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秋葉原についた。
娘にはしばらく出張に行かなくてはならないと伝えてきた。もう高校生だし、母がいないという生い立ちから、一通りの家事をこなすことができる。その点は心配ない。それにしても乗りかかった船である。ここでしっかりと勝ち上がって、娘とまた平凡な生活を送るのだ。
秋葉原の奥にある、古びた中華屋に羽二は入って行った。
「昼食でも取るのかい?」
「まぁな。」
「ふーん。」
「飯食えるのはしばらく後かもしれないから好きなもん食っとけよ。」
「ご注文はお決まりですか?」
「じゃ、僕はラーメンと半チャーハンで。」
「あたしは回鍋肉で。」
「お待たせしました。ラーメンと半チャーハン、回鍋肉です。」
「ありがとうございます。」
「うまいね、ここの料理。」
「んー、たしかにね。」
「懐かしい。」
「なにが?」
「昔、羽二と中華屋さん来たなって。」
「何年前の話してんだよ。」
「いやいや、いろいろあったからさ。」
「ふーん。聞くの面倒だから語らないでね。」
「はいよ。」
「食ったか?」
「うん。」
「店員さん。」
「はい、お呼びでしょうか。」
「小籠包を1つ。」
「申し訳ございません。当店に小籠包のメニューはございません。」
「では、小籠包を1つ。」
「ですから、当店には小籠包のメニューはございません。」
拍子抜けをした。
小籠包はないと言っているではないか。
「はい、小籠包を1つ。」
「かしこまりました。こちらにいらしてください。」
「え?え?」
「黙ってついてこい。」
僕たちは地下に案内された。
途中で案内をしてくれた人から目隠しすることを強要され、そのままエレベーターのようなものに載せられた。
「羽二。」
「しゃべらないでください。」
私語はこのように制限された。
「私語の注意は3度までです。4度目は首を切ります。返事も私語に含まれますので、無視で結構です。目隠しを取るまでは私語厳禁です。」
目隠しする前に言ってくれよ。と心の中で思った。
しばらく歩くこと20分程度、初めは感じていた恐怖感も薄れてきていた。
「到着しました。職員が目隠しを取りますので、その場で止まってください。」
目隠しを取ると、そこにはとても綺麗な大広間が目に入った。薄暗く、しかし品の良い。ディズニーの世界に居るかのような気分にさせられた。
「ついたな。」
「もしかして、ここが?」
「そうだ。アンダーグラウンドフェスティバルだ。」