぱり罪悪感はあるんだ。
でも貴族から色々な目にあっている僕からしたら罪悪感が残っていることが驚きだよ。
上の失敗は下の責任。下の功績は上の手柄。
これを2回受けているからね僕は。
むしろキャロット様のお考えのほうが貴族らしくないのではと思ってしまう。
そしてキャロット様が僕のほうを向いて頭を下げた。
「こんなことを言うのは本当に虫のいい話だと思うのですが、恥を忍んで言わせてもらうわ。前回のお兄様のことも今回のことも貴族を代表してあなたに謝罪します」
「本当に申し訳ありません。そして可能なら殿下の名誉のためにも先の実習でおこったことは誰にも言わないでほしいの」
それを聞いたジェード皇子は「あっ・・・・」と驚いている様子だ。
とそこへまた別の男性が園長室へ入ってきた。
その男は・・・・ナスだ。友人のナスが入ってきた。
そしてゆっくりと学園長に向かって言った。
「この者の友人として言いたいことがあって園長室に入った。野蛮な平民のすることだと思って見逃してくれ」
そう言って頭を学園長に下げた。
見ていてかっこいい。と思っているとナスはジェード皇子のほうに振り向き、
「貴族が平民に助けられ、さらにその恩を仇で返すようなことは絶対にプラチナ帝国のためにならねぇ。さっき殿下が仰られたように殿下が現実を直視し困難をのりこえるべきだ!」
と強めの口調である。
おいおい大丈夫か。皇族の皇子殿下にそんな言い方したら不敬罪になるよ。
そう心配していると、案の定、ジェード皇子は、
「なんだと貴様、誰に物を言っているのかわかっているのか!!」
と怒りをあらわにする。
しかしその怒声を聞いてもナスはひるまない。
それどころかさらにジェード皇子に言う。
「わかっています。ですが、女の色気で道を誤った兄のようになってほしくない。そして親友の名誉を汚されるのもこれ以上見過ごせない」
と涙を流している。
うん?なんか違和感のある言葉だなと考えていると、キャロット様が突然、声をあげた。
「あ、あなた。まさかナスタチウム・プラチアーナ様?!」
「え、え、兄上?え、まさか??」
というジェード皇子とキャロット様の2人の言葉をきいてナスは自嘲するような表情で言う。
「・・・・・俺は数年前はたしかにそんな名前を名乗っていた。だがいまは平民のナスだ」
え・・・・・ナスってジェード皇子の兄?え、第一皇子、皇太子だったの?
そう言われれば髪の色や顔立ちがジェード皇子とにているかも・・・・
でもナスは顔が日に焼け、佇まいも王族のそれとは程遠い。一方、ジェード皇子は正真正銘の皇子様という雰囲気がある。
しかし、ナスの諫言は止まらない。頭をさげて、
「いまは平民だが、帝国の一臣民として第二皇子殿下に進言いたします」
「見苦しい真似はやめられよ。手柄を横取りなどと最も卑劣な行為。あなたには兄君のような間違いをしないでいただきたい」
そう言いながらナスは涙を流している。
それを見たジェード皇子も涙を流していた。
「兄上・・・・・・兄上、申し訳ありません。私が・・・・間違っておりました」
「あのような不測の事態で気が動転してしまい、さらに大変はずかしい姿をさらしそれを隠そうと愚かな行為をしてしまいました。ですが、私にとって兄上は愚かな方ではありません。私の理想の兄でございました。」
「だからどうか顔をあげてください・・・・・兄上。」
ナスはゆっくりと顔をあげ、ジェード皇子を見据えるとまた頭を下げた。そして僕のほうをみて「身内が迷惑をかけた。すまん」と言った。
さらにキャロット様に向かって、
「あのときはすまなかった。どうしても謝りたかった。だけどその勇気が持てなかった。卑怯な男とさげすんでくれて構わない」
「しかし、この機会を逃すと二度と言えないと思った。だからいまこの場で言わせてもらう。本当に申し訳ない真似をした」
と頭を下げ謝罪した。ナスの謝罪する姿をみてキャロット様は静かに目を閉じた。それを見たナスはキャロット様に再度頭を下げてから部屋を立ち去って行った。
あのあとわかったことは、僕が保健室にいるあいだ、ジェード皇子の側近たちが事実と違う噂を広めておりその噂で僕は「底辺」なうえに「腰抜け」というあだ名が広まったらしい。
それを知ったナスは処罰を覚悟で園長室に向かったそうだ。
ジェード皇子が考えを改め、噂を流すのを止めたがもう遅い。こういう噂は広がりやすいのだ。僕が悪いというウワサはあっという間に学園中に広がった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私の名はプラチナ帝国第二皇子、ジェード・プラチアーナという。
私の懺悔を聞いてくれないか。
今回は本当に愚かな真似をしたと思う。
キャロット嬢が来てくれなければ恥の上塗りを重ねるところだった。
実は護衛についていた魔法騎士団は私の考えに同調してはおらず実際に起きたあらましを皇帝陛下に報告していたのだ。
さらに言うと、あの場にはもう一人別の人物がいてことのなりゆきを静観していた。その者が魔道具で記録した内容を魔法騎士団に提出していたのだ。
「天網恢恢疎にして漏らさず」の言葉通りだ。
聖教会の創造神実在派の言うように創造神様はわたしたちを見ていて悪いことはできないようになっているのだと痛感した。
私がした手柄を横取りするという行為は、父である皇帝陛下を大きく失望させていた。
皇帝陛下は第一皇子がいなくなったことで次の後継者を私にと考えていたそうだが、私の一連の行為を聞いて考えを改めたようだ。
何故それがわかるかと言うと、私の下には弟の第三皇子がいるのだが、後日、父である皇帝陛下は私と第三皇子、そしてそれぞれの臣下を皇帝宮に集めて話をしたからだ。
その話とは、私と第三皇子の2人を競わせて後継者に相応しいと証明できたほうを皇太子にするという内容だった。
本来は競うまでもなく私を後継者にするということで話を進めていたのにな。
しかし私は今では自分がした行為を恥じている。
なので密かに後継者争いを辞退しようと考えている。




