第13話
僕がアプリコット家を解雇されてから数カ月が経った。
僕は15歳になった。
あれからエクレアたちとは会っていない。
僕はいまプラチナ帝国の帝都プラチナムの平民区に住んでいる。
あのあと最初にしたのは、皇帝宮の門のそばまで行って、皇帝宮に向かって身体を折り曲げ頭を下げて挨拶をしたことだった。
「このたびはご迷惑をおかけしました。そしてお世話になりました」
こういう事はきちんとやらないとやっぱり僕は気持ちが悪い。あいさつは済ませておきたかった。
本当はアプリコット公爵家の家臣だったからアプリコット領のお屋敷までいくのが筋だと思うけど、あのときはあれが精いっぱいだった。
悔いはない。
悔いがあるのは、エクレアたちにした仕打ちだ。
後悔してもしきれない。
ただの八つ当たりだ。
それも言い返さないとわかってしたんだから、僕の嫌いな貴族と同じだ。
エクレアはきっと八つ当たりされたことに気づいてる。
もう僕に愛想を尽かしてるかもしれない。
そう考えるとエクレアたちに会うのがとても怖く感じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕はいま商業ギルドでソロ活動をして生計を立てている。
一人でクエストを受け、達成して報酬をうける。そしてそのお金で食料品や日用品を買い、一人で生活をする。
僕のような商業ギルドで依頼を受ける人のことを商業人と呼ぶらしい。
それ以外に個人で何かを売り買いする者を商人と呼び、規模が大きくなると商会と呼ぶのだそうだ。
僕には物の売り買いする経験もスキルもないから商業ギルドの依頼をうけるだけにしている。
え?冒険者ギルドには行かないのかって・・・・・・うん、もう冒険者は前の経験でこりごりしている。
もう商業ギルドで登録をしたし、当分は商業人としてギルドの依頼をこなすことに決めた。
ギルドの依頼内容はざっと、貴族区から平民区への配達、貧民区へ行く商人や商会の護衛、商品の調達などがあげられる。
今、僕は商業ギルドのⅮランクになっている。高くも低くもない。
ギルド職員は僕のことを依頼に忠実でもめ事を起こさず依頼人を怒らせない都合の良い商業人と思っているらしい。
ギルドに都合よく使われているけど、貴族から受けた仕打ちに比べれば何倍もマシだ。
以上が僕の現状だ。
あ、あともうひとつ大事ことを言ってなかった。
エクレアたちと別れたすぐあと、懐かしい人と再会した。
それは、「聖女」ノワール・・・・さん。本人からはさんづけせずに呼び捨てしてほしいと言われていたけどまだ慣れない。
以前の冒険者パーティで回復担当として大活躍していた人だ。そしてパーティ内で唯一僕にも親切に接してくれた人。
まさしく聖女と言っていいぐらい優しい人なんだ。
このプラチナ帝国の帝都プラチナムには聖女を育成するエリューシオン教会の総本山がある。
ノワールさんもここで修行をして聖女になったらしい。
そのあと、ある理由で冒険者として僕たちのパーティに参加してくれた。
いまは、エリューシオン教会の総本山にもどって、後進の育成に努めているらしい。
依頼中の僕と平民区でばったり会い、そこから3日に1度は店で食事をするぐらいの仲になった。
今日も酒場で食事をしようということになったが、今夜はとくに酒癖がひどかった。
お酒を飲み始めてから1時間。
ノワールさん、ノワールは酔っ払ってぼくのほっぺたを人差し指でつついてくる。
「うへへへへ。ほっぺた、つんつん~~~~~」
かと思うと今度は僕の腕をさわって
「けっこう硬いのね~~~~~」
さらに耳元で、
「ねえねえ。私のご主人様になってよ~~~~~~~。ご主人様~~~~~~~」
と言ってくる。
ちなみに僕はご主人様といわれるとエクレアたちを思い出すので少し複雑な気分になる。
ノワールは酔っぱらってこんなことを言うのだが、ここまで酒癖がひどいとは思わなかった。
僕だからいいけど他の男性だと勘違いするよ。
聖女様もストレスがたまるのかな?
そう考え事をしていると、さらにノワールは僕の体をベタベタ触る。
酔っ払いに逆らってもいいことは無いので身を任せているとノワールはさらにいけないところまで触ってきた。
「わかったから、ちょ、はなして。わ、そこ、ダメなところ。触っちゃダメーー」
しかし、ノワールは容赦ない。立派な逆セクハラだ。
「えへへへへへ。ご主人様になってくれるんなら言うことを聞くよ~~~~~」
一体なんのプレイだ?と思いながらも酔っ払いに逆らってもいいことは無い。
とりあえず承諾しないとさらに絡まれるのだ。
「わ、わかったから、わかった。もうなんでもいいから。ちょ。ちょ~~~~~」
と言うとやっとノワールは離してくれた。
そして僕を見てにんまりと笑い、
「ご主人様。これからよろしくお願いしますね」
といたずらっぽく言う。
ノワールはこれ以降、僕のことをご主人様と呼ぶようになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ある日、僕は商業ギルドへ呼ばれた。
ギルドにつくと待っていたギルド員が僕をみて呼ぶ。
どうやらギルド長直々に僕に用があるらしい。難しい依頼だと察せられたが仕方がない。
どんな依頼をされるのかとびくびくしながら執務室に案内され、腰掛けているギルド長に目を向ける。
「君には今年の4月からプラチナ帝国立魔法学園へ生徒として入学してもらいたい。依頼ランクはCランク相当だ。学園で学生を相手にギルドの代行を請け負ってもらいたいのだ」
嫌だけど、拒否できる雰囲気ではない。
それに、いまだにエクレアたちへの言葉を後悔している僕には、環境を変えて頑張ったほうがいいかもしれないと思った。
そう考えると学生というのも悪くない。そう思えた僕はギルド長に、
「ありがたく引き受けさせていただきます」
こうして僕は、プラチナ帝国立魔法学園へ学生として入学することになったのだ。
第2部 本編 終わり
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