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ハイム道具屋の日常手記  作者: 夜眠
第1章:龍王祭の騒動
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36話:カナイ

ロルの迅速な判断に従い、ライラは即座に弾かれたように飛び出していった。その速度は目を見張るほどで、ロルは慌ててバックパックからホバーボードを展開し、地面に放り投げてその上に飛び乗った。


本来、ボードは使用者が魔力を注入して駆動させるものだが、彼はすでに改造を依頼していた——あらかじめチャージされた魔力を一気に解放することで推進力を得る仕組みだ。その速度は通常のボードの三倍にも及ぶ。


それでも、ライラの背中を追うのがやっとだった。


幸いにも現場は噴水広場からそう遠くなかった。


路地に入って間もなく、前方でローブを羽織った人影が腰をかがめ、陰の中から何かを無理やり引きずり出そうとしているのが見えた。


ライラは地面を爆ぜるように蹴り上げ、矢のような速さで跳躍すると、相手に向かって鋭い蹴りを見舞った。


ローブの男は反応が速く、腕を上げて攻撃を真っ向から受け止めた。


しかし、その衝撃は常人に耐えられるものではない。男は瞬時に吹き飛ばされ、少し離れた場所に叩きつけられた。


相手が起き上がる隙も与えず、ライラは鮮やかに着地し、掌を冷たい石畳に押し当てた。瞬く間に氷霜が這い回り、男の四肢をしっかりと凍りつかせた。


ロルが追いついた時には、戦闘はすでにケリがついていた。


「すごいな、一瞬で終わっちゃったか……」


感嘆しながら、ロルはローブの男が先ほど漁っていた陰に目を向けた。案の定、そこには小さな人影があった。


影衣シャドウクローク族。それは衣類に寄生する黒い霧のような種族であり、服の下で実体を形成することで形態を変える。


顔にある二つの蛍光色の目以外、身体の大部分は服の下に隠されているため、他種族と見紛うことも珍しくない。


成人の影衣族は服の下に確固たる実体を持つという噂もあるが、所詮は噂に過ぎず、現時点での影衣族に関する研究資料は極めて少ない。


理由は単純だ。


影衣族にとって、服の下の黒い霧を見られることは裸を見られるのと同義であり、特殊な性癖の持ち主でもない限り、それを好む者はいないからだ。


赤いポンチョの中に潜んでいた影衣族の子供、シャティは、今一人の少女の腕の中でガタガタと震えていた。だが、その少女にはどこか見覚えがあるような気がした。


「助かったの……?」


少女は腕の中のシャティをきつく抱きしめ、ゆっくりと目を開けた。


彼女の白いワンピースはあちこちが破れ、雪のような白い肌が露出していた。おそらく子供を庇った際に引き裂かれたのだろう。


目のやり場に困る光景だが、先ほど相手がどう吹き飛ばされたかを思い出し、ロルは即座にバックパックから環境マントを取り出し、ライラに手渡した。


「よろし」ライラはまず自分の行動に満足げに頷き、それから歩み寄って少女の体にマントをかけてあげた。


「大丈夫ですか?」


「ふぅ! ひゃあ! 本当に死ぬかと思ったわ! もうダメかと思ったじゃない!」


少女は長く息を吐き出すと、次の瞬間には表情を一変させ、何事もなかったかのように活発に振る舞い始めた。同時に、腕の中のシャティに視線を向け、笑いながら子供の頭を撫でた。


「大丈夫? 怪我はない? こういう変態ロリコン野郎は、こうやってお仕置きされるべきよね!」


少女の反応は、つい先ほどまで攻撃を受けていた者とは到底思えないものだった。シャティの蛍光色の目も細められ、感謝を伝えるように少女に頭を擦り寄せた。


「あはは! 無事でよかったわ! 待って、くすぐったいってば!」


少女はシャティに懐かれて笑い声を上げ、それから顔を上げてライラを見上げた。


「ところで、お姉さんたちは誰なの?」


ライラは少女にマントを着せ終えると、自分のハンカチを取り出し、埃のついた少女の頬を優しく拭ってあげた。


「私の名前はライラ・マフィロ。こっちは兄さんのロル・マフィロです。ブートさんの依頼を受けて、この子を捜しに来ました……」


「そっか、ありがとうお姉さん! 本当によかったわ! これでお家に帰れるわね——あれ? カナイの顔に何かついてる? もう、汚れちゃってるじゃない! せっかくのメイクが台無し! テンション下がるわ~」


少女がそんな疑問を口にしたのには理由があった。


頬を拭いていたライラの手が突然止まり、驚いた様子でじっと少女の顔を見つめていたからだ。それにつられて、ロルも視線を向けた。


紫色の長い髪には埃がついていたが、残念そうに閉じられた薄青色の瞳は、どこからどう見ても活発で可愛らしい少女そのものだ。


しかし、ロルはその背後にある魅魔族特有の黒い翼とハート型の尻尾に気づいた。


まさか!


「もしかして……カナイさんですか?」


ライラはついに堪えきれず、その問いを口にした。


「えっ? えっえええっ! びっくりしたぁ、お姉さん! どうしてカナイの名前を知ってるの? もしかしてカナイのファンだったりして!」


「い、いいえ、そうじゃなくて……その……えっと……」


少女の純粋な疑問に、ライラはすぐに後悔した。自分たちがカナイについて知っていることは、すべてゴブオからの情報だったからだ。


途方に暮れるライラを見て、ロルはすぐさま嘘を補強するために一歩前へ出た。その口ぶりは、あまりにも自然で信憑性に満ちていた。


「僕たちはゴブオの友人なんだ。たまに彼から、君のことを聞いていたからね」


「えええええええっ! ゴブオくんのお友達なの!? 世間って本当に狭いわね!」


彼女の単純な驚きには疑いの欠片もなく、ライラもようやく安堵の溜息をついた。


「どうしてカナイさんがここに?」ライラは慎重に尋ねた。


ロルがスマートフォンを確認すると、時刻はすでに10時を過ぎていた。約束の時間はとうに始まっている。


「あはは、お姉さんの方が年上よね! カナイって呼んでいいわよ。今日はうっかり寝坊しちゃって~。それで近道しようとしたら、ちょうどこの子が変態に絡まれてるのを見つけたの。寝坊して本当に正解だったわ!」


カナイの態度は、自分が災難に遭ったことなど微塵も感じさせず、むしろ誇らしげですらあった。一目で好感を抱かせるその性格は、ゴブオが彼女を気にかける理由を十分に納得させた。


「あ、そうだ!」カナイは何かを思い出したように目を輝かせた。「お願いがあるんだけど、ゴブオくんに伝えてもらえるかな? カナイ、急用ができちゃって行けなくなったって。お姉さんとお兄さん、お願いね!」


そう言うと、彼女は環境マントを掴んで立ち上がり、シャティの頭をポンと叩いて、立ち去ろうとした。


「待ってください!」ライラが慌てて彼女の前に立ちはだかった。


「ゴブオさんと約束があるのではないですか?」


「あ……あははは! まさかゴブオくん、二人にもそのこと話してたの? 思ったより恥ずかしがり屋さんなんだから!」


ライラの言葉に、少女の活発な頬が赤く染まっていく。彼女は片手で自分の顔を仰ぎ始めたが、その姿は本当に愛らしかった。


「でも大丈夫よ……今はメイクも落ちちゃったし、服もボロボロ。今行っても彼に迷惑をかけちゃうだけだわ。一度家に帰って着替えてから来るんじゃ時間がかかりすぎるし! 今回は諦めるわ~! このマントは、今度ゴブオくんを通して返すから!」


カナイは淡々と語りながら、しゃがみ込んで半ば冗談めかしてシャティの頭を軽く小突いた。


「あんたも! 次からは悪い人に付いていっちゃダメよ!」


シャティの身体がビクッと震えたが、次の瞬間、彼女はカナイの胸に激しく飛び込み、力一杯抱きしめた。まるで彼女を離したくないと言っているようだった。


子供は敏感だ。何が起きているか正確には分からなくても、感覚だけで他人の心の内にある感情を察知してしまう。


カナイは困ったようにシャティの頭を撫でながら、気にしなくていいと明るく振る舞い続けた。


ただ——。


「どうして、そんな風に嘘をつくのですか?」


「え~、お姉さん、何のこと?」


ライラは、少女の嘘を瞬時に見抜いていた。


カナイは表面上こそ活發で明るい態度を崩さないが、所詮は中学生だ。心に渦巻くすべての感情を隠し通せるはずがない。


ロルにも、彼女の快活な言葉の裏に、必死に耐えている震えが混じっているのが聞こえていた。


「ゴブオさんに会いたいのでしょう? それなのに、どうして自分を偽るのですか——」


「もう、言わないで!」


ライラが言葉を紡ぎ終える前に、カナイが突然声を荒らげてそれを遮った。


「だって……だって、これはカナイへの罰なんだもん!」


カナイは傷口に触れられたかのように下唇を強く噛み締めた。ライラによって引き出されそうになった感情を、心の奥底へ押し戻そうとしているようだった。


ライラは躊躇うことなく歩み寄り、カナイをその細い腕の中に抱き寄せた。


「もしよろしければ、私に話してくれませんか?」


その優しい声は、カナイの感情を瞬時に決壊させた。彼女はライラの腕の中で、声を上げて泣き始めた。

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