第1部 ブルー王国編 第1話
初投稿です。よろしくおねがいします。楽しんでもらえると嬉しいです。
「お前はクビだ。このパーティーから出て行け!!!」
いつか言われるだろうと思ったが、何もこんな人のいる場所で言わなくてもいいじゃないか。
僕は目の前でドヤ顔をしている一人の青年を見ながらそう思った。
ここは多くの冒険者が活動していることで有名なオーキッドの町。
オーキッドはブルー王国でも有数の町で都市と言っても差し支えないほどの規模だ。
そのオーキッドの町の中心部に冒険者ギルドの建物がありここはその1階の受付広場。
達成した依頼の報告をしにきた冒険者が何個かあるカウンターの一つを選んで受付のギルド員に報告をするための場所だ。
人が多く集まる受付広場で大きな声をだすものだから他の冒険者も受付のギルド員もみんな僕たちを注目している。
大声で解雇宣言をしたのは、僕が所属するパーティのリーダーであるリックだ。
リックはこの冒険者ギルドでも1,2を争うほど人気のある冒険者だ。
しかし彼は自己中で、自分の意見を優先にする困った性格をしている。
リック率いるパーティーメンバーはリックに直接物申すことはできないので表情で僕に心の内を代弁してくる。
あんたの力が足りないんだから仕方ないじゃんという表情をしているのが魔法担当のオリエで、リックの暴走を止められなくてすまんという顔をしているのが盾担当のザナケル。
しかしリックから予告めいたものは以前からあったのだ。
暇さえあればリックは僕のほうを見ながら、上を目指すために力のないやつは遠慮なく切ると宣言していた。
だから僕を辞めさせたいんだろうなと思っていた。
そして僕たちのパーティーは先ほど、Bランク相当の魔物であるサーベルタイガーの討伐を終えたところだ。
この魔物はオーキッド周辺ではもっとも強く、冒険者のみならず街道をゆく商会の輸送隊にも被害が出ていた。
ずっとオーキッドの住民を悩ましてきた魔物を僕たちが討伐に成功し、その依頼報告をする前に僕への解雇宣言をしたのだ。
今僕は14歳、このパーティーに入って1年が経とうとしていた。
これでもパーティーに少しは貢献していたという自負があったが、どうしても火力の面では1歩及ばず悩んでいたところだった。
そんな僕をずっとかばってくれていたのが、今この場にはいない、回復担当の「聖女」ノワールだった。
ことあるごとに、僕に突っかかってくるリックをかばってくれていたのだ。
だから、彼女がいないうちに僕に解雇通知をしたのだろう。
「わかったよ。パーティをやめる」
僕の言葉を聞いてリックはにんまりと笑った。
続いて、僕がとった行動は、姿勢を正し、身体を折り曲げ頭を下げて別れの挨拶をしたことだった。
「この1年間本当にお世話になりました!」
こういう事はきちんとやらないと僕は気持ちが悪い。
どんな相手でもあいさつはきちんとすべきだと思う。
顔を上げると既にリックを含めたパーティーメンバーは僕のそばを離れ受付のギルド員に依頼の報告をしていた。
もうパーティを抜けた僕に興味ないのだろう。
その冷たい態度に僕は落ち込みそうになるが、気持ちを切り替えて次を考えた。
そうだ。パーティをクビになったけど、もともと自分を鍛えるために冒険者を始めたんだ。
今回のことでひとまず区切りがついたと思って一度家族のみんなのところへ帰ろう。
そう考えると久しぶりの我が家に帰ることが楽しみになってきた。
そして1年前に家を出たきりで一度も帰ってなかったことに気づいた。
ちょっと薄情だったかな。
ひとしきり反省をした僕はオーキッドの町を後にして逸る気持ちを抑えて家へ帰ることにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいま」
1年ぶりのただいまのあいさつをして僕は我が家のドアを開けた。
「まぁまぁまぁお帰りなさいませ。ご主人様」
驚きながらも温かい声で出迎えてくれたのは、僕の母親代わりと言ってもいいメイドのエクレアだった。
メイド服に身を包み僕を出迎えてくれた。
「1年ぶりでございますね。よくお戻りになられました。お疲れではないですか。早速お食事にしましょうか、それともお風呂になさいますか?」
と目をキラキラさせながら僕に聞いてくれた。
そうだった。
1年前まではいつもこんな温かい声を聞いて過ごしていたんだっけ。
だけどどうしても外の世界で自分の力を試したくなった僕はオーキッドの町へ行くため家を出たことを思い出した。
結局1年付き合ったパーティーから理不尽な目にあうという結果に終わったんだけど。
それともう一つ家に帰ってきて気づいたことは、エクレアがものすごい美女であるということだ。
外の世界へ出るまでは家族として接していたので気づかなかったが、今の僕はエクレアがとんでもない美人であることに気付いてしまい、どきどきしている。
メイド服の上からでもスタイルが抜群なことがよくわかる。
こんな美女、少なくともオーキッドの町にはいなかった。
やばい。
見ちゃいけないとわかっているのにメイド服の上からでもわかるくらい盛り上がった豊かな胸元をチラチラ見てしまっている。
エクレアはその様子に気づき、にっこりと微笑み、
「私の身体が気になりますか。ご主人様さえ良ければこの身を使ってご奉仕をいたしますが?」
うおおぉーい。何言っちゃってるの。
こんなことを言うキャラだったっけ?
1年前までは母親のような家族のような存在だと思って接してきたのに。
そういえばなぜ僕のことをご主人様と言っているのか。
これも今初めて気づいた。
どう返答しようかと悩んでいるとエクレアは、冗談ですよとニッコリ笑って微笑んだ。
そ、そうだよな。ははは。じ、冗談に決まっている。
緊張している僕を解きほぐすための冗談を言ってくれたんだ。
気持ちが落ち着いた僕は話を元に戻す。
「おなかがとても空いたのでご飯を用意してくれないか。久しぶりにエクレアの食事が食べたいな」
と言ってみた。
エクレアはすこしばかり僕の顔をみつめて残念そうに、
「・・・・・承知いたしました。しばらくお部屋でお休み下さい。食事ができましたら、声をかけますので」
そう言って、静かに台所へ戻っていった。
あーびっくりした。まだ心臓がバクバクいってるよ。
エクレアの言葉どおり部屋でゆっくりしながら荷ほどきをし、荷物のチェックをしながら時間をつぶしていると料理ができたとエクレアが呼びに来てくれた。
その後僕は食事をとり、用意してくれていた風呂に入り、ベッドにもぐりこんだ。
あたたかなベッドは久しぶりだ。
いつも野宿が多く、たまに町へもどって宿に入ってもこのような温かいベッドではなかった。
本当に帰ってきたという実感がわいてきた。
実は、我が家のメイドはエクレア1人ではない。
他に4人もいる。
先程の食事では僕に気を遣ってか挨拶もそこそこに黙って給仕をしてくれていた。
でも、本当は僕とお話ししたかっただろうなぁ。
あんなに仲が良かったし、あんなによくしゃべったし。
しかも、エクレアにいずれ劣らず、美女でスタイル抜群でって、なぜ僕は1年前まで何の違和感も感じなかったんだろうと思ってしまう。
メイドたちのことをあれこれ考えているうちに僕は眠りに落ちた。




