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魔法使いの仕事帰り


「マジシャンケントのイリュージョンショー!!」


パチ、パチ、パチ...……


陽気なタイトルコールとは裏腹なまばらな拍手に作り笑顔が硬くなる。


煙草の煙が舞う、一昔前のスナックのような雰囲気はいつまで経っても慣れない。


「では、手始めにこちらのコップに500円玉を入れますね~」


客のテンションが低いのを見て、俺は適当にありふれた手品を披露した。


...……


もう拍手すらなく、皆、こちらを見ずに談笑していた。


「...……はい、続きまして~」


仕事と割りきり、笑顔は絶やさず、いつも通りの流れで手品を矢継ぎ早に披露していった。




「にぃちゃん、それくらい、俺でもできるぞ~

 他になんかできないんかい!」


ショーも終盤、酔っぱらった客の一人の野次が耳についた。


俺はニコッと笑って、その客を指さした。


「では、最後のショー!!

 初めにコップの中に入れた500円玉をそちらのお客さんにプレゼントしましょう!!」


そう言って、指をパチッと鳴らした。


その瞬間、コップの中の500円玉が消えた。


「あぁ~?マジで?」


ガヤってきた客は千鳥足でマジシャンケントの小さな舞台に近づいて、コップを見つめた。


「おぉ~~?ホントになくなってんじゃん~どこ行ったんだよ~」


「言ったでしょ?あなたにプレゼントするって。」


客のポケットを指さすと、客はポケットを探った。


「おぉ~~!!すげぇ!!マジである!!

 マジシャンケント?だっけ?やるじゃん!!」


酔っぱらった客は上機嫌で握手を求めてきた。


自慢げな顔で悦に浸っていると、舞台袖にいる店長がこちらをギロリと睨んでいることに気付いた。


(やべっ!!)


「こ、これにて、マジシャンケントのイリュージョンショーはお開き!!

 またのごひいきを~」


俺は客の手を半分振り払ったような形で、急ぎ足で舞台袖に帰って行った。




「ケンちゃん...…あんた、またやったでしょ?」


「ち、違うって!!あれは新しい手品だよ!!

 オリジナルのね?すごかったっしょ?」


「...…私は良いんだよ?

 魔法使ってくれても。店が盛り上がるからね。

 もし、ばれてもあんたが捕まるだけだし。」


「...…随分、ドライっすね。」


「そりゃ、店員が捕まるって一大事さ。

 だけど、あんたの世界の警察沙汰なんて私達の世界には関係ないからね。

 店が繁盛すりゃ、そのお金であんたの代わりを雇えばいいだけの話さ。」


「だ、大丈夫だって。あれくらいなら違法にはならないっすよ!」


店長はイラッとしたのか、吸っていた煙草の煙を吹きかけてきた。


「私があんたを雇ったのは魔法ってズルなしで、人を驚かしたいっていう気概を買ったからだよ!

 それが何だい!ちょっと、客のテンションが低いからって、適当に流して仕事して!!

 次、あんなショーしたらクビだからね!!」


そう言って、店長は俺の頭を割と強めに叩いて、バーのカウンターに戻って行った。


「...……はぁ。」


俺は叩かれ、うなだれた頭をさすりながら、ため息をついて、控室に戻った。




「プハ〜〜お疲れ〜す!!」


俺は生中ジョッキを半分飲み干した後にジョッキを掲げた。


「ははは。賢人は相変わらず、テンションたけぇな~かんぱ~い!」


旧友の一人、ジョーが笑いながら、同じく生中ジョッキを俺のジョッキに合わせて、掲げてくれた。


「いや。乾杯する前に飲むなよ。」


旧友のもう一人、直哉が呆れながら、手に持ったハイボールを少し上げてから、ちょびっと口にした。


俺は仕事終わりに数カ月ぶりに会うこの旧友二人と飲みに来たのだった。


「喉乾いて、我慢できなくなっちゃった。てへぺろ☆」


「きめぇ。どうせ、仕事が上手くいかなかったんで、イライラしてたんだろ。」


「そ、そんな事ねぇよ!!

 マジどっかんどっかんよ!!

 もう歓声がうるさくて、耳おかしくなっちゃったもんね!!

 それはもうカーニバルの如しだったよ!!」


「ははは。ホント、賢人は分かりやすいな~

 まぁまぁ、聞いてやるから、いつも通り愚痴ってくれよ。」


「だ、大丈夫だっての!!

 なんだよ!!二人して!!

 分かった風になっちゃってさ!!

 大人になっちゃってさ!!」


「まぁ、もう30だからな。

 お前がいつまで経っても子供なんだよ。

 口調がもう子供なんだよ。」


「なんだぁ?ちょっと前に一緒に赤ちゃんプレイのお店に行ったくせに。

 直哉は子供通り越して、赤ちゃんじゃんよ~」


「...ブッ!!ふ、吹き出したじゃねぇか。

 ...……それは...……あれだよ。癖はいくつになっても変わんねぇよ。

 じゃなくて!あれは興味本位で行っただけだろ!!

 てか、お前に誘われていったんだろが!!」


「マジマジ!?なんだよ、その話~

 聞いてねぇよ~」


「あれはそう...1カ月前の事...……」


「ははは。思ったより、最近じゃんか~」


こんな感じでいつも通り、楽しくだべったのだった。




「...……そういや、嫁は今日こねぇの?」


バカ話が一段落したタイミングで、フライドポテトをつまみながら、俺は直哉に場繋ぎ的に聞いた。


「お前が嫁って言うなや。奥さんって言え。

 こねぇよ。もう臨月だからな。実家に帰ったわ。」


「そっか。もうすぐか~

 実家ってことはあっちに戻ったってことだろ?

 こっちじゃダメなんだっけ?」


「そうなんだよ。こっちで産まれちゃうとうっかり出しちゃうかもじゃん?」


「うんこを漏らすのは赤ちゃんの特権だろがよ!!」


「なんでキレてんだよ...……ちげぇよ。魔法だよ。

 だから、魔法をコントロールできるまではあっちなんだよ。

 俺らと一緒で18歳まではこっちに来れないんだよ。」


「マジ?知らんかった~

 それはなんか寂しいな~

 中々会えないじゃん?」


「そうなんだよ...……俺もあっちに帰りてぇ~」


「消防士のエースはつらいねぇ~

 俺だったら余裕で帰れるね~

 今の仕事なんかすぐやめてやるぜ!!」


「いやいや。それを自慢げに言われても。

 てか、魔法学校主席のお前がなんでマジシャンなんてやってるかね~」


「ははは。まぁ、でも賢人に前の仕事は合ってなかったと思うわ~

 まだ、マジシャンの方が賢人っぽい。」


「確かに。研究職っぽいことやってたんだっけか。

 それは賢人には向いてねぇわ。」


「うむ。それは自覚しておる!!だから、今はマジシャンやってる!!

 ...……でも、上手くいかねんだわ。これが。

 魔法とテクニックの塩梅が難しくてよ~」


「...……ジョーは最近どうなのよ?仕事の方は?

 医者は大変イメージあるけど、ジョーから愚痴はほとんど聞いたことねぇな。」


「俺?まぁ、順調だよ。

 やればやるほど、回復魔法って便利だな~って感じてるよ。

 難しいのは加減だけかな。

 ばれない様にするのが、一番面倒だわ。」


「分かる~~!!

 消防士もさ~上手くやれば、皆も守れると思うんだけど、明らかに不自然になるから、基本的には自分の周りにだけ水と風の結界魔法使ってるわ~」


「俺も分かる~マジシャンなんて観客皆こっち見てるからな~

 皆と違って、これがまた難しいんだよ。

 加減しすぎるとマジックがつまんなくなるし、やりすぎるとばれちゃうしで。」


「お前のマジックなんて誰も見てないだろ。」


「マジで、言っちゃならんことを平気で言いおったな!!

 表出ろ!!この野郎!!」


「まぁまぁ~仕事の話はやめようぜ~

 最終的に賢人の愚痴になるからさ~」


「ジョーもそれは優しくないな~イラつくな~

 よ~~し!喧嘩すっか!?」


酔いが回ってきた俺はふざけながら、腕の袖を捲し立てた。


と同時にポケットの携帯が震えた。


「っと、ちょっと失礼…嫁からメールが……」


「平気で嘘つくな。アホ。」


「嘘じゃねぇよ!俺のイマジナリーワイフからメールが来たんだよ!」


「ははは。悲しいアホだな~」


ちょっとした小ボケを挟みながら、携帯を見ると、これまで楽しかった気分が一気に冷めた。


「………はぁ……マジかぁ...…」


「どした?すげぇテンション下がってっけど。」


不穏な空気を察した直哉に俺は携帯を見せた。


「……おぉ~校長からメールかよ~

 そういや、まだちょいちょい連絡とってんだっけ?

 てか、お前、校長の名前「じじい」って、ひでぇな。」


「マジ?前の仕事の引継ぎ、まだ続いてんの?」


「いや…もう、ほぼ引継ぎ終わってんだけどなぁ……

 めんどくせぇ...…」


本当に面倒でメールなんか無視して、見ないで削除してやろうかと思ったが、俺にはそんな度胸もないので、直哉に見せていた携帯を自分に向けて、メールを開いた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――

件名:【緊急】明日、校長室に来てください。

内容:

お疲れ様です。校長です。


突然ですが、明日、校長室に来てください。

お願いがあります。

昼食は高級レストランをごちそうします。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



(……相変わらず、絶望的に説明が不足してやがる……)


俺はジョッキ8割くらい残っていたビールを一気に飲み干した。


「ぷはぁ~~

 ...…明日、校長に会いに行かなきゃならんくなったわ。

 ガチめんどい……」


「流石、主席卒業だな。頼りにされてんじゃん。」


「ちげぇよ。そんなんじゃなく、ただ、弟子で扱いやすいだけだよ。

 要はパシリにみたいなもんだよ。」


「でも、すげぇじゃん!

 校長って今や官僚だろ?

 魔法使いがこっちの世界に来れるようにしてくれた人で、立派な人じゃん!

 校長のおかげで俺ら、こっちに来られてんだから。

 そんな人に頼られるって、中々ねぇよ。」


「ホントだよな~

 校長のおかげでアニメが見れてると思うと、感謝してもしきれないよな~」


「……まぁ……そうなんだけどよ……」


俺は頬杖ついて、少し考えた。




校長とは俺達が通っていた魔法学校の校長のことであり、魔法使いが「こっち」、所謂、「現実世界」に安全に来れるよう世界各国との協定を結んだ偉い人で、俺はそんな校長…いや、先生の弟子である。


俺も「あっち」、所謂、「魔法世界」の田舎生活に飽き飽きしていて、TV、スマホ、インターネット、スポーツ、アニメ……ありとあらゆる娯楽が存在する「現実世界」に憧れて、こっちの世界に来た口だ。


だから、今、その娯楽を楽しめているのも先生のおかげな訳なので、尊敬も感謝もしている。


しかし、俺はこっちの世界で初めて就いた仕事を辞めてしまった。


そして、その仕事とは先生の組織した政府機関での仕事で、俺は割と重要なポストについていたにも関わらず辞めてしまっている。


しかも、かなり急に辞めてしまい、その後の俺のしていた仕事を今は先生自らが請け負ってくれているのだ。


……つまり、俺は先生にかなりの迷惑を掛けてしまっているのだ。


とは言え、辞めたのだから、引継ぎなんてブッちすればよいのだが、流石の俺も子供の時から育ててくれた先生に対して、そんな事はできず、先生の連絡にはいつも丁寧に対応しているのである。


……でも、俺は分かっている。


先生は俺のしていた仕事の内容なんて、俺に聞かなくても分かっているはずなのだ。


先生が俺に連絡してくるのは単純に俺の事を心配しているだけなんだと……


ただただ迷惑を掛けただけの俺の事を……


そんな人に会うのは………面倒というよりも…気が重い……




「……ちっくしょ~もうちょっと付き合ってくれても良かったのによ~」


俺は先生からのメールを見た後、何もかも忘れてしまおうとばかりに酒を飲もうとしたが、直哉とジョーに止められ、酔い八分目といったところで解散となってしまい、ふらふらしながら駅に向かっていた。


時刻は22時を回っており、水曜日ということもあってか、客引きも少なく、駅前はそこまで人が多くもなく少なくもない状態だった。


そんな中、ベンチにポツンと座って足をブラブラさせている少女が目についた。


(こんな夜中になんでこんな小さな子が……家出か?)


俺は酔っていて気が大きくなっていたこともあり、少女に近づいて行って、声を掛けた。




「お嬢ちゃん。こんな夜中にどうしたんだい?」



そう言って、俺は少女の前に膝まづいて、さながらルパンのように指を鳴らして、一本のバラを差し出した。


「……………」


少女は怯えた顔をして、黙ったままだった。


(やべぇ!!外した!!このままじゃあ、ロリコン容疑で警察に通報される!!!)


この5歳くらいの少女をナンパしていると周囲に思われるのではと焦った俺は慌てて、差し出したバラを魔法で消した。


「いやいや!違うくて!!

 これはちょっとした冗談で!」


「……バラどこ行ったん?」


「へっ?」


突然の大阪弁に俺は一瞬固まってしまった。


「…おじちゃん、私の事、見えてるん?」


「み、見えてるよ?てか、君はあれかな?

 実はお化けなのかな?」


「……ちゃうよ……うち、ちゃんと生きてるし……

 でも、おねぇちゃんがうちのこと、隠してくれたと思ってたのに……」


何のことだが、さっぱり分からず、やべぇ子供に関わってしまったと少し後悔した。


しかし、このまま去ってしまうと、通報されるのではと不安になったので、何とかこの子のご機嫌を取ろうと少女の顔の前に人差し指を出した。


「花火は好きかな?」


俺は人差し指から線香花火のように火花を魔法で出して、少女の反応を待った。


少女はまんまるとした大きな目をキラキラさせて、ほぉ~とその火花に魅入っていた。


少女の様子を見て、少し安心した俺は人差し指から火花を消して、自分の口に持って行った。


「実はおじちゃん、魔法使いなんだ。

 このことは秘密だよ。」


ニコッと笑いながら、少女にきざな言葉を残して、俺は立ち上がり、駅に向かって行った。


(どうか、通報されませんように……)


俺は振り返らず、少し小走り気味に帰ったのだった。


続く。


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