幕間 勇者たちの未知なる日々 2
本日2度目の更新です。
〈木谷根side〉
滑走路にてチャーター機を待つ間。
「そういえば、皆さんのお小遣いをチャージ&グレードアップしなければ」
「「「「「えっ!?な、なにごと?」」」」」
懐から出した小袋に入っている金色のカードを全員に渡す。
「「「「「ゴ、ゴールドカード、だ、と」」」」」
「ありゃ、珍しかったかな?コミュウ連邦では子どもでも持ってるありふれた色のカードなんだけどなぁ」
「「「「「あ、あ、ありふれているっ!?!?」」」」」
「すごい驚きようだな…。どれだけとんでもない事態にあるのかがよくわかるな…」
「それでね、そのカードにはコミュウ連邦で使える電子マネーeMが300万入っている。是非散財してくれ」
「「「「散財して良いんですかっ!?」」」」
「ぼく名義の銀行口座と直結させてあるけど、月々の給料が天元突破しているから貯まる一方でね、是非ともばらまいてくれ」
「「「「「お金に愛されている、ということなのか…?」」」」」
「それはどうなんだろう…。少なくともお金が溢れすぎていて価値逆転が起きているということはある。お金を発行するところはないのに」
「「「「「…ん?勝手に増えるお金…?こ、こっわ…」」」」」
「ところで、勇者部で貰ったこのカードはどうしますか?」と、先生。
「それは回収するけど、残高はそれぞれあげたカードに入れておくね。うーむ、人によってまちまちだな。残高ギリギリの人とほとんど使ってない人といるね。このゴールドカードはお金がなくなれば勝手に入金されるシステムだから気にせず使ってね。ぼくが助かる」
そ、それでいいのか…。本当に…。
「それはそうと、ここってスマホ使えるんですか?」
俺はピングーさんに思いきって聞いてみた。
「君たちの持つ角形端末のこと?もちろん。基本的に公衆電波が普通に飛んでいるし、それによって料金を取ることはないよ。というか、徴収する組織がない。徴収するやつらがいたら犯罪組織と思ってくれていい」
い、言い切ったな…。
「どんな端末でも使えるんだけど、ただ、君たちの場合、親元への連絡はできないよ。君たちの惑星への連絡は宇宙ネットを経由する超光速通信になるから、そこまでの技術が発達していない初期文明では無理です」
「「「「「で、ですよねー。はははは…」」」」」
「ただ、セキュリティが心配なので、『アイスウォール』ってアプリをインストールしてくれ。我らペンギン種族御用達でね、どんなコンピュータ・ウィルスも必滅、大元まで辿って相手を特定し警察への情報提供まで行うんだよ。サイバーテロ殺しって言われてる。それでも湧くから厄介なんだけど」
「「「「す、すご」」」」
「しつもーん!このアプリをいれたまま出身地に帰って大丈夫ですか?」
おちゃらけたパソコン部の奴がピングーさんに質問する。
「大丈夫だよ。だけどサイバー空間上ではザワザワするだろうね。時代遅れのテロリストを(技術的に)瞬殺するからさ」
「コピー品とか作れたりしますか?」
真面目なパソコン部の奴も質問する。
「解析はやめておいた方がいいし、アプリに存在する彼らは我々の法律で人工知的生命体として定義されている。国家機密を大々的に暴露して国を崩壊させたくなかったら、本気でやめていた方がいい。これはマジだよ」
「「「「「はい…。機密暴露って大惨事だ…」」」」」
その後、国崩壊レベルという好奇心のもと、俺たちは全員『アイスウォール』をインストールした。その際に時代遅れのOSの書き換えの許可を求めてきたので、面白そうなピングーさんによるシステムバックアップをとった上で、パソコン部の連中を筆頭に10人がOKした。俺もその1人だ。
パソコン部の連中に言わせると全くの新品状態となったOSの効率の良さ、破格だった。これが無料ダウンロードした結果だって?もう元の生活にゃ戻れんな。
「す、すげえ。サクサク動くな。俺もしよう」そう言ったのは拓梨。
結局、クラスメート全員OSの書き換えをして、いろいろ不要と判断されたアプリ、システムがデトックスされたスリムなスマホを手にしていた。
もはやオーバーホールやん。
その時、滑走路に中型のΔ型航空機が降りてきたのだが…、ジェットエンジンが存在しない…。プロペラも…ない。どうやって飛んできたんだろう。
周囲のみんなも頭に?が浮かんでいる。
「おやおや、疑問符だらけだね。エンジンもプロペラもないのにどうやって飛ぶのかって顔に書いてある」
「「「「「…どうやって飛んでいるのですか?」」」」」
「えっとね、簡単に言えば後部に小型D-D核融合炉が積んである。燃料は重水素だし、機内にある発電機を回して電気にしているんだ。機体の後方にスリットがあるだろ?そこから核融合炉の必須温度1億℃を利用して前に進んでいるんだ」
「「「「「…(唖然)」」」」」
確かにΔの後方中央よりに\\ //と並んでいる。これだけでこの機体が持ち上がるのはとんでもない熱量であるのは確かだ。その超高温度に耐えられる合金があるってことなんだけど、やっぱり宇宙の覇者からは技術遅れてるなぁ。
「「「核融合ってまだ実験段階だったような…」」」
と、一部の理系がその事に気づいて騒ぎ始めたところで、さらりとピングーさんは航空機への誘導を始めていた。
さらりと行われているため、熱心に議論をしている理系どもも歩きながら行っている。あっ、…こけた。将棋倒しのように理系どもが倒れかけ、ピングーさんに救助されてる。
「ちゃんと前を見て移動しましょう。…ね?」
「「「「はいっ!」」」」
エンジンが回る高い音もせず、プロペラの低い音もせず、ただただ無音でいつのまにか離陸した。離陸したのに気づいたのはフワッとした浮遊感があったからなんだけど、離陸するまでのガタガタが無い。俺あれ怖いんだよな…。
機内はというと、整然と席が並んでいなくて、ホテルのロビーのようにソファが並べられ、超高精細映像の流れる壁……、いやもはや機内にいると考えられないくらい実は屋根のある開放的な建物の中にいるかのような錯覚をしそうだ。
「いろいろ百面相していたけど、この世界のチャーター機はこんなものだよ。普通の航空機もここまで自由ではないけど、窮屈なエコノミークラスはない。それでいて値段が手頃。惑星に降りたら航空機に乗るのは一種のレジャー感覚でね、流石に旧タイプ、化学燃料式はほぼ見かけないけど、水素燃料式、空気式、そして核融合式が主流だよ」
「空気式ってなんですか?」理系どもの1人が声を上げる。
「ここでは空気エンジンとも呼ばれるけど、寒暖差で電気エネルギーを発生させてプロペラとか回して飛んでいる航空機のことだよ」
「「「「じ、実用化されてるんだ!」」」」
「実用化もなにも20年近く運用している実績はあるし、ハイウェイではその原理を応用して造ってるから人や物の動きが活発なんだよね。それによって個々の惑星の経済も活発さ」
「経済は好調なのに金余り状態なのですか?」
“聖女”益子谷がピングーさんに質問する。
「そこが問題なんだよね~。我々がいくら回収してブラックホールに叩き込んでも、時を跳躍して出てきちゃってるんだよね」
「「「「「は、はぁあああああっ!?」」」」」特に理系どもの声が大きい。
「ブラックホールの量子崩壊は事実だったのか!これは大ニュース!」
やんややんやとお祭り騒ぎの様相を呈する理系ども。何がなんやら分からないクラスメートと先生をほっといてわーわー議論をしている。
あんまりにもうるさいので位置をずらすことにした。幸いにしてこの機内は広さは教室縦に3つ分はあるから余裕である。
「なあ木谷根、あいつらが大騒ぎするほどの事実について分かったか?」
「分かるわけねーだろ、拓梨」
「だよなぁ」
「ブラックホールの量子崩壊ってのはね、ブラックホールがずっと存在するのではなく、いずれ消滅するということを証明した人がいたのよ。あくまで量子力学の基礎としてしか知らないけど」“聖女”益子谷はそう教えてくれた。
「「いよっ、さすが委員長!」」
「ここまで来ても調子がいいのね、あなたたち…」
「そうだったのか。ブラックホールって消滅するんだ。初めて知ったよ。教えてくれてありがとう、益子谷」石川先生は感動しきりだった。
「い、いえ、雑学程度に知っていただけですから…」照れ照れする益子谷。
「いやスゴいことだ。世の中にはそれすら知らないで過ごしているものも多いんだからな、俺を筆頭に」石川先生は褒め称えている。
「時を跳躍するというのはどうやって…?」
寡黙なる“勇者”龍郷は木谷根たちから少し離れた場所で呟く。
ピングーさんが龍郷に向かって説明する。
「それは量子の問題になるんだよね。量子はあくまでその場所にあるかないかわかんないけど、あるということを観測すればあるという特異な性質を持つんだ。よって、ブラックホールに呑み込まれた物質に存在すると思われる量子が、ブラックホールにない=外に逃げ出している、としたら」
「そうか、押し潰しているはずのブラックホールから逃げ出せるという証明になってしまう。外にあるという観測さえできれば」
「その通り。量子的な質量ずつブラックホールから脱出して、最終的に消滅するんだ。呑み込まれたはずの量子がすべて外にあることを観測したときはブラックホールの終焉を意味するって訳だ」
「なるほど。時を跳躍するのは?」
「ブラックホールは高重力だから時の流れが遅くなって、その後光速で抜け出すから少なくとも投下したときより未来になるよね。でもまれに過去へ跳んでいるのも確認している。超光速で量子が抜け出しているとしたらもっと大変なことだよ。それについてはまだ検証中だけど、超光速で航行することはできるよ」
その瞬間、全員の目がピングーに向いた。
声よりも速く、視線は音速を突破した。
「「「「「はぁああああっ!?超光速で飛べるっ!?」」」」」
「えっ?うん、そうだよ。実用レベルの研究段階で2隻建造しているけど、実際のところ実用に使える航路は多くない。ワープ・トンネルがその役割を果たしているから。余程の辺境から辺境へ飛ぶのでない限り」
「「「「「すっ、すげぇえええええっ!?」」」」」
俺らもだけど、理系どもの狂騒は著しかった。立て続けに衝撃事実がピングーさんに叩き込まれるので、もう騒ぐしかないのかもしれない。
「そういえば、あと5分で着くよ」
「飛び立ってからそんなに経ってないような気がしますけど」
石川先生が恐縮しながら言う。
「飛び立ってから?15分ぐらい経ったよ」
「えっ?たった20分?」
「そんなもんだよ。時速500kmぐらいしか出てないし」
「ぐらいって…。まあ、超光速に比べたら遅いけどなぁ」
「「「「「おおーっ!メガロポリスだぁー」」」」」
あの後俺達は、都市国家ビックバンの空港から空中ハイウェイを大型エアカー(バス型)に乗って、行政府に向かっていた。
大都市の中央に宇宙エレベーターが聳え立ち、色々細工が施されている変わった超高層ビル群を眺めているだけで充分に思えるほどだ。
「いやー、ポッカリと口を開けて静かなもんだ。他の惑星から来た連中はこうはいかないかな」
「そ、そうか。ところでこのバス無人運転なのか?」と先生は質問している。
「無人と言うか、仮想人格No.37602出てきて」
バスガイドさんがいるあたりに3D仮想ホログラフィーの執事姿の人間が出現した。20~30代くらいの口髭をたくわえたイケメンだ。
「「「きゃーっ!すてき!」」」女子から黄色い声が上がる。
確かに風格のある雰囲気を醸し出している。こいつは絶対色々な意味で強い…。
『お呼びですか?ピングー様』
うっ、いい声。深いテノールの響きにちょっとドキッとした。
女子たちは…、気絶したのもいるようだ…。これは恐ろしい…。
「いやー、この後の予定のことだけど、この装飾いる?」
『要りますとも。ここは商業都市ですよ、ピングー様にとっては端金でしょう』
「そうだけど、まあいっか。グループ分けする予定だから、君とあと3人分用意しておいてくれ」
『了解です、ピングー様』
結局、何の確認がされたのかさっぱり分からない。そんな面々に仮想人格…えーっと、仮想イケメンが話し始めた。
『さて皆様、まもなく行政府の入国管理センターに到着いたしますが、このバスから降りてすぐ個室状のブースがございます。そこでは利き手とは逆の手の甲を上に向けてください。鍵が開く音がしたら終了です』
「「「「「えっ………、それで終わりっ!?」」」」」
『ええ。隔離検疫の時点で済んでいますし、滞在者IDをナノマシン塗布すればいいだけです。手の甲を向けたら様々な施設に入れますよ。どうもお金はピングー様持ちのようですし』
「そのあとはこの国の常識と地理を1時間弱学んでもらって、5人ぐらいのグループ分けしてそれぞれ専属の案内人をつける予定だ。案内人たちは彼を実体化したようなバイオロイドだよ。動き滑らかな人間のような見た目の生体ロボットと思ってくれていい」
「「「「「…………(唖然)」」」」」
それから1分もしないうちに、山のように5階建てのブロックを雑に積み上げたような形状をした超高層ビルの30階付近にエアカーが進入していく。
たくさんの乗り場があるバスターミナルにしか見えない。これが入管センター?
『では皆様、後ほど実体化した状態で逢いましょう。出口が開きます。足元に気を付けてお進みください』
エアカーの扉が開く。
ピングーさんが伸びをしながらエアカーを降りていった。
石川先生を筆頭にまとまっておっかなびっくり降りる俺たち。
キョロキョロあたりを見渡す。俺たち以外に生き物の気配がしない。
けど、なにか至近から監視されている視線を感じて落ち着かない。
そんな俺たちの様子にピングーさんがあきれた感じで声をかけてきた。
「そんなに怯えなくても捕って食ったりしないよ。ここ行政府だから監視設備が存在するのは普通だし、当たり前だよ。もし危ない奴らだったら降りた時点で捕まってるから。そんなことよりさっさと終わらせて自由時間を増やそうよ」
そんな言葉をかけられた俺たちは、石川先生を先頭に押していきながらずらりと遠くまで並ぶ個室状のブースへと歩みを進めるのだった。
3へ続く。
お読みいただきありがとうございます。
量子論とか出てきていましたけど、あくまで宇宙物理学入門書を読んで噛み砕いた数式がさっぱりわからない文系作者の認識です。そういうもんだと思っていただいて構いません。
次話は幕間ではなく本編の続きの予定ですが、また更新が遅れることにご容赦ください。
ありがとうございました。