7.唇セーフ
冷静に考えると、勇者とお近づきになるのは本当に怖い様に思えました。やはり、異世界転生は幼馴染に浮気されて、引きこもりになった時だけにしましょう!
助けてくれる人が現れた。アルだ。だが、少し遅かった。俺様は既に汚されていた。冒険者達の手によって・・・
アルベルトは突然現れて、俺を組み伏せていた冒険者アーネを吹っ飛ばした。何が起きたか良くわからない。そして、いつの間にか俺様は何か抱えていた。だが、それを気にしている処じゃない。
「あっ!あっ!」
俺様は見違える様にたくましくなったアルを見て・・・こんなのアルじゃねー! アルは俺様の後をいつもくっついて歩いていた弟みたいな存在。格下の存在なのだ。間違っても、こんな主人公みたいんじゃねぇ! ていうか、その力、俺様にくれ! って思った。
それに、なんだ! あの「ふっ」ってのは? そんなかっこいい仕草はな、主人公クラスにしか許されない事なんだぞ! やってはいけない事なんだぞ! それが似合うのはな、例えば、俺様だ!
なんで、モブ同然のアルが主人公みたいになってて、あまつさえ、「ふっ」なんだ! それに比べて俺様はあーちゃんを守る事さえできず。あんな恥ずかしい土下座までしたのに、ただ、ただ、こんな暴漢にされるがままなんて!
その間にアルは再び、暴漢を叩きのめした。二人は吹き飛び、一人は右脚を斬られ、もう一人は右腕を斬られていた。
「あっ! あっ!」
俺は気が付いた。さっきから何かを抱えている。それがなんであるのか?
「ひゃっ、ひゃぁ、ひゃぁ、手、手、手、手、手がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺様は アーネの右腕を必死に握りしめていた。一瞬に切り落とされた手が俺の上に落ち、あまりに一瞬で、いつの間にか手を握りしめている事に気が付かなかった
「ひっ、ひっ、ひぃぃぃぃぃいぃぃ!」
びびった。俺様、スプラッタは苦手なんだ。前世で、怖い映画を友人と見に行って、あまりの怖さにおののき、映画館から逃げ出した経験がある。友人からは爆笑され、映画館の中の人は怪しすぎる俺様の行動に、悲鳴があがった。あとで、映画館の人には怒られた
なんか、空気が変わった。どうやら、俺様の悲鳴が空気を変えてしまったらしい。自分でも情けないでち。
「貴様ら、生きてきた事を後悔させてやるからな!」
アルは更に怖い事を言った。俺様は足ががたがたとなり、歯もカチカチ言っている。怖すぎるアル!
「ア、アル、その、あんまり乱暴な事は・・・」
「そうは行くか!クリスがこんな目にあったんだぞ!」
「いや、俺様、あまり残酷なのは得意じゃなくて・・・」
「ふっ」
あ! 又、「ふっ」だ。むかつく、それは俺様がやりたい。なんで、アルがそれするんだよ!
「お前ら、運がいいな。聖女様は一思いに殺った方がいいとおっしゃる。痛みもなく、あの世にいかせてやろう!」
「ちょ、ちょ、ちょ、ひょっと、アル!」
「どうしたんだ?クリス?」
アルは不思議そうに聞く。いや、いつからアルはそんな平然と人を斬ったり、殺そうと思ったりできる様になったんだ? 昔は虫さえ殺せなかった癖に!
「あの、その、なんだ、その人たち、どうするの?」
「痛みを感じさせない様、一瞬で首を撥ねる!」
「ひっ! くっ、くっ、くっ、首いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・」
俺様はだから、スプラッタはだめなんだって、そんなの見たら、確実にちびる・・・
「いや、ちょっと、やりすぎじゃないかな? いや、今でも十分やりすぎだぜ・・・」
「クリス、君は優しいんだな。昔と変わらず・・・」
いや、単にスプラッタ見たくないだけだよ。よそでやるなら、全然へーき♡
「その、結局、酷い目にあったの俺様だけだし、もういいんじゃないかな? 後の事は知らないけど」
後の事とは、後で殺っといてね♡というつもりだった。
「クリス! 君はやはり聖女だ! 女神様よりのお告げが無くても僕にとって君は聖女様だ!」
「は、ははは、それはちょっと買い被りすげだぜ・・・アル」
アルは剣を鞘に戻すと、つかつかと俺様の傍に寄った。そして、
「クリス!」
「ひっひぃぃぃ。ちょ、ちょっとアル!」
何となく嫌な予感がした。案の定、アルは俺様を抱きしめた。素早くてとても逃げられなかった。凄く、嫌な予感しかしない。いや、助けてもらってこんな事言うのはなんだけど、早くどっか行ってくれないかな? アルは怖すぎて、近くにいるだけで、足が震える
「僕のクリス、助けられて良かった。やっぱり、君がいないと僕はダメなんだ」
「アル、それは言い過ぎだろ?そりゃ、幼馴染の友人としては嬉しい言葉だけど・・・・・ひいぃぃぃぃぃぃ」
アルは俺様を愛おしい人を見る様な目で見ている。やめろ、そんな目で俺様を見るな! だから、俺様、中の人、男だから、昔、言ったろ? 野郎に興味ないって! もうダメ、頭がおかしくなりそうだ! 止めて、止めて、止めて
そうは言ってもとりあえず、お礼はいわなきゃ。俺様は必至に怖いのを我慢して言った
「その、ありがとうな。アル。おかげで助かったよ」
「クリス!」
アルは急に俺の腰に左腕一本添えて、俺様を抱き寄せた。俺様、片手一本で持ち上がんの?
「君を一生守らせてくれ」
「やぁだあぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・」
「気が動転してるんだね?」
「ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーん」
「可哀そうに、気丈に振舞ってたんだね。もう、大丈夫だよ」
「らいりゅうふしゃないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!!!!」
アルは更に俺様に止めをさそうとした。俺様を更に抱き寄せ、顎をくいっと
ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああ、なんだ、その顎くいって! イケメン行動だぞ! 俺様もやってみたいぞ!
そして、アルは段々近づいてきた。まさか、まさか、まさか・・・
そのまさかの行動だった・・・
アルは俺様にキスするつもりだ。多分、俺様のおごりなんかではではなく、多分マジな奴だ。
「や、やめろっ……や、やべでくれ……それ以上はこないで」
「クリス、僕は本気なんだ。昔の弟みたいなアルじゃないんだ」
「ひぃっ、く、くるなぁ……こないでっ! やめ、やめで」
「お願いだ。クリス、僕に心を開いて欲しい」
「し、しだくない……せっかぐ、なんとかしのいだのにっ……。あ、あ……だれか、たすけてっ! たすけてくらひゃい!!」
まずい、俺様は怖くなった。アルが気を悪くして、逆上して俺様を殺そうとかしたら、どうしよう? 俺様は足は震え、歯はカタカタいっていた。そうだ、誤魔化せばいいんだ。何とか、誤魔化す方法を考えろ、俺様! ピンポ~ン!! 俺様にいい考えが浮かんだ。
「アル、違うんだ。まずは彼らの治療をしてあげようよ。このままじゃ、手や脚が腐って死しんじゃうぜ!」
「治療?」
アルは驚いた顔をした。それはそうだろう。俺様もこんな発想ができる事に驚いている。こんな奴ら腐って死んでしまえばいい。俺様の変なところ、いっぱい気持ち悪い感じで触って、気持ち悪いったら、ありゃしない。本当は死んじゃえと思ってる。だが、ここは俺様の唇を守る為に役に立ってもらおう。
「無理だよ。僕にはそんな高位の治癒魔法はないよ」
「・・・・・・」
困った。てっきり、簡単なのかと思った。だって、勇者って、剣も魔法もすごい筈だから・・・
「クリス様がリザレクションの魔法を使えば宜しいのではないでしょうか?」
今まで、見守っていたあーちゃんが口を開いた。あーちゃん有能! って、俺様がやんの?
「クリス様は聖女らっしゃいます。今は女神様の加護で、治癒魔法に関しては最高峰の力を発揮する筈です」
そういえば、俺様、聖女だったな。忘れてた。
「でも、俺様、呪文知らないよ」
「こんな事もあろうかと、ちゃんと用意がございます」
流石、真田さーんxあーちゃん〇!
「君は、君はどこまで優しいんだ! 僕は君の幼馴染であることを誇りに思うよ!」
「あ、一応、俺様、聖女だから。いろいろ考えるところもあって、は、はは」
俺様はお前から早く逃げたいよ。できれば過去に遡って、お前を抹殺したい!!
アルは3人と3人のパーツを集めて、うげー、既に気持ち悪い。ホント、俺様グロいの苦手なんだよ。これ、ホントにくっつくの? 治癒魔法って、接着材みたいだな・・・
「クリス様、これが治癒魔法集の薄い本です」
薄い本という処にちょっと、あーちゃんのシュールな冗談を感じた。
俺様は治癒魔法の最高峰、リザレクションを唱えた。
「おおおおおおぉ!俺の腕が!」
「俺の脚が!」
「腕が!」
三人は大喜びした。そして・・・
「「「大変申し訳ございませんでした!」」」
今度は三人が土下座した。
「ありがとうございました」
「俺は感動しました。こんな俺達に慈悲深い治癒を与えて頂いて」
「殺されても、仕方ない人間でした。でも、これから心を入れ替えます」
「「「ありがとうございました」」」
こうして、俺様はうまく、アルを誤魔化した。アルはタイミングを失して、迫ってこなかった。俺様の唇セーフ!!
俺様達は馬車で、ベルリンまで行き、その後はアルの引く馬車、いや、人力車で王都まで2日間で帰還した。
作者より:後日談だが、彼ら冒険者は聖女クリスティーナの事を喧伝し、ムー共和国にアトランティス王国の聖女、クリスティーナの名声を知らしめる事になる。むろん、それが原因で、クリスに求婚する奴がまた増える事はあらかじめ言っておこう。
あと、クリスの純潔は守られています。以外と気にする人いるかもしれないので、念のため。誰も気にしてなかったら恥ずかしいな・・・・・・
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