第2話
実は僕には強い味方がいる。
「聖女」ノワールだ。
なんと僕を追いかけて魔法学園の教師として赴任してきたのだ。
ものすごく驚いたが、「ギルド屋」のお手伝いを申し出てくれた。
この件はノワールの手を借りたい案件なので、早速ノワールは平民令嬢と同じ聖属性持ちというつながりで接触してくれたのだ。
そして7月。
1学期期末試験がおわり、その労いも兼ねて豪華なパーティが魔法学園では行われる。
貴族の社交会に準ずるので、貴族特有のルールがあるこのパーティに僕は行きたくなかった。
しかし依頼人のためにやむなく出席した。・・・・・・かったが、パーティである以上普段着の制服ではダメらしくそれなりの服を仕立てないといけないらしい。
知らずに制服ではいろうとして警備員に止められた。そのままで会場に入れないと言われた僕は、警備員のバイトとして会場に潜り込むことになった。
おかげでパーティのさまざまなルールを知る機会が得られた。
なんと、会場に入る順番まで決められているらいし。身分の高い人ほど後で入場するそうだ。貴族ってめんどくさい。
ということで僕は警備をしながら依頼人のシャトルーズ嬢の婚約者、ライム・アイボラリー王子が会場に入るのを待った。
最後のほうでようやく入場してきた彼はそのまま壇上に上がって行った。
みんなは何事かとライム・アイボラリー王子に注目する。僕は心配でシャトルーズ嬢のほうを見た。
シャトルーズ嬢は不安なのだろう。
俯いて肩を震わせていた。
ライム・アイボラリー王子はスピーチを始めた。
「これから、この場をお借りしてある令嬢の罪を暴こうと思う」
そしてシャトルーズ嬢のほうへ振り向き、
「シャトルーズ・ベージュ、君のことだ!!」
と指をさす。
僕は白けていたが、やはり心配なのでシャトルーズ嬢のほうを見ると彼女は顔を手で覆っている。
やはりつらく感じてたんだと思った瞬間、
「きたーーーー!!「胸キュン」ファンランキングトップ3の名シーンーーーー!!生で見れるなんて死んでもいい」
とよくわからないことを言いだした。
不安のあまりおかしくなったのかと心配になった。
続いてアイボリー王国の次期宰相候補でもある側近のメガネくんが、
「君はここにいるアンナを傷つけ、さらに謂れのない罪をきせてきた。間違いないですよね」
とメガネをくいっとあげながら冷めた表情で言う。
「おおお、推しからの冷たい表情・・・尊い・・・・萌え死ぬる・・・・」
と顔を手で覆ったまま、よくわからないことを言うシャトルーズ嬢。
「それだけじゃねぇ。テストの前日たまたま通りかかったアンナをつき飛ばし階段から落とそうとしただろ!!」
という護衛兼騎士団長の嫡男。
「ふごつ!この脳筋ぶりも尊い・・・このスチルのために10万円つぎこんだ・・・」
と鼻を指で抑えるシャトルーズ嬢。
「もはや言い逃れはできないぞ。覚悟するんだな!!」
とライム・アイボラリー王子がドヤ顔で決める、が、
「ループ30回目で見れたドヤ顔王子のスチル頂きましたーーー!!!」
と握り拳をあげ我が生涯に一片の悔いなしという鼻血顔で昇天しているシャトルーズ嬢。
一方的に断罪されているのに状況と反応が一致しない。
この人図太いなーーー。
色んな意味で見ていられなかった僕は話を進めるようある人物に合図を送った。
平民令嬢のアンナである。
「待ってください!!わたし、シャトルーズ様にそんなことはされていません。」
と突然叫びだした。
「むしろ、悩んでいた私を励まし支えて下さいましたわ」
と言ってライム・アイボラリー王子たちに顔を向け、
「今日という今日は言わせてもらいます。私はアイボリー王国に行くつもりはありません!!!」
「私はプラチナ帝国の魔法騎士団に憧れています。回復魔法の使い手として魔法騎士団への入団を夢見て学園に入りました」
そういって、王子のそばを離れてノワールのそばへ行く。
「そしてここにいるノワール先生からも励ましていただき、聖属性の魔力を強化をする修行にも付き合っていただきましたわ」
とノワールの顔を見て嬉しそうにいう。
「そ・・・そんな」
と膝をつく王子とその側近たち。とそこへ、
「話は聞かせて貰った」
事態を静観していたプラチナ帝国第二皇子ジェード・プラチアーナが声をかけ、顔を青くしているライム・アイボラリー王子とその側近たちを別室へ連れ去った。
第二皇子のお説教を受けるのだろう。
あ、アイボリー王国はプラチナ帝国の傘下の国だから王子たちは逆らえない。序列4位だって。
この騒ぎのあと、パーティを始めたみたいだが、だれも学園長の話を聞かずにさきほどの出来事をウワサしあっていたらしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あのあと、ライム・アイボラリー王子はアイボリー王国に送還されることに決まった。側近たちも。
だけど平民令嬢アンナはお咎めなし。
高位の令息からの誘いを断れず、だれかに相談したかったが親しい友人もいないうえ、噂のせいでさらに敬遠されて困っていたから。
そこに教師としてノワールが平民令嬢アンナに声をかけ事情を聞くことができたというわけだ。
これがなければここまでスムーズにいかなかったと思う。
全て終わった後、シャトルーズ嬢がお礼を言いに来た。
だけど、
「ゲームのシナリオ通りに進まなくてよかったわ」
「ゲームでは顔も名前も無いモブだったけど、私にとっては最高のモブよ。」
と最後までよくわからないことを言っていた。顔を赤らめながら言っているが、多分貶している。モブが何かわからないけど。
「依頼の報酬は支払うけど、それとは別にお礼がしたいの。こう見えて公爵令嬢だし何か力になれるわよ」
と言ってくれたが、僕の本音は「これ以上貴族と関わりたくない」だった。
もともと平民専門として「ギルド屋」をしていたところを彼女がどうしてもと頼み込んできたから引きうけたということもある。
そのことを彼女に伝えると寂しそうに、
「そう、わかったわ。ならお元気で。でも本当に助かったのよ。その気持ちは嘘じゃない」
と言って立ち去った。
貴族にだって話を聞いてくれる人はいる。そんなこと頭ではわかっているけど、また裏切られるかもしれない。
僕はしばらくの間、シャトルーズ嬢の立ち去ったあとも動けないでいた。
(作者に代わってエクレアからの一言メモ)◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ご主人様をモブ扱いするとは万死に値しますね(怒り)
この世界は日本のゲームとは関係ございません。ご主人様をモブ扱いする狂った令嬢の言うことは真に受けないでくださいませね。
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