第10話
「シェラ、先ほどの軍議で決まった作戦はどう思う?」
僕は、目立たないようにしていた従者のシェラにそう聞いた。
「愚策と思います」
シェラはきっぱりと言い切った。
「「広がり」の陣は攻撃重視で「固まり」の陣に対し相性がいい。ですが、教科書のお手本通り過ぎます。相手がお手本どおりに陣を構えることは実戦ではあり得ないことです」
「このままいくと、わが軍は全滅もあるでしょう」
シェラの断定する口調に僕はすっかり自信をなくし戦争が怖くなってしまった。
「・・・・・・・・・」
「続けてもよろしいですか?」
黙ったままでいる僕に対し発言を続けてよいかシェラは聞いてきた。僕はなにもかも初めてで、むしろシェラの意見を聞きたいと思うぐらいだ。
黙ったままうなずく僕を見たシェラが話を続けてくれた。
「そもそもクロッカス将軍の陣は「固まり」の陣ではありません。あれは「固まり」に似た「一点突破」の陣で強力な武力を持つ者を先頭において一斉突撃を行う極めて攻撃的な陣です」
「コーラル軍は戦術や陣形の研究が盛んで、こちらが知らない陣で一気に勝負を決めるつもりでしょう」
「本来なら突撃した軍を後方から包囲すれば良いのですが、それが出来るのは前提として士気が高く充分に訓練されているということが必要なのです」
「ですが士気が低く充分に訓練されていない我が方は相手方を包囲できずそのまま突破されてしまうだろうと予想いたします」
なるほど。すごくよくわかる解説だった。
たしかに、言われてみればこちらは包囲に動かないといけない重要な位置に平民隊が配置されている。おそらく平民隊は何もできないまま突破されるだろう。
対して、クロッカス将軍は遠目でもわかるほどに意気高揚としている。
軍の真ん中に位置し、武器を片手に今から一戦しようという気配だ。どう見ても長期戦をする様子ではない。
「広がり」と「一点突破」・・・・・
果たして軍配はどちらの陣形にあがるのか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ものども突撃じゃあ!!ブルー王国の腰抜けどもに戦争の仕方をおしえてやろうぞ!!」
クロッカス将軍の号令とともに戦闘が開始し、コーラル王国軍が一斉突撃をしてきた。
アクア将軍も負けじと声を張り上げ、
「コーラルのやつらめ!!だまっておとなしくしていればいいものを何を血迷ったか突撃をしてきたぞ。手筈通り、やつらを包囲し、殲滅するぞ!!」
アクア将軍は震え上がる王国軍の士気を上げるため檄を飛ばすが、致命的なことにまだ気づかないでいた。
それは包囲作戦の要となる隊が平民であり、隊長も実践訓練をしてない文官であり、やる気もなければ作戦の内容もよく聞かされていないことだった。
案の定、コーラル軍がアクア将軍の軍に接近しても包囲する筈の平民隊は動けないでいた。
「なぜ、動かない。いま動けば包囲できるのだ。うごけうごけーーーー。伝令だ。すぐに動けと言えーーー!!」
絶叫するアクア将軍のもと、クロッカス将軍自らが王国軍の騎士を屠りながらアクア将軍に迫っていった。そして馬上から武器を片手に、
「ブルーのこわっぱ将軍め、お前の首をとりにきたぞーーーー!!」
と叫ぶ。
そしてあっという間にクロッカス将軍の大きな斧がうなりをあげ、アクア将軍の首を斬ったのだった。
それを見たクロッカス将軍の副官が勝利の鬨を上げようとした。
しかしそのとき、信じられないものをクロッカス将軍の副官は見た。
クロッカス将軍であったはずの首がなくなっているのだ。
なんとクロッカス将軍も首を斬られていたのだ。
「将軍がーー!!将軍の首がないーー!!!なぜあなたがああ!!」
クロッカス将軍の副官は馬から落ち戦意を失ってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時間を少し巻き戻して。
僕は、シェラから作戦を説明されていた。
「わが軍の勝利への作戦をご説明申し上げます。麗しきご主人様ひきいる100人隊がコーラル軍1000人の軍の真後ろから突撃をしていただきます」
「その軍を後ろから突き抜けて先頭まで行き、そのまま相手将軍の首をねらう。勝つにはこれしかありません」
この作戦を聞かされたときは僕にそんなことができるのか不安だったけど、実際にはすべてシェラの言葉どおりになった。
クロッカス将軍は「一点突破」の陣で突撃をしても、わが軍は包囲作戦を実行できずにいた。
しかしアクア将軍の部隊は多少の抵抗をクロッカス将軍にしていたのだ。
そのすきに僕の隊はコーラル軍の後ろから突撃することができた。
軍は前からの攻撃には強く抵抗するが、後ろからの攻撃には思ったよりも弱いのだそうだ。シェラが言ってた。
「みんな!!前を見ろ!!ただ僕の後をついてくるだけでいい!!勝利は僕の背中の向こうにある!!」
シェラから言われた檄をそのままとばす。
突撃前は兵は萎縮してしまう。そこで檄を入れると良いですと言われたのだ。
するとホントに皆の目の色が変わった。
恐怖におびえていた色がなくなり、ひたすら僕のあとをついてくる。
その兵の勢いをそのままにシェラの言った通りに隊を動かし、クロッカス将軍の率いる隊の後ろから突撃をしていった。
その言葉どおり全然抵抗もなく、僕は、すぐに先頭のクロッカス将軍の後ろ姿をみつけることができた。
そしてすばやく将軍目掛けて剣をふるう。
残念。
僕の一撃は届かなかったが、しかしクロッカス将軍の首はとんでいた。
つまり、目に見えないほどの早業でシェラがやってくれたんだろう。
しかし、こちらの大将であるアクア将軍も首をとられているので、全面的な勝ちとはいかないなと思いながら周りを見渡すと、王国軍も平民隊もみな勝利したかのように沸きだっていた。
その様子を見て安心した僕はとりあえず、
「みんな。お疲れ様」
と笑顔で3番隊のみんなに声をかけたのだった。




