20話:事件調査4
「エイヴァお姉ちゃん! 久しぶり! 最近どうしてたの?」
「ライラちゃ〜ん! アタシもすっごく会いたかったわ〜! 久しぶりに女子会しましょうよ!」
エイヴァが向き直ってライラに抱きついたことで、ロルはようやく解放された。あまりの衝撃に耐えきれず、彼は虚脱したように両手を床についてへたり込んだ。
その隙に、祭が困惑した様子でロルの傍らにしゃがみ込み、小声で尋ねてきた。
「一体、何事ですか?」
「以前、依頼で助けたことのある人でして……エイヴァという名前です……」
エイヴァという名のその獣人族の男は、元々は下町区で名の知れたチンピラだったが、今はすでに足を洗い、教会で牧師をしている。
それは彼らがエイブダムに来て、まだ三ヶ月しか経っていない頃のことだった。ある日、一人の人族の少女から「下町区にいるチンピラを助けてほしい」という依頼を受けたのだ。
そこでロルはライラを連れて下町区へ情報収集に向かったのだが、その少女が助けたがっていたチンピラこそがエイヴァだった。その後——事件の顛末を語ると長くなるのでここでは割愛するが、とにかく色々とあってエイヴァは足を洗い、自身の夢に向かって歩み始めたというわけだ。
二ヶ月前、彼は見事教会に採用されて牧師となり、今は孤児たちの世話をしている。
祭に手短に説明を終えたところで、ロルは自分たちがここへ来た本来の目的を思い出した。
「そうだ、エイヴァ! 少し聞きたいことがあるんですが、今時間ありますか?」
せっかく知り合いがいるのだ。情報を聞き出さない手はない。
「お、お、王子様が初めてアタシにお願いしてくれたァ〜! アンタたち! 案内して! 行くわよ、王子様!」
「「へい! 兄貴!」」
「だからどこに連れて行く気ですか!?」
ロルの頼みを聞いたエイヴァは、本人の意思などお構いなしに興奮気味に彼を抱き上げ、二人の子分にライラと祭を案内するよう命じた。一行はぞろぞろと二階へと向かった。
二階の部屋は一階の店舗とは異なり、特に凝った内装は施されておらず、ソファ、テレビ、ダイニングテーブル、そしていくつかの観葉植物といった、ごく一般的な家具が置かれているだけだった。
片付いていないダイニングテーブルやシンクからは生活感が漂っており、どうやらここは居住用のリビングらしい。
「なんでも聞いてちょうだい、王子様〜! アタシに答えられることなら〜、なんだって教えてあげるわ〜」
エイヴァはロルをソファにそっと降ろし、続いてライラと祭もソファに腰を下ろした。エイヴァ自身は向かいに椅子を持ってきて座り、二人の子分がその背後に控える。三人の獣人が満面の笑みを浮かべていなければ、ロルは一瞬、借金の取り立てにでも遭っているのではないかと錯覚するところだった。
「大丈夫なんですか? ここ、店長の自宅ですよね」
「すぐに気づいちゃうなんて〜、王子様は相変わらずすごいですぅ〜! 大丈夫よ〜、アタシここの店長とはすっごく仲良しだし〜、なにより超常連客だもの〜」
エイヴァは嬉しそうにその巨体をくねくねとよじった。ロルとしては視覚的に少々キツいものがあったが、実際のところ、少し懐かしくもあった。
牧師になってからのエイヴァは随分と忙しくなった。メッセージでの熱烈なアプローチこそ減ってはいないものの、直接顔を合わせるのは本当に久しぶりで、この予期せぬ再会はロルが想像していた以上に嬉しいものだった。
ライラもまた、久しぶりに会う友人を前にして嬉しそうに笑っている。
「エイヴァお姉ちゃんは筋トレ大好きだもんね。でも、ここってエイヴァお姉ちゃんの家から少し遠いはずなのに、どうしてこのスポーツジムに通ってるの?」
「ここは家からちょっと遠いけど、マシンが新しくて数も多いの。順番待ちしなくても使えるし、なにより会費が他のジムと比べてすっごく安いのよ〜。超お得なんだから〜。王子様も一緒に筋トレしない〜?」
エイヴァはジムの料金表を三人に提示した。その間、後ろに立つ二人の子分も赤べこのように激しく頷いている。
(まさか勧誘されるとは。確かに料金は破格の安さだが、自分の身の安全が保障されない以上、遠慮しておこう)
「いえ、私は遠慮しておきます……」
「あの、本当にそんなにお安いのですか?」
これでこの話は終わりだと思っていたのに、予想外なことに祭が突然口を挟んできた。
表情は相変わらず生真面目なままだが、彼女の背後にある黒い尻尾は興奮したように左右に揺れており、三角形の狼耳もピンと立っている。
(まさか食いついた!? 祭は庶民派だったのか? あの隙のない優雅な歩き方からして、てっきりどこかのお嬢様かと思っていたのに)
「あら〜? アナタは〜?」
「私は連邦——」
「友達です! 私の新しい友達! 夏柳 祭と言います! 事情があって、祭と呼んであげてください」
店に入ってきた時、エイヴァの二人の子分が露骨に嫌悪感を示していたことから察するに、おそらく連邦警察はすでに何度かこの店に足を運んでいるのだろう。捜査の進展はともかく、店の営業の邪魔になっていることだけは間違いない。
彼らが警察を嫌がる気持ちも理解できる。事態がややこしくなるのを避けるため、ロルは素早く祭の自己紹介を遮った。
しかし、ロルが祭を庇うように前に出たのを見て、エイヴァは一瞬で真剣な表情へと変わり、魂の底からの問いを投げかけた。
「なるほど……それなら祭さん、はっきり聞かせてもらうわ。アナタ、アタシの恋敵?」
「違います」
「なら、これから私たちは良い姉妹ね」
二人が固い握手を交わすのを見て、ロルはそこに新たな友情が誕生したのを感じた。誠にめでたいことである——って、話が逸れてるだろうが。
「入会の話は後回しにしてくれませんか。エイヴァ、実はですね——」




