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第7話

僕たちがエボニーの砦について2日がすぎたとき、事件はおきた。


砦の向こう、シルバー王国との緩衝地帯になっている森の向こうから大勢の人間が近づいてくる気配がした。


砦の見張りも気づいたようで伝令が砦の守将のもとへ走る。


「伝令、シルバー王国の方角から5000ほどの人数が近づいています。旗は銀、シルバー王国軍と思われます」


と悲痛にもにた叫ぶような声で守将のフロスティ騎士爵に伝えていた。


「ヒィッ、なんだと、馬鹿な。王国とは協定を結ぶのではなかったのか。第一、ここに敵が攻めてくるなんて聞いてないぞ!」


と慌てた様子で落ち着かない。


イオニアが言うには、このエボニーの砦は辺鄙な場所にあり過去一度も戦争が起きたことのない場所なんだそうだ。


砦は強固に作っているが、兵士も家族連れで赴任するし、町は平和でどんどん人口が増える。


ここの守将も、戦争をしたくないが箔をつけるためにわいろを使って赴任する者も多いという。


簡単に言うと安全な砦だったらしい。しかしそうでは無くなった。


エボニー砦は幸いなことに傭兵として金で雇われた歴戦の強者が多く滞在しており経験は守将よりあるらしい。


・・・・・・・なんだそりゃ。


「とりあえず、エボニー砦にシルバー王国軍が攻めてきたということをクリムソン様に報告しなければ」


と僕が動こうとすると、それを聞きつけた守将のフロスティ様が、


「わしがやるぅぅぅぅぅ!!」


「わしが、わしがその伝令をするぅうぅぅぅ!!そうじゃ、こんな大事なことはほかのものに任せられん。帝都へはわしが行くことにするぞ。その間、この砦をお主に任せる!」


と血走った目で肩をつかまれ有無をいわさずフロスティ様は出て行かれた。


おいおい、砦はどうするのよと思わず心の中で僕はつっこんだ。


「やっぱな。あのハゲデブ、自分だけにげやがったぜ」


「絶対逃げると思ったぜ。あの悪臭ハゲが」


「だいたいなんであんなやつが守将なんだ。上は一体何を見てるんだ」


と口々に兵士が悪口を言い始めた。


よっぽどうっぷんがたまってたんだろう。


しかし、相手の5000は止まらない。


対してこちらは500と聞いている。


敵が攻めてこようとするこの現状で、救いはこの砦の防衛能力が優れていることと兵士の士気が低くないということだ。


ただ困ったことに兵士をまとめる将がいない。僕は、


「ジャスパーさまはいなくなったけど、副官はいるんでしょ。その人が指揮をとって一時的に砦を守ることはできますか?」


と聞いていみると、


「副官という職務のひとはこの砦にはいないんすよ。給料をあのクソ守将が横取りしてたから・・・」


予想をこえるクズっぷりーーーーーーーー。


しかしグズグズしていられない。


指揮をとる人間をきめないと軍は必ず崩壊する。


どうしようか考えていると兵士の一人がおずおずと僕に向かって、


「あのーー。あなたではダメなんですか?外部からきたとはいえ、公爵さまの家臣ですよね。アプリコット家は相当優秀でないと雇われないと聞いています」


「それに一応、守将から砦を任せたといわれていましたよね。あれで指揮権の譲渡を口頭ですませたとも見なせますが」


ちょっとまってーーーーーーー!!


15歳にもいかない外部の僕に指揮をまかせるっていうの??


「あ、でも過去に100人隊長を務めたことがある」


と口に出したこと僕は後悔した。兵士は、


「やっぱり。見た目は若いけど指揮を執った人特有の気配を感じていました」


と嬉しそうに言う。


そんな気配ってあるの???


こうしてなしくずしに僕がこの砦の指揮をとることになった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そのころプラチナ帝国の帝都プラチナムでは、まさに協定の調印式が行われようとしていた。


皇帝宮の大広間に舞台を整え、帝国の皇帝以下、大臣、公爵家当主をはじめ国の要人がこの歴史的な行事に参加をしていた。


対するシルバー王国の代表を務めるジングート・サンライズはこの調印式を前にして胸騒ぎを感じていた。


戦場に立ってきたものだけが身に着ける第六感のようなものがこの場で何かが起こることを感じていたのである。


しかし、ジングートは緊張のせいかもしれないと思っていた。


さすがにこの厳重な警備の中でそのようなことは起きない。


そう思った瞬間ジングートは、


ドゴォォォォォォォォン!!!


という大きな衝撃音がおきるのをきいた。


「何事か!」


と叫ぶと同時に、皇帝宮の大広間の天井がくずれ、目の前に巨大な黒い影が差す。その黒い影は巨大すぎて全貌をつかめないほどなのだ。


魔物・・・・・と呼ぶには凶悪すぎる。


この魔力。この威圧感。


伝説に伝え聞いた「創造神がつくりし7つの邪悪な災厄」の一つである邪神によく似ている。


だが、何の前触れもなくこれほどの魔力をもった邪神がこの場に現れるわけがない。


なんらかの手段でこの邪神を呼び出し、調印式をつぶそうというやつらの仕業であろう。


あわよくばプラチナ帝国とシルバー王国の要人たちをも一網打尽にするつもりかもしれないとジングートは考えた。


とその時、


グオオオオオオオオオオオオオ!!!


邪神の叫ぶ声が広間に響き渡る。


声に魔力がのっているのか、聞くだけで体力や魔力が失われていくようだ。


すぐさま退避し、身の安全を確保せねばならない。


ジングートがあたりを見渡すと、魔法騎士団はすでに防御の陣形を敷いて皇帝や公爵ら要人を守っていた。


防御を固めた魔法騎士団は皇帝以下要人たちに強力な防御結界魔法をかけ始めるのと同時に、邪神への攻撃を開始した。


ギャオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


と相変わらず魔力ののった叫び声をあげている。


しかし、魔法騎士団が防御を固めているため、大広間はがれきで見る影もなくなったが、皇帝や要人たちが命を失うことはなさそうだ。


ジングートはこんな時ではあるがなんとか調印式が行われてほしいと考えていると、扉の向こうから緊急を要する伝令が届いた。


伝令兵は大広間の惨状や巨大な邪神をみて驚いているが、職務を果たそうと伝令を伝えた。


「伝令!!連絡用のろしが上がりました。エボニー砦が襲撃をうけています。方角から見てシルバー王国の襲撃と思われます」


ジングートはその伝令を聞いて耳を疑った。


軍部をまとめる私がここにいる以上、シルバー王国軍がプラチナ帝国に襲撃することはありえない。


そのような軍の動きもない。


私への反対派はいるが、軍をうごかし帝国に襲撃まですることは反対派であってもありえないのだ。


とすると、考えられるのはシルバー王国軍以外の軍。王国傘下の国の軍を動かしたと考えるほかない。


そこまでするならば、プラチナ帝国の反対派とシルバー王国の反対派が結びついて両国を乗っ取ることまで考えるだろう。


「クーデターか?」


私がことの重大さに気づいたと同時に帝国側の大臣もそのことに気がついたようだ。


「ジングート閣下。これはシルバー王国の総意か?それともそちらの一部の者の企てであるか?」


とタンジェリン・マゼンタ内務省長官が問うてきた。


「もちろん、これは一部のものの独断です。しかし、シルバー王国の代表として私がこの不始末の全責任をとります」


私はそう言うやその場で地面に頭をつけ、


「この不始末は不肖ジングートが全責任をとります。ですのでまずはこの目の前の邪神をなんとかしていただきたい」


「そのあと、エボニー砦を襲撃した軍の討伐に全力を尽くします。どうかいまはこの私の言葉を信じていただきたい!!!!」


「平和のため、この協定を心から願って私はいる。どうか信じてくれ!!」


と必死で皇帝陛下ならびにタンジェリン・マゼンタ内務省長官にむかって土下座をした。


その間も魔法騎士団の最強を誇る第1軍が邪神への攻撃の手を緩めていない。


ところが、


バキイイイイイイイイイイ


といやな音がした。


魔法騎士団の総力をあげた攻撃魔法が邪神にはじき返されたのだ。


「くそ!!!攻撃魔法を防ぎ切った。一体どれだけの魔法防御を有しているのだ!!」


第1軍から悔しそうな声が広間に響き渡った。


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