あなたは足の怪我より、頭の方が深刻ですよ
ズズッ………と
足を引き摺りながら、大きな病院に向かう自分。接骨院とかでも良かったんだが、どーしても病院じゃないとできない事だし、個人的に安心できない。接骨院の場合、ヤブの場合もあるからだ。それに
「レントゲンで確認しとかないとな」
2週間ほど前に交通事故に遭い。なんやかんやで、それをもみ消したはいいが。身体の怪我はもみ消せない。仕事をしてきたが、体がこんな不利な状態で働いたのは……7年か8年ぶりかな。
辛い経験が今を支えていた。と、振り返りながら思う。
今はコロナ化だから、予約しないといけない。行った事のない病院……に限らず、知らないところに行くのはとても嫌いだ。
で、なんでこんなに遅くになって病院に行ったか。平日の休みがとれない。それと
『よ、よ、予約をしたいんですけど。整形外科のぉぉっ』
『すいません。今日、整形外科の人休みなんですよ』
土曜日の休みで行こうとしたら、担当医がたまたま休みで行けなかった。救急車を呼ぶほどにもできなかったのは、事故を起こしたのが大分前ってのもある。
そんなこんなで……というより、骨だ。足の痛みがまったくひかない。
「こ、こ、こんにちはー」
「問診票のご記入をお願いします」
受付さんから問診票を受け取り、怪我してるところやいつ頃から怪我をしたかなどを記入。左足首のところと、……人体図に〇を書くのだが。それより驚かせたのは
「????」
骨の部位って、なんて読むんだ!?全然、分からん!!
そこから始まり、……誰にでも分かるように、選択肢形式で怪我の箇所を記入できるというのに、自分で左足とか書いてるし。
「お仕事中の事故とのことですか、労災ってどうなんですか?」
「ええっ」
今日、レントゲン撮りに来ただけなんだけど。……そんなことを言われてもね。という反応になっている自分。受付さんも困った奴が来たなという顔である。事故扱いにはしてないから労災は無理なんよね。
問診票を提出した後、待合室で待っていると。おっさんやおばちゃんやら普通に喋っているし、体調どうなの?とか世間話をするんだなーって。自分にはできない事を周囲がしていた。
その時、とある医師と患者さんのやり取りを聞いて驚いた。
「退院おめでとうございます。あの時、コロナと分かって良かったですね」
「ええ、助かりました」
最初は、はぁ?……という感じであったが。
「診察した結果、軽い肺炎になられていました。コロナの方は治ってますし、あとはこの肺炎の方のお薬出しておくので、何かあればまた起こしください」
「お酒は少し控えます。ありがとうございました、先生」
会話から察すると。どうやら酒の席でコロナに掛かった患者らしく。一通り診察したら、コロナよりも肺がやばい事を知れて、治療をされていたようだ。そーいう事もあるのかと、ビックリである。
◇ ◇
「左足首の、……踵骨の近くですか。確かに腫れてますね」
踵骨って読むのか。あれ……。
「腓骨、頸骨も……腫れはありませんけど、痛みますか。……傷口も凄いですね。これ、出血が酷かったでしょ」
「あ、はい。今も左足首の先が上がらないんです」
「なるほどー」
診察のお時間。ど素人な自分ですらも、左足は怪我している事くらいは理解できる。ちゃんとした先生ならば、もっと分かること。
「打撲……あるいはヒビかもしれませんね。事故の日に熱って出ました?」
「は、はい。夜に38度ほど」
「うわぁー、それは結構な痛みだっていうサインですよ。この打撲は2週間前なんですよね?どーしてすぐに病院に行かなかったんですか……」
「人いないのと、痛いですけど足が動くんで、気合というか。そーしなきゃ、仕事に……だって、現場に人いないんで。事故起こした次の日も、熱出てましたけど、コロナじゃないんでそのまま働いて。客も上司も、周りも許しませんからね」
「どこも同じですねー。私達も同じです。休めって言って、休める仕事じゃないんですよね。代わりいねぇーって……でもね、病院はすぐに行った方がいいですよ。大事に至らないから済みますけど……というかね、あなた。車に撥ねられてて仕事するとか、足より頭オカシイですよ」
どうやら自分は、交通事故に巻き込まれるよりも前に、頭の方が深刻だったようだ。割と自覚している。
「そんなフラフラな状態で……仕事をされる方が周りには危険ですから」
「は、はい。気を付けます。……でも、いないんです。みんな辞めていくんで。生き残っているのは戦闘民族だけです」
「うんうん。……良くないね。私、整形外科担当なんで。診察して薬を提供するのが精一杯ですからね」
そんなお話の後。レントゲンで骨の状態の確認……幸い、折れてもいないし、ヒビも見つかっていない。打撲とかなりの出血が原因で、足が痛いという診断結果をもらう。(ここらへんは骨に異常なしと分かったからよく覚えてない)。
担当医さんからは、強力な湿布薬を処方してもらった。
「お大事にー」
「あ、ありがとうございました」
足が無事だという報告を聞いて、少しだけ足取りが軽くなった。同時にこの病院に来て、一番の重傷箇所が判明した。
「俺の頭が一番重傷だった……」
傷はないのに、中身はスカスカで腐った桃みたいに……やばいような感じ。
そんな頭だからこんな仕事をやれるのかと、前向きにもなって、明日からも仕事をしよう。