8.アルベルドの過去
勇者アルベルトは悲しい過去を背負っています。愛しいクリスと結ばれたなら・・・でもそんなに世の中甘く無いのです。
僕はアルベルト・ベルナドッテ。7歳。僕のお母さんはとてもいいお母さんで、とても僕を可愛がってくれた。でも、お母さんは死んでしまった。病気になって・・・不治の病だった。治療にはたくさんお金がかかる事がわかって、とても払えるお金ではなかった。まだ、若かったお母さんが死ぬ間際に一枚の手紙を僕に渡した。
「これを郵便ポストに投函してきて」
それが母の最期の言葉になった。手紙を郵便ポストに入れて来て、帰ると、お母さんは帰らぬ人となっていた。たくさん泣いた。そして・・・
母をどうやって弔えばいいのか?
そして、僕はこれからどうすればいいのだろうか?
「これから、僕はどうやって生きていこうかな?」
7歳の僕が一人で生きていけない事位は分かった。どうすればいいのか?お母さんのお葬式もできそうにない。大好きなお母さん、でもぼくはお葬式さえしてあげられない。そうして部屋にたたずんでいる内に3日間経った
「お腹空いた・・・」
3日間、何も食べてなかった。辛うじてお水だけはあったけど、何時まで生きていられるだろうか?
意識が朦朧としてきた時、馬車の音が聞こえた。馬車なんて自分に関係がある筈がない。そう思っていた。しかし、馬車の音は僕達のアパルトメントの前で止まった
そして、誰かが来た。それがお母さんとあのアパルトメルトの最期の記憶だ
目が覚めるとお屋敷の小部屋にいた。みすぼらしい小部屋。だけど、僕は生きている
「目が覚めたの?」
そう言って声をかけてくれたのは、年配のメイド服を着た人だった
「誰?」
「このお屋敷のメイドよ。今、食事を用意するから」
そういって、そのおばさんは食事を用意してくれた。スープだった。野菜がたくさん入っていて、美味しかった
「美味しい!」
「良かったわね。でも、まだたくさん食べては駄目よ。長い間食べてなかったんでしょ?」
「う、うん」
おばさんはいい人だった。そして、色々教えてくれた
僕はこの家のベルナドッテ男爵の子供らしい。お母さんと男爵の間に生まれたけど、男爵には奥さんや妾もきちんといた。では、何故僕のお母さんは妾ではなかったのか? おばさんは答えてくれなかった。でも、しばらくしてわかった。
「娼婦の子! 汚らわしい!」
この家の正妻、奥様からそう言われた。僕のお母さんは娼婦だった。その頃、僕には娼婦がどういうものかはわからなかった。でも、みじめなものであるという事は分かった。そして、本当に意味が解ってきた時、余計みじめだった。大好きなお母さん。でも、僕はそれでも決してお母さんを嫌いになんてなれなかった。だれがみじめに思っても、僕にとっては誇らしいお母さんなんだ。そう思った
おばさんはよくしてくれた、だけど、わかった、おばさんはみんなの目を盗んで、僕の世話をしてくれる。僕はこの家の家族とは一緒にご飯を食べれなかった。使用人とも食べる事は許されなかった。僕はいない者として扱われていた。ただ、おばさんだけが、僕にかまってくれた。僕の食事は残飯だった。家の人や使用人の食事の後の残飯が僕の食事。だけど、おばさんが自分の分をこっそり分けてくれた
「子供はたくさん食べないと駄目よ」
「おばさん、ありがとう・・・」
僕はおばさんに聞きたい事があった
「おばさんはどうして僕にこんなに優しいの?」
「私には子供がいないの。子供ができない体で、主人からは離縁されたの。でも、私は子供が大好き・・・あなたはとてもかわいいわ。私に、もし、子供が生まれてたら、あなたみたいな可愛い子供だったのかしら・・・」
「おばさん・・・」
でも、おばさんはそれほど長い間、僕をかまってくれる事はできなくなった
「マリア、あなた! 勝手に何をしてるの?」
「奥様申し訳ございません。この子にはもう少し、栄養があるものを食べさせてあげたくて」
「こんな薄汚い子供に何をやっているの! あなたは首よ!」
「奥様、それだけはご容赦を!」
「明日、ただちにこの家を出ていきなさい!」
「・・・・・・」
おばさんは無言になった。もう、取り返しがつかないのだろう
おばさんは僕に謝った。
「ごめんね、おばさん、これからあなたの面倒をみれない。ごめんね」
「そんな、おばさん。僕の為にこんな事なって、ごめんなさい」
「いいのよ。私はどこかで、また、なんとかやっていくわ。慣れているから・・・」
それ以来、僕の食事はひどいものになった。そして、たまに部屋から出ると、家の兄弟達にいじめられた。僕は段々部屋から外へはでかけなくなった。見つかると罵声を浴びされるからだ
そして、あの日、僕に、とんでも無い幸運がって待っていた
珍しく、部屋を出て、中庭に行った。前から気になっていたんだ。時々、中庭には子猫が迷いこんでくる。可愛い子猫だった。僕は、その子猫を抱きしめたかった。そして幸い、誰にも見つからず、中庭に出れた。だが子猫の姿が見つからない。さっきまでいた筈なんだけど・・・・・・
にゃぁあああああああ
可愛い子猫の声が聞こえた。近くの木の上からだった。
そうか! 木に登ったんだ。僕は木の上を見上げた。上を向くのは、どれだけ久しぶりだったろうか?
ゴソゴソゴソゴソ
木の上から物音が聞こえる。子猫が動く音だろう。僕は子猫の姿を探そうと目を凝らした。すると・・・
「あっ! 止めて、止めて! そんなところ!」
!?
誰か、女の子の声が聞こえた。聞いたことの無い声だ。どういう事だ。僕は周りをキョロキョロしてしまった。まさか、声の主が木の上にいるとは思えなかったからだ
バキッ!
木が折れる様な音がした。そして
「あっ!ちょっと、待てって、駄目ら、駄目ってぇぇぇぇぇ!」
音と、声と同時にそれは落ちてきた。僕の上に・・・・・・
どすん・・・
「い、痛い・・・」
「すまん。すまん。こいつ、急に変な処舐めるから、つい」
僕の上には女の子が乗っていた・・・金髪の長い髪、赤い眼、整った顔立ち。まるで天使がこの世に顕現されたかの様に愛らしい女の子だった
「ご、ごめん。今、どくから」
「う、うん。お願いします」
女の子は子猫を抱いていた。一体どこの子だろう。仮にも貴族の屋敷に迷いこむなんて、大丈夫かな?
女の子は僕を見つけると笑顔を僕に返した。そして、
「子猫好きなのか?」
「うん、好きだよ」
「じゃあ、俺様達、友達だな!」
「と、友達?」
僕には友達が一人もいなかった、誰も僕を相手にしてくれない
「本当にいいの?」
「当たり前だろ、猫好きなんだろ? じゃ、俺様と一緒だ。仲間だ!」
僕は嬉しかった。初めての友達。それもこんなに可愛い友達!
僕はこの子に夢中になった。彼女はとても魅力的だった。僕をいつもどこかに連れていってくれた。それまで、部屋の中しか知らなかった僕に新しい世界を与えてくれた
「じゃあ、今日はチャンバラで遊ぼうな!」
「うん、今日は負けないよ!」
僕達は屋敷ではなく、街中で遊んだ。屋敷だと、兄弟達に見つかってしまう。それを話したら、彼女は
「じゃ、屋敷の外で遊んでやるぜ!」
「そっか、そうすれば、いいね!」
「おう!」
でも、この女の子は不思議だった。自分の事を俺様と言う。とても可愛い女の子なのに・・・それに、お転婆で、僕なんかより、男らしい。そのくせ、身なりはとても良く、どこかの令嬢だろうという事は察しはついた
彼女はクリスティーナという名前だった。クリスと呼べと言われた。一度、クリスちゃんと呼んだら、怒られた。それは許さんと言われた。何故駄目なのかはわからないけど、クリスの命令は僕には絶対だった。クリスが僕の世界の全てだったからだ
ある日、彼女は本を貸してくれた
「これ、アルが興味持っていた魔法の本じゃないかと思うんだけど?」
「えっ! これって!」
それは、多分魔導書だった。装飾でおそらくそうじゃないかと思った。五芒星をあしらった紋章が皮の表紙に刻まれている。でも・・・
「クリス、ありがとう。でも、僕、文字が読めないんだ・・・」
彼女は元々大きな目を更に大きく見開いた
「なんで、アルは男爵様の子供なんだろ? 普通、もう、文字位、勉強させられているだろ?」
「僕はいらない子なんだ・・・」
クリスは察した様だ。僕が貴族とは名ばかりの人間な事に・・・そして、僕は恐れた。彼女は多分貴族だ。だから、僕から離れて行ってしまうんじゃないかと・・・
「じゃ、俺様が文字を教えてやる」
「えっ! いいの?」
僕は驚いた。クリスは僕を見放したりしなかった。それどころか、文字を教えてくれた。僕はめきめきと読み書きが上達して、クリスが貸してくれる本を読み漁った
僕のクリス。僕にとって、クリスは恐れながら、女神様にも匹敵する存在だった。そして、いつしか思う様になった。クリスを僕のお嫁さんにできたらいいな・・・と・・・
でも、それはかなわない夢な事がわかった
ある日、旦那様(家族からはお父さんをそう呼べと言われていた)から呼ばれてリビングに行った。家族、奥様や兄弟達が皆揃っていた
「なあ、アルベルト、お前は最近、女の子と良く、遊んでいるそうだが、本当か?」
「は、はい、その子はクリスといいます」
「やはりか! でかしたぞ! アルベルト!」
僕は意味がわからなかった。なんでクリスと遊んでいると、褒められるだ。この家に来て褒められた事なんて、一度もない。そもそも、旦那様から声をかけられた事もない
「お前がいつも遊んでいる女の子はな、ケーニスマルク家のご令嬢クリスティーナ様だ」
僕の胸に衝撃が走った。クリスが侯爵様のご令嬢! それは僕には絶望的な事だった。クリスは貴族のご令嬢だから、僕のお嫁さんになんてなってくれはしない、でも、どこかで期待している自分がいた。でも、クリスが大貴族、侯爵様のご令嬢だと知って、クリスが僕のお嫁さんになる事は絶対にない。それ位は僕にもわかった。身分が違いすぎる
「な、なんて事! あんた、そそうなんてしてないでしょうね!」
奥様は心配する。僕はもう、クリスとは遊べないのだろう。多分・・・だが、旦那様から出た言葉は意外なものだった
「今後も、かのご令嬢とお付き合いをしろ。でかしたぞ! かのケーニスマルク家にお近づきになるとはな! だが、分をわきまえろよ。身分が違う。そこは絶えず頭に入れろ。それと、お前にも教育を与える」
「なぜですの? あなた、こんな子に教育なんて、もったいない」
「何を言っているのだ。アルベルトは侯爵令嬢の友人なのだぞ。それは我が男爵家の栄誉! お前はこのベルナドッテ家に恥をかかせる気か?」
「い、いえ、そんなつもりは・・・」
皆、黙り込んだ。そして、旦那様は僕にウィンクした。
「今後、家庭教師を雇い、教育を受けてもらう。我が家の恥をさらす訳にはいかん。来年からは幼年学校にも行ってもらうぞ」
「あ、ありがとうございます」
僕が学校に行ける! クリス、君のおかげだ。僕は僕の幼馴染に感謝した。更に旦那様は
「来週から、週末、私が直々商売の教育をしよう。お前は跡取りにはなれない。だが、かのケーニスマルク家の知り合いに情けない人生を送せる訳にはいかん。お前は我が男爵家にとっても貴重な存在なのだ。我が家の為に尽力しろ。仮にも我が男爵家の血筋を引いておるのだ。商売の才能もある筈だ」
それから旦那様は毎週、週末僕と1時間、色々な事を教えてくれた。それは父親の愛情だと思った。家族の中で、唯一、僕をさげすんだ目でみないのは旦那様だけだから、そう思えた
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