幻の魔女
お日様の中で眠るのは、とても贅沢なことの一つですよねぇ。
忙しい皆様にも、そのような時間がたまにありますように……(=^・^=)
広い森のある小さな王国で、年若い王子様が臥せっておりました。もう半月もほとんど何も食べておりません。大臣たちは、高名な医者や薬師を呼び寄せ診させましたが、一向によくならなかったのです。
そして、とうとう森の奥深くに住んでいる魔女が呼び出されました。森の奥の魔女は、何でも知っていて何でも治せる魔術を使う存在だからです。魔女は、迷惑そうにいいました。
「わたしにできることはないよ」
この魔女の正体は、実は魔女でもなんでもなく、人嫌いで森の奥に住むようになったただの老婆でしたが、大臣は魔女だと思い込み、「城にくるだけで金貨百枚を渡すから」と、むりやりたのみこんで城に連れていこうとしました。魔女、実はただの人嫌いの老婆は、なにがなんだか分からないまま金貨百枚につられて、しぶしぶといった態でついていったのです。
王子様が臥せっている部屋に通されると、ひどい湿気を感じて、魔女は顔をゆがめました。
「なんていうかびくさい部屋だい。こんなんじゃ病気も治らないよ」
「しかし、眠れないから暗くしておけと王子様の命令なのです」
「ふんっ」魔女は、部屋のカーテンを開けてから、窓をあけ、さんさんとした太陽の光を部屋に入れました。魔女はおつきの者たちに言いました。
「ベッドごと王子をバルコニーにお出し」
王子様は、もはや何も言うことができないほど、心も体も弱っていました。
太陽のあたたかい光を浴びて、王子様の高級羽毛布団は二倍にふくれあがり、ひなたの匂いがしてきました。あまりの気持ち良さに何日もぐっすり眠れなかった王子様はすやすやと寝息をたてました。そして、夕方になる前に、魔女はベッドを部屋にいれ、あたたかい白湯を王子様に飲ませました。
「うまい!」
ただの白湯なのに、王子様には甘露のごとく感じられたのです。
そして、次の日も王子様のベッドは、お日さまのしたにおかれ、王子様はすやすや眠りました。すると、今度は何も入っていいないスープが運ばれました。
「なんと、うまい!」
王子様は、またたくまにたいらげました。
そして、次の日も王子様はベッドごと、お日さまの下におかれ、すやすや眠りました。今度はコーンポタージュと共に柔らかいパンが添えられました。
「なんとうまい!」
王子様はまたもや完食しました。
そして、次の日にはベッドごと庭の散策を楽しんで、おいしいお茶とご飯を外で楽しみました。
そして、一週間がたった夜、王子様は久しぶりに湯あみをおこないました。その気持ちよかったこと、気持ちよかったこと。身体中に、お日さまのような暖かさがしみいりました。
王子様の病気の原因は、「王子様を好きになってくれる女性がひとりもいない」ということでした。日向ぼっこ中に王子様からそれを聞いた魔女は、瘦せた上に快活に笑うようになった王子様を見て「ふうん。そうかい」と、にやりとしました。
魔女は、最後の仕上げとばかりに、この国と仲の悪い隣国のお姫様を呼び出しました。この魔女は魔女ではないのですが、森の奥の魔女の命令ということで、隣国の姫は最小限のお供を連れてやって来ました。王子様は、お姫様を見たとたん赤面して、うれしそうに笑いました。
お姫様は、以前は日陰に住んでいるかのように陰気くさく、ちっとも笑わなかった王子様が笑顔を見せてくれたことにまず驚きました。さらにその笑顔のさわやかなことといったら!お姫様も、すぐにうれしそうに笑い返しました。
そして、ふたりでベッドに寝ながらお日さまの下で、お茶を楽しみました。
心の奥で楽しそうと思っていても、「はしたないこと」と最初は断ったお姫様。でも、魔女の「決めつけが過ぎると、人生楽しめないよ」という言葉で素直になって、ベッドでの庭の散策を楽しみました。
やがて、王子様は隣国のお姫様と結婚し、すっかり元気になりました。ここにきて戦争問題も一気にかたづいたのです。
魔女は、「やれやれ。人は人をもとめるねぇ。やっかいなこった。でも、これでやっと森に帰れる」といって、さらに金貨百枚を上乗せさせて、全部で二百枚をもらってうはうはと森へ帰りました。
おわり
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
何か感じたことがございましたら、感想などいただけますと、小躍りして喜びます。