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愛情の欠片

作者: 柴いぬ
掲載日:2023/06/08


 死んだら星になるって誰が言ったんだろう。




私は絶対に星になんかならないって思っていた。




だって星って惑星だよね?




死んだらみんな惑星になるって意味わかんない。




そんな事を考えていたら退屈な堀田の授業が終わっていた。




 堀田の授業はとにかく退屈だ。




宇宙の話がほとんどだから。




私達に宇宙の話が何の役に立つのか全く理解できない。




宇宙人がいるなら堀田の奥さんにでもなってあげなよって香菜が言う。




その事に特別反応もしないし、とにかく退屈だった。




今日の一番の出来事といえば、窓から入ってきた蜂が教室を5回旋回して、チャイムと同時に教室へ入ってきた堀田の頭にうまく止まったことぐらい。




5回の旋回をみんなが緊張して見守る中、うまく落とし所を見つけた蜂によくやったと褒めてやりたいぐらいだった。




とにかく私の日常は退屈そのものだった。




 担任はとにかく夢を持て、そして夢に向かって努力しろ、努力すれば必ず報われると話した。




んな訳ねーじゃん!!




誰でも報われるなら世の中狂っちゃうよね。




みんな努力は一度や二度してるんだよ。




それは夢を叶える為の努力じゃない。




一度自分の口から発した言葉を後に引けない大人の圧力によって何とか成そうとしてるだけ。




本当に夢を叶えたって堂々と言える大人がいくついるんだろう。




そもそも夢って何?




夢って書くぐらいだからやっぱり手の届かない場所にあるもんだって思ってしまう。




歌手になりたい、漫画家になりたい、社長になりたい、みんな色々言うけど、例えばそれが叶ったらそれは夢が叶ったと言えるの?




それがあなたにとっての幸せなの?




あなたの人生はそれが正解なの?




「本当の幸せを見つけました。」




昨日ワイドショーに出ていた俳優がそう答えていた。




初めて結婚した奥さんに浮気されて、挙句の果てには子どもの親権まで奥さんが手に入れていた。




だが1年後その俳優は再婚し、新たに子どもができた。




「本当の幸せを見つけました。」




なんだそれ。




てめーの幸せなんかどーでもいいんだよ。




奥さんが引き取った子どもの気持ちを代弁してみた。




この世の中、本当の幸せも叶えたい夢もただの妄想でしかない。


本当かどうかなんて自分が決めつけた都合のいい逃げ道でしかない、そう思って生きてきた。




 私の生い立ちを話せば誰でも同情してしまうからできるだけ誰にも話さないようにしてきたが、香菜に出会った事で私の中で何かが変わった。




「うちの親ってパパとパパなんだよね~」




コーラを飲んですぐそう話したから香菜はゲップ混じりになってしまった。




香菜はクラスでも一番明るくてよく喋る。




窓際でいつも本を読んでいた私にしつこく喋りかけるからちょっと鬱陶しかった。




香菜の両親はいわゆる同性婚というやつらしく、子どもが産めない両親は施設で育った3才の香菜を家族に迎えたらしい。




小学校に入る頃に真実を聞かされたらしいけど、周りの親を見てたら香菜はとっくに気づいていたらしく驚く事は全くなかったと笑って話す。




そんな家族のカタチもあるんだなってちょっと羨ましい気持ちになった。




 私の家族は5人家族でまぁ残念ながら間違いなく血は繋がっている。




しょっちゅう気狂いになる母親と、その母親に逆らえない情けない父親、そして3歳年上の兄と5歳年上の姉がいた。




いつも何かしらストレスを抱える母親は、常に父親や私達に暴力を振るっていた。




暴力を振るう理由なんて何でもよくて、私達は母親にとってただのはけ口でしかなかった。




小さい頃から植え付けられた感情というのは不思議なもので、その巨大な敵に立ち向かう感情というものは生まれてこない。




ただひたすら耐えるしかなかった。




なぜなら私達に逃げ道など見当たらなかったからだ。




自分の置かれた環境しか知らずに育つと、それがどこの家庭でも当たり前の出来事なのだと思っていた。




母親は私達に暴力を振るうと決めた時は決まって大音量でレコードをかけるのだ。




それが開始の合図となる。




まだ小学生だった私は姉ほど殴られる事はなかったが、姉の帰りが遅いとお前は姉のようになるなと言われていた。




それでも私も高校生になると家に帰るのがイヤになり帰りが遅くなる事もしばしばあった。




必ず母親は暴力を振るってきたが、翌朝は優しかったりもする。




自分の犯した虐待に反省しているのではなく、ただ感情が鎮まっただけなのだ。




 高校を卒業して仕事に就くと、母親からの暴力で顔が腫れたり睡眠不足になるのが仕事の妨げになるので、母親をうまくなだめる方法を身につけるようになった。




夫婦喧嘩が発展して私達にもとばっちりがくる事はよくあったが、私は母親の意見をすべて聞き入れ、なだめ、頭を撫でて寝かせるのだ、まるで子どもをあやすように。




私の人生は母親の機嫌で動かされてきたが、ようやく私の生きる術を身に着けたような気持ちになっていた。




香菜を産んだお母さんは幼い香菜を施設に預けたまま一度も会いにこなかったそうだ。




どんな理由があったのかは知らないが、施設で育ち同性婚だが愛情に満ちた夫婦に引きとられた香菜は幸せそうだった。




あんな軽々しく「本当の幸せを見つけました。」と話す俳優には到底わからないだろう。




子どもの親になった以上、子どもの幸せを願うのが一番なのではないのか。




私は自分の子どもを育てながらふと思う。




今、子どもを真っ直ぐ愛せるのは自分が幼い頃から欲しかった愛情だったのではないのか。




愛情をうまく表せない母親は私達に感情でぶつかってきたが、何故か私はいつも冷静に母親を見ることができていた。




そんな風に思えるのは、あんな母親でも一片の愛情があったからなのかもしれない。






私という人間が出来上がるまで様々な出来事が積み重なり、形成され感情が生まれていく。




 もしかして星が出来上がるのもそんな感じなのかもしれない。






宇宙からやってきた隕石が地球に生命をもたらしたとしたら、すべては共同体で繋がってるのかもしれない。




香菜を産んだお母さんも、香菜の2人のパパも、そして私の親もすべて同じ共同体なのだとしたら、いつかその生命が尽きたとき、人は星になるのかもしれない。




そんな事を考えていたら、何だかとってもちっぽけで退屈な日常を少しワクワクさせたのだ。





そんな世界に生きてるなら、ウソでも夢を持って生きてみるのも悪くないかな。




今なら堀田の授業を楽しく聞けそうだとビール片手に夜空を見上げるのだった。 







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