第4話
僕には「ギルド屋」以外のもうひとつの呼び名がある。
それは「底辺」だ。
意味はそのまま僕をバカにする意味だ。
平民の中でも僕は親もいないし後ろ盾もない。
お金も無い。功績もない。成績は普通。その上僕は、貴族と関わらないとまで明言している。
だから底辺なんだろう。
この世界、貴族と関わらずに生きていくことは不可能に近い。
そんな僕に近づきたくないという意味も含んでいると思う。
だから休み時間はたいてい一人で動くことが多い。
あ、魔法学園は単位制といって必修科目以外は自由に選択できるシステムになっているんだ。
履修するのに条件のある科目もあるけど、比較的自由だ。
なので、教室へは休み時間ごとに移動するのが常なんだ。
もっとも1学期の後半にはナスという友人ができたからそれだけで僕は充分満足だ。
折を見て退学することも考えている僕は、1人でいることに何の抵抗もなく次の授業がある教室へと移動していた。
テスト返却が終わり夏休みに入るまであと少しだ。
そのわずかな期間でも授業をする科目がある。
僕はその科目を履修していたのでその授業がある教室へと移動をしていた。その移動中、ある人に呼び止められた。
「やあ。いま、いいかい」
振り向くとプラチナブロンドの髪が風にたなびく気品のある顔立ちをした貴族が立っていた。
プラチナ帝国第2皇子ジェード・プラチアーナ殿下だ。
殿下の側には側近がいる。いずれも厳しい視線を僕に向けている。
皇子と平民、それも底辺の平民にはあまり関わって欲しくないんだろう。
しかしそんなことはお構いなしのジェード皇子は柔らかな声で、
「時間がない時にごめんね。廊下で君を見かけたものだからどうしても話したくて声をかけたんだ」
おお、さすが本物の皇子は先のライム王子とは違って何もかもかっこ良く感じる。
「先日の件を調べていくうちに、被害者のシャトルーズ嬢を主に庇っていたのが平民の君だけだということがわかったので話を聞きたかったんだ」
と言われてしまった。しかし僕は関わりたくない。
「いえいえ底辺の私がそんな大それたことはしていませんよ。かの令嬢には話のできる友人がいなかったのでほんの少し相談にのるという形をとっただけでごさいます」
「あとは、シャトルーズ様の普段の心がけが良いので皆様が力添えをしたのでしょう」
とかわそうとしたが、
「ふむ。君は謙虚だね。自分がシャトルーズ嬢を庇いあの王子を追い落とす大きな働きをしたと主張しないのか」
と言われてしまった。
この口ぶりからすると僕を高く評価しているように感じる。だが、僕はお貴族様と関わりたくない。
「それこそ勘違いですよ。底辺の私は何もしていません。あの場で勇気を出されたのはアンナ嬢ですし、それを支えたのはノワール先生です」
「すいません。授業が遅れますのでこれで」
と言って離れた。
失礼な態度だけど授業があるから大きな問題にはならないだろう。
しかし、廊下で第二皇子と話をしたことで少し目立ってしまったかもしれない。
貴族が選択する授業と平民が選択する授業、そして両者が選択する混合授業が魔法学園にはある。
さきほどはその混合授業へ行くため、貴族と平民の両方が行き来する廊下を歩いていたから第二皇子に見つかりはしたが、今度からは気をつけよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
貴族、平民の区別なく受講できる混合授業のなかで「実習」という科目が設置されている。
この「実習」という科目は腕に覚えのある者や、実践を積みたい者、危険な訓練を受けたという証がほしい者にとっては魅力的な科目のようで貴族平民、男女問わず人気がある。
そのなかで「瘴気の森実習」という科目がある。
この科目は不定期で開催されるが、その名の通り学園外の瘴気の森に入って行われる実習なのだが、本当は実習の名に借りた魔物狩りだ。
学園の実習のなかでも相当危険な部類に入る。だけどその分得られる単位が多いのだ。
魔法学園は、3年間で卒業に必要な単位を取得することで卒業資格を得られることになっている。さらに上の研究課程はプラス2年だ。たいていは貴族が進学する。
僕は少しでも早く卒業に必要な単位をとって時間を空けたほうが「ギルド屋」として活動しやすいだろうと思ってあえてこの「瘴気の森実習」という科目をとった。
ところが夏休みに入る直前にこの科目が開催されることになった。掲示板に連絡がかかれている。
そこには集合場所や日時、持ち物などもかいてある。
他にはこの実習には数名の教師が引率することや帝国の魔法騎士団までが護衛に入ることが書いてあった。
それだけ危ない実習なんだろうと思ったが、そうではなかったことが当日分かった。
当日、集合場所に集まりメンバーを見ると、その場になんと第二皇子とその側近がいるではないか。
だから魔法騎士団がついてくるのか。とようやく理解した。
しかもそれだけではなく、キャロット様までいるのだ。
思わず、「ゲッ」と言う声がでてしまった。
今までこの方たちが同じ科目をとっていたことに気づかなかった。
あ、学年が違うからか。今回は全学年合同なんだな。
まあいいや。別に悪いことはしてないし。貴族たちとは極力、距離をとろうと僕は思った。
厳正なグループ分けの結果。僕は第二皇子とその側近、そしてキャロット様のグループに入ることに決まった。
「皇族や貴族の中に平民なんか入れるなよ」
とグループを決めた人に恨み言を言った。
運営側には、僕は剣を使うので近接攻撃ができると申告していたはずだ。
しかし本当は攻撃魔法も使えるし、回復魔法も使える。単独でも冒険者ギルドCランクの力もある。が目立つことはしたくないので剣だけを使おうと思っている。
グループは僕を入れて6人。
第二皇子ジェード・プラチアーナ、側近の一人で魔法騎士団の一人でもある魔法騎士、回復担当の聖女、そしてキャロット・アプリコット様とその護衛騎士のカナイ様。
そして僕だ。はっきり言って平民が僕一人なうえに、第二皇子に対しても以前の対応があって気まずい。
さらにキャロット様に対しても気まずいのだ。あまりに気まずいので吐きそうでもある。
僕の気持ちをよそに5人は互いに挨拶と連携の打ち合わせをして瘴気の森に入っていった。
僕は必然的に盾担当なので先頭に立たされる。
まあ、皇子殿下やキャロット様に盾をさせる訳にいかないしね。
あとキャロット様の護衛を務めるカナイ様も盾役をするのでこれで2枚。
後衛のジェード様とキャロット様、側近の魔法騎士の3枚の魔法攻撃を主体にする。
仮に怪我をしたら聖女の回復がひかえているという鉄壁ぶり。
まあこれなら、よっぽどのことがない限り大丈夫だなと僕は楽観視していた。
魔法騎士団という護衛も付いているし。
ところが、
「なんか、瘴気の森の様子が変だ。おい、気にならないか。いつもと様子が違うような」
魔法騎士団の護衛のぼやきが聞こえてくる。
僕にはわからないがなにかあるのだろうか。
この実習でのノルマは、Ⅾランクなら1体、Eランクなら10体の魔物を狩ることとなっている。
何事もなく終わればいいんだけど。
瘴気の森に入り、魔物狩りをはじめてから数時間が経った。
僕たちのグループはサクサクと魔物を狩っていく。
これならすぐにノルマを達成できそうだと思っていた。しかしこれが油断だったのだ。
このあと、事件は起きた。




