サピエンス
一億年前の地球、私は、あなた方がのちにケツァルコアトルスと名づけることになる翼竜に乗って同じくあなた方がのちにアメリカやコロンビア*1(*1親切な作者注:アメリカ州つまりは南北アメリカ大陸の古称若しくは雅称)と名づける大陸に位置する同じくあなた方がのちにスペリオル湖と名づける湖の畔つまりは湖畔を飛んでいたのですが、が、が。
「その記述は間違っておるぞい。ケツァルコアトルスは6600万年前に絶滅しておるが、それより3400万年前から同じ姿な訳はなかろうと考えられているのではないか?」
「貴方は学者ですか?」
「いいや、わしはアマチュアの素人じゃ。お前たちHomo sapiensは150万年前でさえHomo ergasterと分類される今とは違った種だったじゃろう?」
「私はHomo sapiensではありません。Homo jurisです。」
「ホモユーリス?なんじゃそれは?寡聞にしてしらんのじゃが。」
「法の人という意味のラテン語です。正式名称はHomo sapiens sapiens juris jurisですが、見た目はあなた方サピエンスとほとんど変わりませんが、本種は特に法や権利を絶対視する本能がある種です。Homo sapiensは所謂泣き寝入り等権利の主張を辛さを理由にしないことがありますが、私たちにはそのようなことは決してありません。」
「そうかえ。随分と立派な種じゃな。」
「ええ。あなたも乗りますか?Homo jurisは気前がいいのです。」
「乗るって、そのケツァルコアトルスにかえ?サピエンスだって気前のいい人はいるぞい。」
「そうです。確かに。」
「では、乗るか。よいしょ、と言っておけば乗ったことが読者にわかるだろうから言っておくか。よいしょ。しかし見事なフォルムの生物じゃな。たまげた。たまげた。」
「サピエンスは意味のない繰り返し表現をしばしばする。」
「あ?たまげた。たまげた。のことかえ?意味はなくはないんじゃ。これはこう、雰囲気を軽くすると言うか語調を整える効果があるというか。」
「そうですか。私にはわからない感覚だ。」
「さようか。難儀じゃな。」
「難儀ですか。そのような多義語の使用は誤解のもとになりますから控えて下さい。」
「曖昧さを嫌う人じゃなあ。」
「この時代のアメリカ大陸はまだ、あなた方が知るアメリカ大陸の形ではないんですよ。」
「そのようじゃな。何もかもが違うようじゃ。」
「そうでしょう。一億年後の地球はどうなっていると思います?」
「わからん。ただ、何もかもが違うようなんじゃろう。」
「そうです。つまり今の常識は通用しない世界です。ですから今が全てと思わないことですね。」
「そうじゃな。」