第8話
エボニー砦の攻防戦がはじまった。
シルバー王国5000にたいし、プラチナ帝国側は500。
僕はその500を率いて砦を守る将についている。
シルバー王国の将はだれかはわからないが、兵士の士気や戦術をみるに決して凡庸ではない。
対して僕は100人隊長としての経験はあるけどそれだけだ。
砦の守城戦の経験などない。
お互いの兵の士気は互角だと思う。
だけど、数の多さと将の差がありすぎるのか、じわりじわりと砦の兵士に被害が出始めた。
砦の兵士たちは僕の指示を聞き、良く防いでくれた。ぼくもまた必死の指揮をした。
しかし、力量不足のためか、まだ死者こそ出ていないが、けがをする者が増えてきたのだ。
ケガをし、ついには倒れて動けなくなる兵士も出てきた。
その数が20人を超えようかというとき、僕はようやくシェラたちメイド兼従者の力を借りることに決めた。
「シェラ、イオニア、リューシュ、近くにいるかい?」
僕は近くにいるであろう3人の従者に声をかけた。
この戦いに手を出してほしくない僕の気持ちを見抜いていた3人の従者は、僕の身を守りながら側に控えていた。
しかし僕は自分のプライドを捨てて、この3人に助力を請うた。
「どうやら僕だけの力ではだめみたいだ。頼むよ。この状況をなんとかしてくれ。この砦を救ってくれ」
それを聞いたシェラが表情を変えないまま、
「委細承知しました。後のことは我々にお任せを・・・・」
と言うのだけど何か他に言いたそうな感じを受けた。
僕が「どうしたの?」と聞くと代わりにイオニアが答える。
「一つお耳にいれたいことがあります」
「いま帝都の皇帝宮で巨大な邪神なる魔物が皇帝陛下やアプリコット公爵殿らを襲っているようでございます。こちらも何とかしたほうがよろしいですか」
なぜ遠く離れた帝都のことがわかるかなんて僕はそんな愚問はしないよ。彼女たちはわかるんだろうね。
そして大恩ある公爵様の命が危険にさらされているなら僕の答えは決まっている。
「もちろん可能なら公爵様の命も救ってくれ。だけど、こんなことを言っておいてなんだけど、そんなことできるのかい?」
と聞く僕にイオニアが申し訳なさそうな表情で、
「10・・・・・いや5分いただきとうございます。ご主人様。申し訳ありません。誇らしきご主人様のお側を5分離れることをお許しくださいませ」
え・・・・・帝都だよね。
帝都、馬で2,3日かかったよね。
それに邪神??という魔物がいるのを5分??5日の間違いじゃなくて?
しかし、よくわからないが、僕がやってくれといったことは全て実現させてきた優秀なメイドたちだ。
今回も大丈夫だろう。
「かまわない。やってくれ」
と僕が言うや、
「ハハッ」
という短い返事とともにまずイオニアが姿を消した。
それを見計らったかのように続いてリューシェが右手を静かにあげ魔力を込めた。
すると当たり一面が光り、砦全体の兵士の傷がたちまち癒され、傷やケガが回復をした。
「これは、回復魔法?? 聖女さまがいないのに一体だれが?しかもこんな強烈な回復魔法は体験したことがない」
中には過去の古傷まで治ったと感激する兵士までいた。
「まさに奇跡のみ業だ。聖処女神エリューシオンさまが近くにいて俺たちを見てくれているみたいだ」
「エリューシオン様ばんざーい、創造神様ばんざーい!」
と砦のあちこちから歓喜の声があがっている。
兵士の士気はこれ以上ないぐらい高まった。
次にシェラがフードをとり、認識阻害魔法をはずして兵士の前に姿を現した。
ただし、いつの間に用意したのか黒い鎧と兜をつけて素顔を隠した状態でだが。
シェラが砦の兵士に檄をとばす。
「皆の者、よく聞け。この砦に卑怯にも宣戦布告なしに襲ってきた野蛮な輩がいる。そのものから砦を守っている諸君らを神は決して見捨てないであろう。そして勇敢にして愛国精神あふれる諸兄らを私が導こう!!」
シェラの言葉に兵士の士気が高まるのを感じる。しかしベテラン兵があることに気づいた。
「この気配にこの魔力はまさか・・・」
僕もこの雰囲気にのまれそうだが、なんだろう?この身震いするような感じは。
シェラがいつもとは違う人に見える。
そして次にシェラが放った言葉で士気が際限なくあがった。
「全軍」
「剣をかかげよ!!」
短い2つの言葉と、片手をあげる動作。
たったこの一連の動作だけで、この砦に奇跡がおきた。
僕を含めて兵士の体の芯から熱いものがこみあげてきたのだ。
オオオオオオオオォォオオオオオ!!!!
シェーラ!シェーラ!シェーラ!
「間違いない。この方は大英雄、大将軍シェーラ様だ!!!」
「なぜ俺たちの味方をするかはわからないがこの方が味方なら勝利は間違いないぜ!」
もはや収拾がつかないほど砦の兵士のシェーラコールが止まらない。




