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星と丸の王国  作者: 藤木美佐衛
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第1話 未知流と慶太


 –未知流みちる


 幼い頃から夢みがちな子どもだった。

 物語の世界に没頭し、主人公になりきって幸せな自分に酔いしれていた。夢と現実の区別がつかないようなこともあった。

 大好きだったのはシンデレラのような、不幸な主人公が幸せになるお話、王子様に助けられる物語、白鳥の王子、眠り姫に白雪姫、所謂いわゆるハピエンちゅうというやつだ。

 お姫様の寝る天蓋付きのベッド、ヒラヒラフリフリのドレス、縦ロールの金髪。気付くとそんな絵を描いていた。授業中も、家でも。妄想しているからいつもぼんやりしてると言われていた。幼稚園の卒園式、将来なりたい職業はお姫様だった。

 不思議の国のアリスも何回も読み返した。登場してくる不思議なキャラクターがお気に入りだった。

 タイムスリップもの、ファンタジー、SF。何でも読んだ。そしていつも、その物語の世界に没頭し、妄想した。

 年齢を重ねた今でも、心は『夢見る少女』のままだ。好きなジャンルはやはりハッピーエンドの物語だ。寝ている時は夢を見て、起きている時は妄想する。

 この頃は流行っている異世界モノにハマっている。小説、漫画、アニメ、異世界モノなら何でも受け入れられた。

 

 先週の同窓会で、慶太と二年ぶりに会った。お互い三十五歳、彼もまだ独身だった。


 慶太の家は私の家の右隣りで、幼稚園から高校までずっと一緒のいわゆる腐れ縁だ。高校卒業後、慶太は東京、私は地元の大学に通いそれぞれ東京と地元で就職した。私はしばらく実家から通ったが、三十過ぎてからはさすがに家から出て、職場の近くで一人暮らしをしている。


 私が慶太を意識し始めたのは中学の頃だ。それまでは男として見てなかった。物語の世界に浸りいつも王子様に憧れていた私が、初めて恋をした三次元の男が慶太だった。

 だけど告白することはなかった。


 振られるのが怖かった。振られたらもう学校の行き帰りに馬鹿な話をしながら一緒に歩けないじゃん。そう思ってた。

 でも高校に入ってすぐ、慶太に彼女ができて自然と疎遠になった。


 私は大学に入ってから、初めての彼氏ができた。二年くらい付き合って、別れた。

『他に好きな人ができた、ごめん』

 メールでそう告げられただけだった。でも、どうでもよかった。

 その後、別の人と付き合ったけど、卒業後の進路が遠く離れて自然消滅。で、今に至る。仕事にやりがいを感じてしまい、彼氏いない歴十二年。いわゆる社畜?いや、公務員の場合は何ていうんだろ。


 確かに結婚願望はあった、三十歳までは。勿論もちろんプロポーズは、片膝ついて指輪のケースをパカっと開けて差し出してくれる形。これが嫌な女性はいないはず。


 慶太がまだ独身なのは実家からの情報で知っていた。同窓会で久しぶりに会って、少しときめきみたいな感覚を覚えた。


 慶太は高校の時に急に背が伸びて、百五十五センチの私より二十五センチも高い。顔は、まあ悪くはない。三十五歳になっても体型はほぼ変わっていないようだった。

 今からでもいけるかな?彼女はいないらしいし。だけど、その日はそのまま解散した。

 

 慶太は、会社の仕事でロンドンに行ったことがあるって言ってた。仕事で海外に行けるなんてうらやましい。同窓会でロンドンの話をひとしきり聞いて、の地への憧れはさらに増した。

 昨夜もエッセイを読みながら、慶太と一緒にロンドンに行く妄想をしていた。それが実現したの?



 −慶太けいた


 目覚めたらそこは戸外の草むらの上だった。

 えっ?どこ?なんで?

 俺はあせった。


 すぐそばに、先週同窓会であったばかりの幼馴染みの未知流がいた。未知流はジャージの上下、俺は学ラン姿だった。


 俺が初めて未知流と出会ったのはたぶん三歳くらい。未知流とその両親がウチの隣に家を建てて引っ越してきた。同い年の子どもがいるということで家族ぐるみの付き合いが始まった。


 幼稚園から小中高と一緒に通った。お互いの家を行き来して、一緒に宿題をしたり、二家族で旅行やキャンプに行った。未知流には弟が、俺には妹ができて、さらに交流が深まった。でも未知流を女として意識したことはなかった。


 高校は自転車通学だったけど、やっぱり一緒に通った、俺に彼女ができるまで。


 高校一年の夏休み前に、同じクラスの子から告られて付き合い始めた。放課後残って話したり、休みの日には映画やショッピングに出掛けた。手を繋いだことはあるけど、それ以上はしなかった。


 一年くらい付き合って、何となく別れた。女の子と付き合うのは、気力と体力と時間を消耗すると感じた。もともと向こうから告られたから付き合い始めただけで、そんなに好きではなかったんだろう。特にトラブルなく終わった。


 未知流と話すほうが楽しい。気を遣わずにすむ。やっと気づいた。彼女と別れたあと、未知流にそう言いたかった。


 高校二年に戻って伝えることができたら、そう思っていた。


 東京の大学に進学して、そのまま東京の食品会社に営業職として就職した。年に二〜三回は帰郷しているが、いつも未知流に会えるわけではなかった。


 もちろん東京でも何人かの女性と付き合ったが、どれも長続きしなかった。同窓会で久しぶりに会って、やっぱ未知流は気を遣わずに話せる数少ない女だと確信した。顔はそれなりに老けたけど、三十五歳には見えない。小さくて可愛くてよく笑うところは相変わらずだ。


 昨夜はこのことを思い出しながら一人で家呑いえのみをして寝た。


 人間、強く念じたら実現できるものなのか?俺は、高校二年に戻っていた。

 だけど、俺だけだった。

 未知流は、三十五歳のままだった。


 しかも、ここはどこ?


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