5話 非日常的な肝試し
夏の夜。
とある山間の合宿所。
生徒たちが円になって座り、先生の説明を聞いていた。
「はい、今夜のメインイベント〜! 肝試しです!」
白上猫乃、通称「白猫先生」が両手を叩く。
その笑顔はにこやかだが、目は鋭い。
「怖がって逃げるのは禁止。最後までやり遂げなさい。わかった?」
「わかってませーん!」
大声で返事をするのは上坂翔真。
彼は既に震えており、冬の腕にしがみつく。
「ふ、冬ぅぅ!なんでこんなイベントあるんだよぉ!俺、帰りたい!!」
「……知らねえよ」冬はうんざりした声で答える。
「落ち着きなさい翔真くん」井神愛が冷静に言い放つ。
腕時計をチラリと見ながら、眉をひそめる。
「ほら、予定より10分押してる。さっさと行く」
「予定の心配かよ!」翔真が即座にツッコむ。
そのやりとりに、周囲から笑いが起きた。
どんどん出発していき、冬と乃亜のペアは、翔真&愛の後。
提灯を手に持ち、暗い森の小道を進む。
「やれやれ……肝試しってのも、ほんと暇つぶしにちょうどいいな」
乃亜は余裕の笑みを浮かべている。
「怖がる暇もなく顔引っ掻くなよ」冬は呆れ顔で返す。
遠くで翔真の叫び声が聞こえた。
「ぎゃあああ!!出た出た出た出たァーーー!!」
「それ、人間だから」愛の冷静なツッコミが木霊する。
冬は苦笑しつつ、提灯を持つ手を少し強く握った。
だがその瞬間。
背筋に、ぞわりと冷たい感覚が走った
「……おい乃亜。気づいたか?」
「ん? ああ」
乃亜は真剣な目をして、前方をじっと見ている。
小道の先に、ひとりの少女が立っていた。
白いワンピース。
顔は髪に隠れて見えない。
ただ、提灯の光に照らされたその姿は、異様に静かで、まるで時間から切り離されたようだった。
冬は心臓が高鳴るのを感じた。
(……これ、冗談じゃないやつだ)
乃亜が顔を引っ掻こうとする手を止め、低く笑う。
「へえ、本物か。こいつは……退屈しなそうだな」
少女が、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、深い悲しみが宿っていた。
冬はごくりと唾を飲み込む。
「……乃亜。やっぱり俺たち、非日常から逃げられないみたいだ」




