3話 非日常的な電車
ガタンゴトン――。
通学時間帯の満員電車。冬はつり革につかまり、うんざりした顔でため息をついた。
「はぁ……今日もまた何か起きそうな予感しかしない」
隣の乃亜は口元に余裕の笑みを浮かべる。
「ならいいじゃないか。俺にとっては最高の暇つぶしだ」
そのとき、冬の目に妙な光景が映った。
少し離れた場所で、スマホをカバンの下に向けている中年男。
視線の先には 生徒会長の吉本蓮介。
彼女は男装のような外見で普段は凛々しいが、今は気づかずスマホをいじっている。
冬は小声でつぶやいた。
「……盗撮、か」
乃亜の頬がピクリと動く。
「いいぜ。俺様、暴れ時だ」
そう言って左頬を引っ掻くと、血がにじみ、目がギラリと輝いた。
「蹴って蹴って蹴りまくる!」
一瞬で男の足を蹴り上げ、スマホを宙に弾き飛ばす。
冬は素早くそれをキャッチし、画面を確認。
「……やっぱり証拠映像ばっちり」
「な、何するんだお前ら!」
男が叫ぶが、乃亜の鋭い視線にすくみ上がる。
「盗撮なんてくだらねぇ真似して……そのスマホ、叩き割ってやろうか?」
「……や、やめろ!」
電車内がざわつく中、吉本蓮介が一歩前に出た。
「大丈夫。ここからは私が対応する」
彼女は冷静に駅員を呼び、盗撮犯は次の駅で取り押さえられた。
事件が落ち着くと、吉本は冬たちに振り返り、少し照れくさそうに言った。
「……助かった。ありがとう」
「いや、会長が痴漢や盗撮に遭うのは、もはや日常だからな」冬がぼそりと返す。
「ちょっと! それは言わなくていい!」蓮介が顔を真っ赤にする。
乃亜は頬の血をぬぐい、にやりと笑った。
「ほらな? やっぱり退屈しないだろ」
冬はため息をつきながらも、小さく笑う。
「……ほんと、やになるな〜」
盗撮犯が駅員に連れて行かれ、ようやく電車の空気が落ち着いた。
冬と乃亜は改札を抜け、通学路を歩きながら一息つく。
「ったく……朝から疲れたな」
「いやいや、最高にスッキリしただろ?」乃亜が血の滲んだ頬をぬぐいながら笑う。
「お前がスッキリするたびに、こっちの胃が痛くなるんだよ」
冬はぼやきつつも、スマホを取り出した。
通知が一件――SNSのDM。
差出人は「Natu_./」。
冬がたびたびやり取りしている、ネット友達だ。
Natu_./:今日も大変そうだね。電車って色々あるでしょ?
冬:……なんで知ってんだよ。
Natu_./:勘だよ、勘。君は「非日常」を呼び込むタイプだからさ。
冬:やめてくれ、ほんとそれ。
Natu_./:でも、そういうの嫌いじゃないでしょ?
画面を見つめながら、冬は小さく笑った。
「……図星だな」
隣を歩く乃亜がちらりと覗き込む。
「誰とやり取りしてんだ?」
「秘密」
「なんだよ、それ」
夕陽が沈みかける通学路。
またいつもの日常が始まる、、、はずなのに、冬の胸には少しだけ、不思議な高揚感が残っていた。




