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星と丸の王国  作者: 藤木美佐衛
17/41

第17話 ヤキモチとモラハラ

 –未知流−


「はぁ〜、何事もなくて良かったわぁ」

 ナディシアは、本当にほっとしたようで、帰りの馬車の中ではぐったりしていた。

「殺されなくて良かったです」

 ジュールもそんな軽口がきけるくらいに緊張が解けていた。

「慶太も目的達成出来てよかったね!」

「ああ、おまけに良いもん見られたしな」

「ああ、絶世の美女ね」


 慶太が出逢った公爵の息子の嫁さんには私たちはお目に掛かれなかった。慶太は探索から帰って来てから、地下室の話そっちのけでずっとその美人のことばかり話した。私たち三人は、慶太がなかなか帰って来ないのでヤキモキしてたというのに。

「いくら綺麗だからって人妻なんだからね!」

「何が言いたいんだよ」

「ふん」


 パーティは無事に終わり、焼き鳥もホットドッグもお客にも孫娘にも好評だったらしい。らしいとしか言えないのは、直接評価を聞いた訳ではないからだ。評価は執事から聞くことができた。

 私たちは料理の提供が終わったら帰れるものと思ってたけど、パーティが終わるまで足止めされた。

「もし食中毒なんか出たら責任を取らせるためだろ」

「殺されるんかな」

「かもな」


 私たちは命を取られることもなく、帰りも同じ馬車で送ってもらった。馬車に乗る際、執事が代金をくれた。

「当家の執事でございます。お陰様で、お客様もお嬢様も喜んでおりました」

 名前は聞かなかったが、どうかセバスチャンであって欲しい。


 今日一日、当主は私たちの前に顔も出さなかった。貰った代金は、あれだけの家を構える貴族にしてはショボい金額だった。全額を教会に渡したが、ルイードが四人に報酬をくれた。


 夜、今日の公爵家での料理提供の成功を祝して、談話室で打ち上げをした。

 ナディシアは夫の元に帰って行ったので、談話室にはジュール、慶太、私が集い、それに長老も参加してくれた。長老はお酒が目当てだったが。


「そうか、マリエンヌ嬢は元気そうじゃったか」

 もう人妻なんだから嬢はないだろう。

「ウェイドンさんも、あの方をご存知なんですね?」

「ああ、よく知っておる」

 慶太のいうあの方とは、モートデルレーン家の息子の嫁のことだ。絶世の美女だというその嫁さんに、慶太はすっかりメロメロだった。

「昔から、本当に美しかった」

「彼女もルイードを知っていると言ってました。どういうご関係なんですか」

「二人は‥‥‥」

「二人は?」

「いや、何でもない」



 –慶太−


 未知流は屋敷から戻って以来、何故か機嫌が悪い。もしかして、ヤキモチ焼いてんのか⁉︎ちょっとあの女性のことを褒めすぎたか?


 教会に戻ってすぐ、ルイードに今日の事を報告した。もちろん、地下室探索の事は伏せておいた。あれはまだ、四人の間だけの秘密だ。


「マリエンヌさんをご存知だったのですね」

 彼女とのやり取りを伝えた。

「ああ、モートデルレーン公爵様の家に嫁いだ方ですね」

 ルイードはそんな他人行儀な言い方をした。

「とても美しくて、お優しそうな方でした」

「そうですか。それより料理の評価はよかったのですか?」

 話題を変えられた。

 朝、馬車を見送ってくれた時の表情もいまだに気に掛かっていた。

 なんかモヤモヤが残った。


 長老の態度も煮え切らない。

 長老は、何か知っている。


「お前、部屋にニキ酒を隠し持ってるだろ」

 未知流に耳打ちをした。

「何で知ってんの?」

「持ってこい」

 長老にもう少し飲ませたら白状しそうな気がした。



「二人が付き合ってた⁈」

 未知流が叫んだ。

「しっ、声が大きい。ルイードさんに聞かれる」

「ごめん、びっくりしちゃって」

「詳しく話してください、ウェイドンさん」

 案の定、長老は酒が入って口が滑らかになった。


「ルイードはあの頃まだ見習いの神徒じゃった。わしと同じ教会にいた」

 ウェイドン長老は遠い目をして思い出話をし始めた。

 ルイードは伯爵家の三男として生まれた。家は長男が継ぐので、ルイードは自ら神に仕える道を選び、神学校を経て教会に勤めた。

「ルイードが30歳の時にマリエンヌ嬢と知り合って、二人はたちまち恋に落ちたんじゃ」

「ルイードもイケメンだもんね。美男美女のカップルだったのねー、素敵」

 未知流があごを両手のひらに乗せて、夢見る少女のような顔つきで呟いた。未知流も相当酔っている。

 マリエンヌも伯爵家の長女だった。家は兄が継ぐことになっていた。十八歳の見目麗しいマリエンヌには、あちこちから縁談が舞い込んでいたが、ルイードと恋に落ちてからは、二人の結婚はほぼ決まったようなものだった。

 しかし、モートデルレーン公爵の息子が彼女に岡惚れして結婚を申し込んで来た。マリエンヌの両親は、公爵家という地位に目がくらんだ。娘を高い身分の家に嫁がせるメリットは大きかった。

「出た、貴族あるあるだよ」

 マリエンヌは、両親の意向をむしかなかった。ルイードは彼女を諦め、生涯を神に捧げることを選択した。


「でも彼女は公爵家に嫁いで、幸せになれたとは思えません。少なくとも、あの息子の態度は横柄で明らかに妻を見下していました」

 俺はあの醜男ぶおとことマリエンヌのやり取りを長老にも話して聞かせた。話しながら男の態度を思い出して腹が立って来た。

「いわゆるモラハラって奴ね」

「モラハラ?」

 ジュールが素直に訊き返した。

「モラルハラスメント、略してモラハラ。人格を否定したり、暴言を吐いたり、暴力を振るったりすること」

「そんなの普通です」

 そうだった。ジュールはされてきた方だ。


「ま、とにかく彼女はルイードと一緒になった方がよかったのにね」

 未知流が能天気な発言をしたが、俺もその通りだと思った。

「俺、まだあの二人がお互いに愛し合っているように思えます」

 ルイードの態度とマリエンヌの言葉からそう感じた。

「まだ好きかは分からんが、気にはかけておるぞ、ルイードは。あの公爵親子の横暴ぶりはこの年寄りの耳にも入って来るからのう」

 かつて愛した女性ひとが、夫から虐げられているかもしれないという心配はずっとしていたと、長老はため息をついた。


「公爵の息子は、その時二人が恋人同士だったことを知ってたのですか?」

「知っておったじゃろうな。マリエンヌ嬢はだいぶん抵抗したらしいからな。すったもんだがあったじゃろう」

「そりゃ、ルイードとあの醜男とじゃ、月とスッポンだなぁ」

「私は会ってないから分かんないけど、そんなに?」

「ああ、父親そっくりだ」

「なるほど」

「顔はともかく、性格がのう・・・」

 長老は、俺たちの悪口を嗜めもせずにそう呟いた。


 ハッピーエンドの物語なら、マリエンヌが夫の横暴に耐えられずに離婚して昔の恋人と再婚し、幸せになるって筋書きになるだろう。最悪離婚できなくても家を出て、二人で逃避行でもいい。

 この世界では無理なのかも知れない。俺はまた一つ、理不尽な現実に直面させられていた。

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