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星と丸の王国  作者: 藤木美佐衛
33/41

第33話 老人と価値

 –未知流–


 王様と王妃はすぐにアリアムに命じて、牢獄から年老いた魔法使いを連れて来させた。


 公爵家に踏み込んで奴隷たちを救出したのがアリアムだったので、老人を彼は覚えていた。


「あの家から連れ出した時よりも体調が良くなったようです」

「そうなのか、老人?」

「はい、食べ物が良くなり、医者にも診て頂いてずいぶん楽になりました」


 公爵家で監禁されるよりもだいぶましだとは聞いていたが、医者にも診てもらったとは。この国の囚人の扱いは、ずいぶんと現代に近い。


「それは良かった。名は何と申す」

「カルビンと申します」

「魔法で傷を治せるというのは本当か」

「はい、治せます」


「ミーナ、王女を連れてきてくれ」

 王妃はもう一人の騎士と共に部屋を出た。


「王女?王女とおっしゃいましたか」

 老人は狼狽うろたえた。

「ああ、俺の娘の傷を治してくれ」

「こ、国王陛下で御座いますか?」

 老人はギョッとした顔つきで問うた。

「ああ、そうだ」


「そんな、勿体ないことで御座います、陛下」

 カルビン老人は這いつくばり、頭を床に擦り付けた。老人は、国王に呼ばれたことを知らなかった。


おもてを上げろ、お前に頼みがあるのだ」

「は、はい、何なりと」

「王女の傷を治して欲しい」


 王妃と騎士が王女を伴って帰って来た。三歳の姫は、とても可愛らしかった。父親似の栗色の髪に母親似の青い瞳、クリーム色のドレスはよく似合っているが、額の包帯が痛々しかった。


 王妃がその包帯を外して老人の前に立たせた。眉間から生え際にかけて、かなりの長さの縫いあとがあった。これは残ったら嫌だろう。


「お願いします」

 王妃が言うと、勿体ないことで御座いますと、老人がさっきと同じセリフを吐いた。


 姫は少し怯えて、母親を振り返る。

「おじいさんの方を見て」

 王妃は優しく声を掛けて、姫を老人の方に向き直させ、自分は老人の後ろに立った。


 私たちはみんなで見守った。騎士も興味津々に後ろから覗き込んだ。

 老人が姫の額に手をかざすと、傷はあっという間に消え去った。


「おお〜」

 国王も王妃もアリアムも騎士も、そして慶太も私も驚愕した。私はロイスが布巾の汚れを魔法で落とすのを見てからこれが二度目だったけど、人間の傷を治す方が断然驚きだった。


 自分の顔が見えない姫だけがキョトンとして大人たちを見上げていた。

「おお!凄い。カルビン、よくやった」

 国王はカルビン老人を立たせて手をとった。


「ありがとうございます」

 王妃も老人の手を握った。


 老人は再び狼狽うろたえて腰を折り、勿体ないことで御座います、とまた繰り返した。


 王妃が不思議そうな顔の姫に再び包帯を巻いて騎士と共に連れて帰った。


「包帯はもう要らないが、次に取った時に治っていた事にしよう」

 国王が姫に聞こえないよう囁き声で王妃に提案していた。頭がよく回る王様だと思った。


 その後、慶太が老人にロイスの様子を話して聞かせると、老人は目に涙を浮かべて喜んだ。


 老人はまた牢獄に連れ戻された。やはり魔法を使うと体力を消耗するのだろう。彼は少し辛そうだった。騎士は老人を抱えるように支えていた。国王陛下は、二人が見えなくなるまでずっと見送っていた。



「何故だ」

「えっ?」

「何故、魔法使いは、捕えられているんだ。彼らは悪魔でも何でもないじゃないか」


「ですから、それを俺たちは調べているのです」

「陛下も、魔法は初めてご覧になったのですか」

「初めてだ」


「魔法使いとして捕えられて来た者は、誰もが恐れて近寄らない」

 さっき、あの老人を連れて来る時に看守たちに注意されたとアリアムが言った。看守たちの間では、目を合わせたら呪われるという噂が立っているらしい。


「魔法使い自身も、お前は悪魔だと親から刷り込まれて育ってきたから卑屈になっているのではないかと思われます」


 彼らの能力の価値を認めていたのは、皮肉にもあの公爵家の面々のような人間だけだった。



「アリアム、どう思った?」

 目的語を省略したが、彼はすぐに応えた。ツーカーの仲というところか。いや、ツーカーって何?


「凄い能力だと思いました。あれをあのままにするのはこの国の損失です」

「その通りだ」

「他にも様々な能力を持つ者がいると思われます」


「急がないと」

「何故ですか」

 慶太が尋ねた。


「囚人達は、特に魔法使いは順繰りに処刑されて行くのだ。監房が足りなくなったらな」

「裁判は行われないのですか」

「魔法使いには裁判はない。魔法使いというだけで罪だからだ」

 私たちは絶句した。



「とりあえず、国王のめいで、当分の間、魔法使いの処刑は行わない。しかし、法律を変えないと‥‥‥」

「何故こんなことが今まで何百年何千年も見過ごされて来た?」

「彼らの存在意義と価値を何故無駄にして来た?」


 国王は、あごに手をやり部屋の中をウロウロと歩きながらずっと独り言を呟いていた。

(なんか、推理している探偵みたいだ)

 また不届千万ふとどきせんばんな思いがよぎってきたので、急いで頭から追い払った。



 –慶太–


「話が違います、陛下」

 俺は怒りを隠せなかった。


「ここの牢獄の方がまだましだという事は分かりました。だけど順繰りに処刑される事は聞いていませんでした」

「すまん、許してくれ」


「彼らはあの屋敷にいた方がまだ死なずに済んだのではないですか」

 俺は自分の声が震えてくるのを止められなかった。


「すまない。だが、俺もそんな事は知らなかったんだ。俺は、本当にこの国の全てのことに余りにも無知だった。牢獄が一杯になったら数を減らす為に順繰りに処刑が行われるとか、魔法使いが裁判も無しに処刑されるとか、知ったのはつい最近なのだ」

 国王は頭を下げて再び謝罪した。


「慶太!」

 俺を諫める未知流の声にハッと我に返った。

 俺は、頭に血が上って国王陛下に向かってとんでもなく失礼な態度をとったことを詫びた。

「出過ぎたことを言ってしまい申し訳ありませんでした」


「俺は最近それを知ったから、文献を調べる気になったんだ」

 国王は、彼らしく正直に告白した。

「だが、もっと急がないと」


 カルビン老人の治癒魔法は、凄かった。俺はこれまで、ロイスが布巾と手鏡を直すところを見た。魔法はこれで三度目だ。だが、人の傷をあんな風に治せるなんて。国中のどんな腕のいい医者よりもカルビンの魔法の方がよっぽど価値があるじゃないか。


 ジョルテロア国王も身をもってその事を知った。彼は多分あの老人に一生感謝の念を持ち続けるだろう。王妃も然り。そして後年事実を知ることになれば、姫自身もだ。


 しかし魔法使いは、裁判も無しに順繰りに処刑されて行く。長い間の慣習だったというだけで、意味もなく抹消されて来た命。その命にこれまでどれだけの価値があったのか。一国の王がやっとそれに気づいた。


「さっきも言ったが、当分の間、魔法使いの処刑は行わない、それは約束する。だが永遠にとは行かないので、法律を変える必要がある。それにはやはり、お前のいう、そうなった経緯を調べなくてはならない」



「ちょっとレナルキンのところへ行ってくる。お前たちは、馬車で送るから。遅くまで引きとどめて済まなかった」

 陛下はそう言ってアリアムと出て行った。扉の外にいた騎士が私たちを馬車乗り場まで連れて行ってくれた。

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