9.嫁に行きたくない!!
唐突に幼少期編に突入します。
25歳の時、過労死した。多分、過労死だったんだろうと思う。当時、残業、徹夜、休出、もちろん正当な対価はない。そんな過酷な仕事の環境の元、ある日、俺は会社で倒れた。それ以来の記憶がない、この事を思い出したのは、俺様が7歳の時だ。前世を思い出した時、俺様は前世での生き方を後悔した。腕っぷしは強く、学生時代は粋がっていた。だが、社会人になると、逆転した。俺様がいじめていた奴らは皆、幸せになり、結婚したり、大企業に就職したり・・・
俺様はいいところが、全く無い、一生懸命努力して這い上がろうとしたけど、かえって、会社に利用されているだけ・・・それに気が付いて、より愕然とした
あの時、記憶がなくなっていく時・・・こんな死に方いやじゃーーーー・・・と思った
という前世の記憶を今、ようやく思い出した。頭がずきずきする。俺様は父であるケーニスマルク侯爵に連れられて、王城の庭園を、この国の第三王子に案内してもらっていた。俺様、これまで、すごい我がままお嬢様だった。それで、かっこいい王子様に夢中になり、散々、我がままを言って、しまいに木に登って、落ちた。木に登ったりしたのは前世の記憶の断片が残っていたからだろうか? 俺様は田舎育ちで、野生児だった
落ちただけなら良かったのだが、運悪く、いや、むしろ良かったのかもしれない。石に頭をぶつけた。幸い、宮廷には聖女様がいて、治癒の魔法をかけてもらった。傷はもう完治している。しかし、俺様は寝込んだ。記憶がぐちゃぐちゃになった。それは前世の記憶が脳に蘇ってきた為だろうか? 激しい痛みと共に、1週間寝込んだ。そして、目を覚ますと、前世の25年分の記憶を全て思い出した
記憶が蘇ると、恥ずかしくなった。高慢ちきな俺様は使用人や周りの人の事など何も考えず、迷惑をかけてばかりだった。迷惑をかけている事に気が付いていなかった。気が付いたのは自分に25歳の人格が宿ったからだ
ん? まてよ。何か変だぞ? 俺様は気が付いた。前世の記憶以外の今世の記憶、7年間の記憶だと、俺様は女の子だ・・・侯爵家の令嬢なのだ・・・何故に性別が変わる?・・・
俺様は思わず呟いた
「なんで俺様、女の子になっとんの? どうなっとんの! 日本に帰りたい、ポテチ食いたい! ラーメン食いてー!」
「お嬢様!」
しまった。直ぐ近くに侍女のアリシアがいた。最近仕える様なった、9歳の遠縁の親戚だ。やばい、いきなり、俺様って、考えなく言ってしまった。頭を石にぶつけたばかりだから、ちょっと面倒になりそうだ
「お嬢様、どうされたんですか? 今、お、俺様と言われた様な・・・・・・」
「いゃゃゃゃゃや、私、ちょっと、間違えたんだ。ごめんね。心配かけたかな?」
「ポテチは好物なんですか?」
俺様は慌てて、一人称を私に変更した。だが、今、とても重要なキーワードが入っていたぞ! 「ポテチは好物なんですか?」ポテチはこの世界には無いぞ! 考えられる事はただ一つ!
「あのう、鎌倉って行った事あります?」
「ありますよ。紫陽花が綺麗ですから!」
アリシアは満面の笑みで俺様に微笑みかけた。俺様だけじゃなかったんだ! 俺様は直球で聞いた。アリシアに!
「アリシアさんは日本からの転生者なんですか?」
「はい、お嬢様、私は日本からの転生者です。それにしても、以前は全くそんな風には見えなかったのですが、どうされたんですか?」
「うーん、頭打ってから、記憶がぐちゃぐちゃになって、前世の記憶が蘇ったんだ」
「そういう事でしたか、私は生まれた時から徐々に育つにつれて、鮮明に思い出してきましたから」
「多少、違うもんだね」
「それはそうと、一人称!」
「う、うん、わかってる、急にやると、みんなびっくりだよな?」
「ところで、お嬢様は平成何年からいらしたんですか?」
「平成、平成は終わったよ。令和2年からだよ」
「れ、令和?」
あ! 俺様は思った。もしかして、アリシアは令和になる前に死んで、転生したんじゃ?
「西暦2019年に令和元年に元号が変わったんだ。変わる事は知らなかった?」
大きく時系列が異なる場合もある、念のため、確認する。
「私は西暦2018年、平成30年の日本で死んだみたいです。令和になったんですね。元号」
「うん、そうだよ、でも嬉しいよ。こんな処で、仲間に会えたみたいだ」
「ポテチ食べたいですよね・・・」
「ラーメンも食べたい・・・」
こうして、俺様は一生の伴侶を得た。おそらく彼女とは一生の付き合いになるだろう。同じ日本人同士、心強い、それにアリシア可愛いだ。超俺様好み!
しかし、そんな最中、第三王子がお見舞いに来てしまった。かっこいい王子様というより、可愛い男の子だった。だが、将来、絶対イケメンを約束されている顔だ。俺様には殺意が湧いた。俺様の25年の前世の記憶が奴は敵だと、告げていた 。
俺様の混乱は未だ続いていたが、とにかく、今は王子への対応に迫られた。何故って? 我儘お嬢様の時はともかく、今は前世の25歳の経験がある。権力者を怒らせたらどうなるか位、大学落第ぎりぎり卒業の俺様でさえ、わかるぜ。
「本当に申し訳ございませんでした。1週間も寝込まれたそうで・・・・・・」
「俺様、全然へーきだから気にすんなよ!」
「え?・・・・・・」
なんだ、この沈黙は? そっか、俺様、こないだまで、自分の事、私って言ってたから、びっくりしたんだ。いけね。さっきアリシアさんに注意されたばかりだったのに。でも、俺様は断固、俺様だ。これはもう、譲れん、譲れないから、面接でも苦労したんだからな。あの苦労を無駄にしたくない。
「あっ!しゃべり方なら、気にすんなよ。これが本来の俺様だ。この間はとりつくろっていただけだから」
王子は唖然とするが、なおもくいさがってきた。
「いえ、私が周りにもう少し気を配っていましたら、こんな事には・・・聖女様がいなかったら、今頃、あなたに大きな傷を負わせてしまった処です。大変申し訳ございません」
「いや、俺様が悪いじゃん。俺様がテンション上がりすぎて、勝手に木に登って落ちたんだから、俺様が一方的に悪いじゃん。ホントに気にすんなよ。むしろ、あんな大騒ぎをさせちまって、こちらの方が詫びと礼を入れにいくべきだぜ!」
王子はずいぶんとビックリした顔をしている。まあ、このしゃべり方のお嬢様は普通いなだろうからな。でも、俺様、ここは一切、妥協する気はない。女の子しゃべり? 嫌だ!気持ち悪いぃぃぃいいい。
「いえ、それでは私の気がすみません。私はあなたを守れなかった。私の気がすみません」
「いや、気が済まなくても、別にどうしようもできないだろ?」
「結婚してください・・・」
「はぁ?」
今、この王子何て言ったの? なんか結婚してくれって言った様な気がする? いや、いや、それは無理だから。俺様、男だから・・・
俺様、今頃気が付いた。自分は生物学上女であり、この世界の貴族の令嬢、この王子様の求婚、もしかして、まじなやつかもしれん。冷や汗がだらだら出てきた。
「き、気の迷いだよな?」
「私は真剣です。私には責任があります」
「・・・・・・」
俺様は考えた。この王子は責任感は強いが、所詮、子供だ。多分、深い考えは無いのだろう。それなら、論破すればいい 。
「俺様の事を好きなのか?」
王子は顔を真っ赤にする。あれ? まさかマジ好きなの? キモいんだけど。無理! 無理! 無理!なんだけど!
「い、いえ、私は責任上」
「責任感なんかで、嫁に行ってたまるか!!」
俺様は一喝した。王子はビクッと震えた。この王子、マジで俺様に惚れたのかも。だから、好きだと言えないんだ。おそらく、まだ人に好きだと言った事がないんだろう。当然だ、拒絶されたら怖いんもんな。初恋って、そんなもんだ。
「殿下、それは、国王陛下とお話になった上での、お嬢様への求婚なのでしょうか?」
アリシアさんが王子へ質問する。多分俺様へのフォローだ。多分、この王子、突然、なりゆきで求婚したんだろう。7歳の子供が一人で、求婚にこないよな。普通。
「父上にはまだ・・・」
「殿下、殿下はおひとりの御身ではございません。一度、陛下とご相談された方が宜しいかと思われます」
アリシアさん有能!!
「た、大変、申し訳ございませんでした。私は自分の気持ちばかり早ってしまって、唐突に、本当に大変申し訳ございませんでした。一度、帰り、父と相談します」
「いや、気にすんなって!」
俺様は気軽にそう言った。だが、この王子、セーデルマンデル公カール・フィリップはいたく、俺様を気に入ってしまった様だ。この時、俺様は自分のストーカー第一号を製造した事に全く気が付いていなかった。
王子はあたふたと帰って行った。そして、アリシアさんがぽつりと言った。
「多分、正式な求婚が直ぐにありますわね。おめでとうございます。お嬢様」
アリシアさんがそう言った瞬間に俺様の背筋をみみずか何かがぞぞぞぞぞzzzzzzっと這った様な感触がした。
「アリシアさん、マジ?」
「マジですよ。お嬢様はこの国の有力な貴族のご令嬢ですよ。そして、先ほどの王子様は恋におちましてよ。誰がどう考えても良い縁談ですよ」
「やめれぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーー」
「はい?」
「俺様は嫁、いき”た”く”な”-----い」
アリシアさんは???という顔で笑っていた。
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