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大広間を一通り探索した。
ほこり一つ落ちていることはなく、四方八方が大理石でできており、そこまでの徹底ぶりに違和感を覚えてしまった。
休憩を兼ねて、これから始まるゲームへの不安も相まって大広間で項垂れていると「大丈夫か。」と男性が声をかけてきた。
「ひぇっ。」
「なんだよ、情けない声出しやがって。」
「ごめんなさい、緊張してて。」
「んな、お前だいぶ緊張してんな。でもさ、実際は俺も緊張しちゃってさ、なんとなく仲間だと思って話しかけてみたんだ。」
男は身長は180cmほどあるだろうか。また、薄暗い中でも確認できるほどしっかりした体格をしており、こんな人でも緊張するのだと思った。
「あなた程の体格を持っていても緊張するんですね。」
「なんか失礼じゃね(?)」
「あぁ、すみません。緊張しすぎて本音が。」
「え(?)」
「すみません、すみません。僕は長田です。よろしく。」
「龍司だ、よろしくな。」
「よろしく、龍司さん。」
「長田、このゲームは何回目だい?と言っても、お前は初回だろうな。そんな感じがするよ。」
「はい、その通りです。初回です。妹に連れられて。」
「へー、と言ってもさ、ここに来るってことは前科持ちだよな?お前みたいな優しそうなやつでも悪いことしちまうんだなぁ。」
「いやいや、えぇ、まぁ。」
「まぁいいさ。俺は2回目だ。前回は運良く生き残ってな。」
「え、じゃあもしかして妹を知ってるのかも。妹も経験者なんです。」
「はて、写真とかあるかい?」
「これです。」俺は妹の写真を差し出す。車の事故があった際に興味本位で写真を撮影しておいたのだ。
「え。こいつ、知ってるよ。」
「そうなんですね。よかった。」
「こいつ、お前の妹なの?こいつさ、バカそうに見えてほんとに頭切れるんだよ。みんな大体グループで行動してたのにさ、こいつだけ単騎で10人まで残ってたから覚えてる。目立ってたなぁ。」
「へぇ、羽二がねぇ。」
「ハニって言うんだね。とにかく、そいつと一緒ならお前も安心かもね。なんならさ、俺とも仲良くしといてくれよ。俺も前回ギリギリだったからな。」
「前回ギリギリだったのに、また今回も参加したんですか?」
「やっぱ金がほしいからなぁ。それに、前回の勝者は参加するだけでちょっと金が貰えるんだよ。せっかくだからなぁ。」
「だから羽二も参加するのか。」
「おそらくそうだろうな。お、俺のペアから連絡だ。じゃあ、またな。」
休憩室に戻ると、羽二は部屋内で地図を眺めていた。それは、白紙に自分でここのフロアの詳細を記載したものだった。今入室してからここ周辺を調べていたのだ。
「すごいね、そんな事してるんだ。」
「兄貴はあたしの邪魔さえしなければいい。あたし、プロだから。」
「すごい自信だ。そうだ、龍司って人知ってる?前回の勝者だって。」
「龍司?誰だそれ。あたしあんまり他人に興味ないからな。」
「ええと、体格がでかい人。」
「いたのかもなー、あんま覚えてないけど。知らんけど、あんまり人のことを信用しすぎるなよ。ここにいる奴らは大抵ヤバいやつだからな。」
あと2時間でゲームがスタートする。
俺は緊張しながらも、ただ生き延びるために努めようと決意した。