第10話 転生と召喚
–未知流−
慶太は昔から聞き上手だった。
私の話すくだらない夢の話を、相槌を入れながらいつもちゃんと聞いてくれた。だから私は朝方見た夢の話を忘れないように記憶した。早く慶太に話したいと思ってた。
元の世界のことを考えても仕方ないので、考えないようにしてるけど、夢には現れる。
ここに来てから見る夢はほとんどが実家の父と母それに弟の夢だ。気にかかることがあると必ず夢に見るのはここでも変わらない。
父と母が川の向こう側にいて、呼びかけても声が届かない。私はここにいるよ!ほらここ!こっち見て!
二人は気づかずに踵を返す。でも、弟が気づいて父と母を呼び戻そうとする。ほら、姉ちゃんがいるよ!それでも二人は戻ってこない。
「はぁ、またこの夢だ」
朝起きると目が腫れていて、涙を流していたのがわかった。
私、やっぱ死んでんのかな。こんな夢を見ると不安になる。
慶太に話したい夢じゃない。そんな話をしても、慶太はどう反応したらいいか困るだろう。困らせたくないし、弱音を吐くのは私らしくないし。図太くて楽天家。それが多分慶太が持っている私のイメージのはず。
もっと楽しい夢を見たいな。
寝る前になんか面白い本を読めば、面白い夢を見られるかも。そう思って図書室で探してみたけど、流石に娯楽本は置いてなかった。神に関する学術書のようなものばかりだ。
書いてある字はこの国の言語だけど、解読はできた。これも異世界あるあるだ。
ロイスに出会ってこの世界に魔法使いがいることを知った。だけど、この国では魔法使いは嫌われ疎まれていて、その存在も隠されている。自分の魔力を自覚した人は、それを押し隠し使わないようにしているのだろうか。
炊事の手伝いをしながらナディシアにさりげなく訊いてみた。
「魔法使いは悪い人だって教えられて来たわ」
ナディシアは、まるで汚いものを見るような顰めっ面でそう答えた。
「魔法を使える人たちは、確かにいるの。だけど、この国では国民として認められていないわ」
ジュールと同じ事を言った。
「ナディシアの周りにいたことがあるの?」
「あるわ。だけど、罪人として捕まったわ。」
「何故ですか」
「理由は知らないわ。魔法使いだから悪人なのよ」
ナディシアはあまり話したくなさそうだったので、その話はそこで終わった。この国では魔法使いの話はタブーなのかも知れない。やっぱりナディシアにもロイスのことは伏せておこう。
「何で魔法使いは悪人なのかなぁ」
「またその話か?」
「だって、ロイスは悪魔って言われて親から捨てられたんだよ、悪魔と魔法使いって違うじゃん」
「そりゃ違うなぁ。悪魔は悪いって字がついてるもんな」
「魔女はどう?」
「魔女も魔法使いよりマイナスのイメージだなぁ」
「だよねー。魔法使いって聞いて、現代人が真っ先に思いつくのはハリーポッターでしょ?あれは悪魔じゃないじゃん」
いい魔法使いと悪い魔法使いがいると思うんだけどなぁ。ロイスはとてもいい子だし。
どう考えても分からなかった。
−慶太−
この世界にやってきて二ヶ月が過ぎ、俺たちは、日々の暮らしにだんだん慣れて来ていた。
俺たちが異世界から来たことは、初日にルイードが皆に説明した。すんなり受け入れたのは、俺たちが初めてじゃないからだ。
俺たちより前に来た人はまだ少年で当時十五歳、ここに一年くらいいて突然いなくなったということだった。院長が俺たちの受け入れに最初反対したのは、その少年がお世話になった皆に何も言わずに消えたからだ。
うん、それはまずい。俺もそう思う。
俺は実は三十五歳なんだけど、何らかの理由で十七歳に若返ってしまったということも、皆に話してある。異世界から来たことを違和感なく受け入れてくれたんだから、そんな不思議な現象も分かってくれるだろうと思ったからだ。
「へぇ、そんなこともあるのね」
案の定、すんなり受け入れてくれた。
「あんたたちみたいに図々しくなかったわ」
すみませんねぇ、図々しくて。
「僕よりも大人しかったです」
ジュールがそう言うなら相当だ。
その少年は口数が少なく、教会では掃除を中心に手伝っていたようだが、俺たちみたいに皆と打ち解けることなく一年が過ぎた。
俺は未知流と一緒だから何とか過ごしているが、その少年はさぞ心細かっただろう。
その少年がその後どうなったのかは、誰に訊いても分からなかった。
☆○
俺たちは毎日、高校生のようにたわいもない話をして過ごしていた。未知流は夢をまだ見ているんだろうか。
朝、目が腫れていることがある。泣きながら眠ったのか、それとも悲しい夢を見たのか。話してくれないから分からない。少しは弱みを見せてくれてもいいのに。
強がっていても未知流には繊細なとこがある。傷つきやすいとこも。俺は知っている。急にこんな世界に放り出されて、平常心で居られる方がおかしいだろ。彼女なりに何とか精神を保とうと努めているんだろう。
異世界なら魔法使いがいるはずと未知流は言い張っていたが、俺は別にどうでもいいと思ってた。異世界じゃなくて、単に過去にタイムスリップしただけなのではないかと考えていた。それも現実味はないが、異世界よりはありそうだった。
だが、ロイスとの遭遇で、魔法使いの存在を知った。最初は信じられなかったが、俺たちは本当に異世界にいるんだと実感した。でも何で?俺たちは何故この世界に連れて来られたの?
今まで、この大きな命題とまともに向き合って来なかった。てか、考える暇がないくらい忙しかった。何故二人してここにいるのか。何か理由があるはずだ。そして俺たちは帰れるのか。帰る方法は?
よく知らないが、異世界転生って一旦死ぬんじゃなかったか?死んだ覚えがないから、転生じゃないはずだ。それとも覚えがないだけで、俺は死んでるのか?
日本では俺は死んだ事になっていて、仏壇に位牌と遺影があって、親父とお袋が毎日線香をあげてくれてるのか。
俺の遺影はどの写真を使ったんだろう。俺のスマホにはろくな写真がないぞ。免許証の写真は極悪人みたいに写りが悪い。高校の卒アルか?古すぎるだろ。気になる。
俺が死んでるなら未知流も死んでるはずだ。お隣同士、二軒合同の葬式あげてたりして。
「転生はね、生まれ変わりだから一回死ぬんだよ。召喚されて異世界に来ることもある。それは死なないパターン」
異世界に詳しいらしい未知流に聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。
「俺、死んだ覚えがないんだけど、お前は?」
「私もないよ。言ったじゃん。寝て、起きたらここにいたって」
「だよなぁ、じゃ俺たち召喚されたの?」
「召喚はされてないと思う」
召喚されたのなら、何か役割を与えられるから、と未知流は説明した。
「じゃ何?」
「うーん。分からない。そこは作者のさじ加減というか」
「なんだよ。異世界専門家じゃねぇのかよ」
「専門家って言った覚えはないよ。慶太もポケ○ンやってたでしょ?」
「やってた。ドラ○エもな」
「どっちも異世界じゃん」
「そうなの?あれは魔物が出るじゃん。えっ、ここって魔物出るの?」
「さぁ」
「怖「こわ》っ!」
二人がなんでここにいるのかの結論は出なかった。




