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ハイム道具屋の日常手記  作者: 夜眠
第1章:龍王祭の騒動
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46話:神父

「あらら〜、あらら〜! もしかして王子様、ヤキモチ焼いてるのかしら〜? 嫉妬してる王子様も、とってもキュートだわあ〜!」


エイヴァが珍しく急所を突き、嬉しそうに巨体を揺らした。ロルはきまり悪そうに顔を背け、強引に話題を戻そうとする。


「……うるさいですよ。それで、結局私たちに何の手伝いをしてほしいんですか?子供たちと遊ぶだけでいいんですか?」


「それは一部よお〜。他にもあって——」


エイヴァは言いながら牧師服のポケットをまさぐっていたが、ふと自分の頭を軽く叩いた。


「あらやだ〜、あたしったらうっかりしてたわあ〜。メモ帳をお部屋に忘れてきちゃったみたい〜。王子様、ちょっと取ってきてくれないかしら? あたし、今は手が離せないのよお〜」


その一連の動作と口調はあまりに流暢だった。普通の人間なら、エイヴァが単純なミスを犯しただけだと思うだろう。


だが、彼と付き合いの長いロルが、その下心を見抜けないはずがなかった。


「……私が部屋に入ることで、しばらく私の気配を残しておける、とか考えてるんじゃないでしょうね?」


「さすがは王子様〜! あたしのことなら何でもお見通しなのね〜っ!」


見透かされた下心に対し、エイヴァは隠そうともせず、むしろ両手で頬を包んでしなだれかかった。


「……分かるに決まってますよ! 前回も同じことをしたじゃないですか!」


文句を言いながらも、ロルは腰を上げて教会の中へと入っていった。


相手の言う通り、エイヴァの部屋の場所は把握している。


礼拝堂を避け、廊下の突き当たりにある階段から直接三階へと上がる。


木材を多用し、子供たちのために温かい雰囲気で整えられた二階とは異なり、三階は牧師や修女たちの居住区となっていた。純白の石壁が微かな光を反射し、厳かで神聖な空気が漂っている。


廊下の突き当たり、窓際にある部屋へ向かおうとしたその時、ロルの視界に人影が映った。


白袍を纏った男が窓辺に立ち、静かに庭園を見下ろしている。


ロルの観察によれば、エイブダムでは珍しい純血の人間だ。


薄い亜麻色のウェーブがかった髪が肩に触れ、丸いフレームの眼鏡が穏やかな光を宿している。純白の長袍には塵一つなく、隠しきれない神聖な気品を放っていた。遠目から見ているだけでも、それが非常に高価なものであることが伝わってくる。


その荘厳な佇まいとは対照的に、体つきは少し細身で、強健さとは無縁に見える。


違和感の原因は、今この時、牧師や修女たちは皆階下で明日の龍王祭の準備に追われているはずだということ。そして、彼が着ている白袍の意匠を、ロルは一度も見たことがなかった。


視線に気づいたのか、男がこちらを振り返った。


「見慣れないお顔ですね……」


最初、その瞳の奥には突然現れた見知らぬ者への警戒が宿ったが、すぐにそれは温和な微笑みへと変わった。彼は小さく頷き、恭しく一礼する。


「もしかして……あなたが ロル・マフィロさんでしょうか?」


「……私のことを知っているんですか?」


「ええ。ここ数日、ブートがしきりにあなたと妹さんの話をしていますから」


ブートの名前を聞き、ロルはようやく警戒を解いて歩み寄った。男の隣に並んで気づいたが、最近出会った同性の中では唯一、自分よりも背が低い。


彼は褐色の瞳を細め、穏やかでどこか曖昧な微笑を浮かべていた。存在そのものに透明感があり、油断すれば夏の暑さの中に消えてしまいそうなほどだ。


「先日、彼らに力を貸していただいた件。お礼を申し上げると共に、心からの祝福を捧げさせてください」


男は手を胸に当て、深く腰を折った。


「いえ、気にしないでください。大したことではありませんから」


「ご謙遜を。あなた方の成したことは、賞賛に値する素晴らしいものです。機会があれば、あなたと妹さんの事績を記録し、後世に語り継ぎたいほどですよ」


「ちょ、ちょっと待ってください! 本当に、そんな大袈裟なことじゃないですから!」


あまりに重々しい口調に、ロルは慌てて手を振った。ブートの素朴さとは正反対だ。


目の前の男が放つ雰囲気は、どちらかといえば「仕事モード」のクリスに近い。荘厳で礼儀正しいが、どこか高い場所から見下ろされているような格調高さがある。


「あの……失礼ですが、あなたは?」


「ああ……失礼しました。礼を述べるのに夢中で、自己紹介を忘れていましたね。私はオーランド。聖教帝国より辺境の教会に派遣された神父です」


オーランドの調べは緩やかだが明晰で、まるで生まれながらにして神に仕える僕であるかのようだった。


神父しんぷ」……ロルはその言葉にあまり馴染みがなかった。


ブートと知り合ってから少し調べた程度だ。記憶によれば、聖教帝国における神父の地位は極めて高く、並外れた功績を挙げていない限り、その多くは貴族の出身だという。


もしそうなら、この独特な気品も頷ける。


「私は体が弱く、今は少しばかり静養しておりまして。明日は何とか体が保てば良いのですが。……マフィロさんは? なぜ三階へ?」


「ああ、私はエイヴァに頼まれものを。……お休み中のところをお邪魔しました」


たまたま通りかかっただけなので、これ以上引き止めるのは悪いとロルは思った。もしこの男が本当に高貴な身分なら、厄介ごとに巻き込まれるのは賢明ではない。

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