幕間 勇者たちの未知なる日々 1
遅くなりました。
拙い本作を読んでくださった方、ブックマークしてくださった方、本当にありがとうございます。
時は、召喚されし勇者たちがとんでもない速度で連れてこられてから1週間経った頃。前話に繋がる話も出てくるかも?
〈木谷根side〉
ある神のいたずらで召喚されてしまった俺らは、コミュウ連邦副首都であるグロリア星系第2惑星ビックバンに連れてこられた。
それも、95億光年ものとんでもない距離を5時間半で到着できるおそろしい技術を持つ大国に。
というか、95億光年って、光の速度で俺らの住んでた地球の歴史46億年の2倍以上離れてんだよな…。
ありえない…。光速って、1秒で地球を7周半するらしいけど…。
普通でも1泊2日、約30時間ぐらいで95億光年先に到達すると勇者部の課長さんが言ってたが…。
どれだけ未来の国に来て、なんで時代錯誤な召喚されちゃったんだろう…、俺たち。
まあ、それはともかく。
召喚されてから1週間が経過したものの、今いる場所は、リアル・ファンタジー研究所本部の勇者部だ。
要は、召喚されたり巻き込まれちゃった人間などを保護し、元の世界に送還もしくはこちらの世界での生活の相談や補助など、主にリアル世界で生きる術を相談できるところだ。
俺らも召喚されちゃった勇者と巻き込まれた大多数で構成される集団だから、勇者部のお世話になる。ここで使えるお金の入ったカードも貰ったし。
ちなみに、魔王なんかは魔王部に、召喚陣なんかは技術部にそれぞれ委ねているらしい。
実際、俺らのあとに魔王らが土地ごと召喚されて、魔王部に襲撃されていた。
あのあと、どうなったんだろう…。
史上最悪なメテオストライクやらミサイル流星群とか聞いたけど…。
「彼らなら生きてるわよ」
勇者部の「始まりの街」にある勇者ギルドのブロンド美人の受付員カロリーナ・マクスウェルさんが言った。
ここの「始まりの街」は異世界から街ごとここに転移したらしい。
それに伴って、この街に勇者部が設立され、半分テーマパーク化しているとのこと。
街ごと転移って、この前の魔王城もそうだけど、実に小説よりも奇なりだなぁ。
おっと、返事しなきゃ。
「生きているんですか。あの惨劇の末に」
「そう。特殊魔法『ライフ・シールド』があるからね」
「ん?『ライフ・シールド』?」
「そう。死亡することを防ぐ類いのもので、死に至るような重症はないわ。その魔法があれば」
「アリですか?それ」
「ありもなにも普通に使われているわ。建設現場にしろ、宇宙救護にしろ」
「すでに普遍化しているんですね」
「いやー、だってこの大連合、人手不足なのよ。死ぬなんてもったいない。そういう理由で作られたの、その魔法」
「とんでもなく技術が進んでいるのに、人手不足って…」
「まあそんなわけで、彼ら、総勢47万6千弱の大軍勢は一路、魔王部管区研究所に送られたわ。ここと同じく主要ライン上のハテノハテ連星にね」
「へぇー」
カロリーナさんとの会話を楽しんでいると無粋な声が入ってきた。
「そんなことより木谷根!ここまるで小説の中のようだぜ!」
たしかに、勇者ギルドというだけあって、併設されたギルド直営の酒場、うちの寡黙でオタクな石川先生がうろうろしている、や掲示板に貼られた依頼票なんかはまさにそれだ。
ただ、半分テーマパークなので、酒場にはノンアルコール飲料が多めだし、依頼票のほとんどはニセモノだ。
依頼票の中にある『デモンクエスト』だけはテーマパークの筋書き通りに勇者役となって、魔王城(本物)に行って、魔王(元魔王の役者)と戦って倒す、疑似体験が楽しめる。
おや、早速『クエスト』に向かうクラスメートの姿がある。
つか、勇者認定された寡黙なる秀才龍郷と簡易ステータス検査キットで聖女と判明した学級委員長益子谷のコンビかよっ!
最強じゃねえかっ!
ちなみに、俺は簡易ステータス検査キットで判明した職業は…、鍛冶屋だった。泣くる。拓梨は、豪剣士だった。羨ましい。
なお、簡易ステータス検査キットは、転移した「始まりの街」にあった冒険者ギルドの鑑定水晶をRF研の技術部が解析し、国営の魔術師組織を有するミュウ連邦魔術庁とペンギン連邦魔術省、コミュウ連邦魔術省によってあくまで娯楽性溢れた簡易キットとして開発されたらしい。
本職の魔術師が使用する詳細な検査キットは各々の機関で20台ずつ厳重に保管されているとのこと。この本部研究所にも5台あるそうだ。
それはともかく、ギルドの外はどうなのかというと、転移したこともあって、見事なヨーロッパの古い町並みなのだが…。
な、なんでコンビニみたいなガラス張りの雑貨屋があって、ガラスに特売品のCMが流れてるんだろう…。
「そりゃあ、テーマパークだからな。それに、これガラスじゃないぞ。ナノ単位の薄膜状の有機ELを張り付けている光不透過技術を使ったアクリル板だ」
と言う、通りがかりのおじさん。
妙なところにとんでもない技術使ってる~…。
ナノ単位の有機ELって、アリですか?
不透過なアクリル板って、店から見ればカベ?
「んなことあるかい!不透過というのは、有機ELの映像が店の中では見えないよう屈折率を変えるということだ。実際に入ってみろ」
店の中に押し込まれた。
たしかに、店の中からはあのCMは見えない。不思議だな、っと考えに耽っていると…、
「おや店長、お早いお帰りで。お客さんを連れてきたのですか?」
「あー、いやー、そのー、なんだ、外のCMを見て非常に不思議がっていたので、説明がてら店に入れたわけだ」
「なるほど。よその土地の人には珍しいかもしれませんね」
「そうだろう?君」
「住んでいる星にはない技術だからすごいな、と思いまして」
「ふむふむ。よい心がけです。ついでに店内も見ていってください」
「分かりました」
いくつか気になるものを見繕い、ふと思った。カードの残高幾らあったっけ?
見たことのない珍しいものを飲み食いしていたから、金銭感覚が麻痺しちゃっていた。
「どうされました?」
「残高いくらだったかなぁ、と」
「ここで見ることができますよ」
「お願いします」
「今回の買い物でギリギリでしたね。入金をおすすめします」
「危なかったな。助かったよ、ありがとう」
「いいえこちらこそ。またのご来店お待ちしております」
雑貨屋を出て勇者ギルドに戻る。
そこにペンギンがいた。ペンギンに詳しい奴ならこう言うだろう。
『南極でもないのになぜアデリーペンギンが!?』
「木谷根、言いたいことはわかるが大声で叫ぶのは失礼だぞ」と石川先生。
「あっ…、声に出ていました。…すみません」
「俺もそう思ったからな。心の中で」
「やっぱりそうなるよね、普通。変身して来るべきだったかなぁ」
「「「「「…。しゃ、しゃべったあああ!?」」」」」
「(怒りを覚えながら)なかなか失礼な召喚されし者たちだねぇ」
「ええ、まったく。この方がこの大連合、コミュウ連邦上層部の1人、ピングーさんだと知っても失礼を働くことができるかしら…」呆れ顔のカロリーナさん。
「「「「「お、大物に…。し、失礼いたしました!」」」」」
「今回は許してあげるけど、以後は慎むように」
「「「「「「ははーっ!」」」」」」(なぜかカロリーナさんも混ざってた)
場所を移し、勇者部の1543会議室へ。
さすがに人の目を気にしての移動だ。
「さて、どういう用件で来られたのですか?」と石川先生。
「いや、うちの全宇宙国家データベースと照合するための詳細な情報を直に聞きたいと思って」
…ん?何かとんでもない情報がさらりと発せられた気がする。
全宇宙国家データベース?…えっ!?
周囲のみんなの頭の上に?がたくさん浮かんでいる。
「そうなるのも仕方ない…。正直我々ペンギン勢、リーファ勢でさえ認識が追い付かないよ。元々先宇宙民族のミュウ種族が作ったものだからね」
「「「「「「せ、先宇宙民族!?どうやって!?」」」」」」
「コミュウから聞いたところによると、先宇宙が縮小していくことが判明したので、10億年ほど未来へ行くタイムマシンを作って避難したらしい。避難した1億ものミュウ種族のうち生き残れたのが3割弱。インフレーション期に巻き込まれたり、宇宙と宇宙の間の『無』に跳んで死んだものが多いらしいよ」
そこまでして生き残りたかったのか…。よくやる…。
「そんな昔話は横に置いとくとして、君たちの星って恒星間国家とか銀河間国家だったりした?」
全員の視線が先生に向き、先生は慌てた。
「な、お、お前ら…。(がくっ)はぁー、しょうがない。…いや、惑星上で国家が乱立する星系国家ですらなかった」
「なるほどなるほど。それならこれらなのかな…」
なんか当てがあったらしい。全宇宙からピックアップするって、まさしく星を掴むような話である。
「具体的にその惑星で覇権を振るっている代表的な国名をあげたら、絞り込めそう」
「具体的に?アメルーシア連邦、UASAとか?」と拓梨。
「ゲルマニア共和国、漢国、そして我ら日本国」と木谷根。
「あったあった。数年前の情報では確かにあるらしい(これで座標の正しさが実証された。さーて、忙しくなるぞ)」
この発言で、全宇宙国家データベースの緻密な把握に戦慄し、鳥肌がたった。
「そ、それで、我々の惑星はどこにあったというんですか?」攻める先生。
「隣の宇宙だよ。よく力残ってたよね、あの神」
「「「「「と、隣の宇宙っ!?!?帰られるんですか!?」」」」」
「うーん、それは、技術的なものをクリアしないと無理かなぁ。期待しないでいてほしい。それはそれとして、隔離検疫期間も終了したし、君たちの滞在者IDなどを取りに行かないといけないから研究所の専用滑走路に行こうか。そのついでとはなんだけど高級料理とか食いにいかない?おごるよ」
「「「「「………、け、検疫期間だったのっ!?」」」」」
「当然だろ。余計な病原菌が入ってくるのは困るし、混ざって凶悪化されても面倒だし。構成する細菌・ウィルス体系がこちらと大差ないと判明したから期間終了したのだよ」
「「「「「な、納得です」」」」」
「滞在者IDも必要だぞ。交通機関に乗るにしろ、研究所内はともかく外で買い物するにせよ、IDがないと星系警察沙汰になるから。…いや、この星は副首都だから連邦警察が出張ってくるか。どちらにしろ面倒だ」
「「「「「「ヒ、ヒイイィィィ…、ごかんべんをっ」」」」」」
ピングーさんはにこやかに微笑んでいるように見えた…。
ペンギンだから顔の表情判るわけねーんだよっ!
「おっと、あと10分でチャーター機が研究所の専用滑走路に来るので移動しよう」
「「「「タクシー扱いのチャーター機…、やべえ…」」」」
勇者部の1543会議室を出てぞろぞろ歩く一行。
石川先生がピングーさんに質問を投げ掛けている。
「これから行く場所ってどういうところなんだ?」
「我々コミュウ連邦副首都である都市国家ビックバン。経済の中枢かつ交通の要衝。メガロポリスって言ったほうが通じるのかな?君たちが宇宙船から降りてきた街だよ」
「ああ!あの大都市か。確かにメガロポリスにふさわしい」
「その街の連邦行政府で滞在者IDとちょっとした常識と地理を学んでもらうよ。1時間あれば十分だ。そのあと自由行動にして、夕方ごちそうするよ」
「ちょっとした修学旅行のような気分になれそうだな」
「アホ神のせいで連れてこられた以上、責任持ってこの国を満喫して帰っていただければと思ってね」
「小説では帰還できないことが多いのにいろいろしてくださって感謝する」
「ただね、君たちの技術レベルからしたらぶっ飛んだのが多いので、逆に影響されて遅れてるなとか思ってしまうかもしれないけど」
「いやあ、今更ですよ。95億光年を5時間半で到着するぶっ飛びすぎたものから始まってますし。宙に浮く仮想モニターすら相当ぶっ飛んでますよ」
「まあそうだよね。召喚された時点で見ちゃってるものね。今更かぁ、これからもっと最先端技術が続々出現すると思うからどんどん影響されてってください」
「…も、もっと出現しちゃうのかよ。少しは隠せよ…」
「隠したいものはもちろん隠してるし、競争している分野もある。あくまで表に出るのは特許まで取り終わったものが多いから」
「こ、こわぁ…」
2へ続く。
お読みいただきありがとうございます。
幕間です…が、中盤を改稿した結果延びていってしまいました。続きます。
相も変わらず不定期更新ではありますが、気長に待っていただければ嬉しいです。