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「え!あんた長田一なの!?」
「はい。そうですが。」
「兄貴、会いたかったぜ。」
「はぁ?」
「あたしのこと覚えてないんか?この人でなしが。」
確かに私には兄弟が居た。この女が言っていることが正しいのならば、彼女は私の妹ということになる。私の両親は私が若い頃に離婚をしており、父方に着いたのが私、母方に着いたのが妹だった。しかし、似ても似つかない。あの頃の面影など一切ない。あの頃はもっと可愛げがあったものだが、今の彼女は常に臨戦態勢のヤンキーの様な風貌をまとっているからだ。
「羽二なのか?」
「そうだよ。ハニだよ。」
「信じられない。昔はもっと可愛げがあったのに。」
「可愛げねぇ。そんなものはあの家に置いてきたよ。」
「あれから、どうしてきたの。母方に行ったでしょう?」
「つまんねー。私から可愛げが消えていることからおおよそ察しがつくだろう。」
「うん、悪かったよ。」
「お袋はどこかへ行ったよ。あんたがいろいろやらかしてからこっちは大変だったんだ。もともと大した暮らしできていたわけじゃないから、別に良かったんだけどね。あー、でも高校行けなくなったことは恨んでるよ。」
「ごめんね、すごいね。」
「簡単に褒めてくるな。」
「ごめん、じゃあさ、それからはどうやって生きてきたの?」
「聞きたいか?」
「うん。」
「ギャンブルと、詐欺。」
「ギャンブルと、詐欺…?」
「あぁ。その通りさ。ギャンブルはもう何でもやったよ。1番好きなのは麻雀かな。詐欺は、それもまーそれなりにな。今は結婚詐欺にハマってるんだけどね。今だって、結婚詐欺でひと段落着いたところさ。事故っちまったけどな。」
言葉が出なかった。妹と再会したこと自体が大変な奇跡ではあったが、その妹がこのような人間になっているなんて思わなかった。
「なるほどね…。すごいね。」
「だから、褒めんなって。普通に生きてきた奴にそんなこと言われるとムカつくんだよ。」
「普通?」
「あぁ。いや、でも兄貴の人生も普通じゃねーよなー。殺人未遂だっけ?それを聞いた時は痺れたわ。」
「…」
「隠すことないじゃねえか、殺人なんて、よくそんな大掛かりなこと企てたもんだな。」
「いや、俺は殺すつもりなんてなかったんだ。」
「あー、はいはい、そんなことはどうだっていいんだ。つまり前科持ちだよな。」
「…そうだよ。でも、もう反省してる。あれから必死に生きてるんだよ。」
「わかったよ、それでさ、そんな兄貴に1つ頼みがあるんだよ。」
「頼み?」
「アンダーグラウンド賭博フェスティバル、略してアンフェス。知ってるかい?知らないよなー。これはさ、前科持ちだけが参加できる賭博祭りなんだ。参加にはいくつかルールがあって、殺人禁止とか、まー、いろいろな。そこら辺詳しくは覚えてないんだけどさ。2人1組で参加なんだよ。治安を守るためらしいんだがね。治安なんてあるのか知らんけど。それでさ、前科のあるやつなんてろくでもない奴ばっかりだから、渋ってたんだよ。でも、兄貴のこと思い出してさ、どうせろくでなしなら兄貴と参加しようと思ってさ。な!一緒に行こうぜアンフェス!」
「いや、話の展開が早すぎるよ。俺は参加しないよ。そんな怖いところ。娘もいるんだ。1人にできないよ。」
「期間は1ヶ月、上手く行けば10億。魅力的だろ?」
「そんなこと言ったって、どうせ勝てるわけないよ。」
「なー、頼むよー。ギャンブルは楽しいよ?前科持ち同士さ、手を組むのもありじゃないか?」
「だから、娘はどうしたらいいんだよ。」
「娘、いくつ?」
「高校1年生。」
「じゃ、いけるっしょ。」
「いや、でも。」
「ここらでさ、1発人生逆転してみるのもありなんじゃないかな?きっと、ろくな事なかったんだろ?神様は見てるよ?今までの嫌なこと全部、今日この日のためにあるんだよ。10億入ったら二人で5億ずつ。5億あればなんだってできるよ?ほら、やってみようよ。」
「…。」
「ほらほら。」
「…わかったよ。」
こうして私たち姉妹の戦いは始まった。