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【完結】百合なペットと二人暮らし  作者: くもくも
2章 旅行にはペットも連れて
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8. ペットの嫌いなもの

 替えの下着や服、化粧品を新しく買ったキャリーバックに詰めていく。


 明日はお楽しみの温泉旅行。

 自分独りだって温泉は素晴らしいものだけど、それをキナコと一緒に味わえるならきっと格別だ。


 大きめのバックに思ったよりも余ってしまったスペースには、帰りにたくさんお土産を詰め込むつもりだ。


 キナコは先程から、最近有料になったスーパーのレジ袋をせっせと折り畳んでいる。


「ほら、ほらこうして、レジ袋がきれいな三角形にまとまるんですよ。これに汚れた服とかを入れて帰りましょうね」


 意外と家庭的な知識を見せてくるキナコ。これはこれで、味があってかわいいです。


「ふふ、なんかキナコのそのレジ袋の畳み方、おばあちゃんみたいだね。キナコばあさんの豆知識だ」


「あ、確かに昔おばあちゃんに習ったやり方かもしれないです。必ずこうやって畳んでおいて、ゴミとかまとめるのに使ってたんだあ。なつかしいなあ」


 ほほう、キナコはおばあちゃんっ子。

 メモメモ。

 もっとたくさん、キナコのことを知りたくなってしまうなあ。


「キナコの実家はどのあたりなの?」


 話の流れに便乗し、ちょっと勇気を出して個人情報を聞いてみた。

 もしかして私みたいに天涯孤独かもしれないと思うと、ちょっと聞くのが怖いけど。


「わたしは高校生のときまでは長崎県に住んでたんですよ。実家は両親と一緒におばあちゃんも住んでます。今年のお正月は帰らなかったから、来年は帰ってあげたいなあ」


 ふ、普通だね……。


 この間知った本名もそうだが、おそらくキナコには、特に何も私に隠すような生い立ちは無いみたいだ。

 出会いがこんな感じだったせいで、私が無駄に慎重になりすぎているみたいだな。


「長崎かあ。九州の方言しゃべるキナコ、かわいいんだろうなあ。方言女子ってやっぱりかわいいし、こっちに来てからも結構男にモテたんじゃない?」


 私の言葉に、キナコは少し目を伏せ、暗い感じに笑った。

 ……んん?


「うーん。田舎者と思われて悪い人に騙されたりするのもいやだから、敬語っぽくしゃべってごまかしてるんですよ。それに、男の人にモテるのはちょっと……」


 うーん、また何か地雷を踏みそうになったかも。

 明るい感じでごまかそう。

 私はバックを閉じながら、キナコにぐいぐいとすり寄った。


「ねえ、ちょっと長崎のしゃべり方やってみて? 聞きたいなあ。キナコの方言聞きたいなあ」


「そ、そがんいわれたっちゃ、なんもしゃべれんよ?」


 ちょっと恥ずかしそうに目を反らしながら、キナコはちゃんと乗ってくれる。


 か、かわわわわ! かわいいっ!!

 世界初の方言ペットの誕生だあ!


 あまりの愛らしさに、撫で撫で祭りを開催していると、キナコの表情もすっかり明るくなっていた。

 

 キナコはもしかしたら、恋愛絡みっぽい話が嫌いなのかも。


 さっきの、モテるだモテないだの話もそうだし、以前に私が好き好き言いまくったときもそうだった。

 すごく気になるけど、ちょっと気をつけたほうがいいかな。


「ねえキナコちゃん。私の前では方言も隠さないでよかよかよ? よかばいよかばい?」


「うーん、偽物の方言、違和感ばりばりで気持ち悪いです」 


 うへへ、気持ち悪い、いただきました!

 この本当にちょっと嫌がる感じの顔が、これまたかわいいんだよね。


 明日の準備の最後の仕上げに、ハンドバッグに入れるお財布の中身をチェックしておく。

 電子マネーやクレジットカードはなんとなく好きではないので、今日のお財布には現金がたっぷりだ。


「キナコも忘れ物ないか確認しておいてよ? 明日は早く出発したいんだからね」


 キナコは準備を進める私を尻目に、床にだらしなく転がっている。


「いいんですよ、わたしはポケットに入るものだけでも荷物は十分なんだから。それよりつばめちゃん、わたしもう眠くなってきたし、早めに寝ましょうよ。明日が楽しみだなあ」


 キナコは大きなあくびをして、そのまま立ち上がろうとしなかった。



 シャワーを浴びて部屋に戻ると、結局キナコはソファーで丸くなって眠っていた。

 困ったな、キナコは結構、何をやっても起きないから。


 とりあえず、ほっぺたをつんつんと指先で押してみる。

 すべすべのお肌の感触が指から伝わって、ちょっといやらしい気持ちになってしまった。


 閉じられたまぶたの下の、長い睫毛がとってもきれいだ。

 キナコの寝息に合わせて、胸の膨らみが少しだけ揺れる。


 やわらかぷりぷりのキナコのおっぱい。

 正直、服の上から見ているだけでもムラムラしてくる。


「キナコはペット、キナコはペット、キナコはペット……」


 最近は、キナコに対してふしだらな感情が芽生えるたびに、念仏のように繰り返している。


 キナコとの幸せな生活にズブズブに沈んでいくにつれて、どんどん自分の心の中から、キナコ以外の色々な存在が消えていくような感覚がある。

 最近は自分の視界に、キナコ以外が全然入ってこない。


 あらゆることを、キナコとしたい。

 猫のように可愛がることも、恋人のように接することも。


「キナコはペット、キナコはペット、キナコはペット……」


 自分に同性愛の気があるというのは、自分でも驚きだったが、さすがに自分の気持ちもここまでくるとごまかしようがない。

 キナコがかわいすぎるのがいけないのだ。


 でも、一番大切にしたいのは今のこの幸せな生活。


 キナコの最近のそぶりから考えると、きっと私とのこのおままごとみたいな、ペットと飼い主という関係性は気に入ってくれているのだろう。


 だけど、恋愛関係は全く望まれていないように思える。

 キナコが、あの伏し目がちな暗い笑顔をときどき見せるのは、きっとそういうことだ。

 

 下手に下心を見せれば、きっとキナコは私から離れて行ってしまう。

 だけど今キナコを失ったら、私は間違いなく、おかしくなってしまうだろう。


 先代の猫のキナコのときですら、自分の全てを失ったような気持ちだった。

 今のキナコを失ってしまえば、きっと私は。


 だから、現状維持こそが最善。

 今のこの幸せを、少しでも、1日でも長く。


「キナコ、ほらちゃんとお布団に行こう? こんなところで寝たら、体が痛くなっちゃうよ?」


 呼びかけても、キナコは起きない。

 肩を揺すっても、キナコは起きない。


 今なら何をしても大丈夫では? という考えもよぎり、キナコの唇を見つめてしまったが、万が一目を覚ましてしまったら、というリスクを思うと、髪を撫でることだけ、ひたすら繰り返すしかなかった。


 眠ったままのキナコの、ふわふわのきな粉色の髪は、きれい過ぎて少し心が苦しくなる。

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