6.勇者アルベルト
勇者とか視点を変えると結構、友達にしたくない存在ですね。今回良くわかりました。
勇者アルベルトは国王に呼びされた。突然の招集、ただの招集である筈がない、教皇も同席する。一体、何事がおきたのだ?
アルベルトは、この1週間、勇者としての修練を受けていた。既に彼はこの国の騎士など及びもつかない戦士へと成長していた。
「国王陛下、教皇様、一体、何事でしょうか?」
「勇者アルベルトよ、お主も知っていよう。そなたの幼馴染であり、聖女でもある、クリスティーナ嬢が我が国を出奔した事を?」
「はい、知っております。僕が彼女を追い詰めてしまったのかもしれません・・・」
「そなたを見込んで、頼みがある」
「なんでしょうか?」
「聖女、クリスティーナ嬢をこの国に連れ戻してくれぬか?」
「僕にその様な大任を! 是非ともその役目をお与えください! この上無い光栄! それに僕が原因かもしれません。是非、汚名返上の機会を!」
「うむ、勇者アルベルト、そなたに聖女クリスティーナ穣の探索を依頼したい!! 宜しいですかな? 教皇殿?」
「無論、我が教会に異存はございません。勇者も聖女も我が教会に所属する者達、異存のある筈がございませぬ」
「では、勇者アルベルト、直ちにクリスティーナ穣を連れ戻してくれ! 期待しておるぞ!」
「は! 僕にお任せ下さい。クリスティーナの事なら、僕は何でも一番なのです」
アルベルトは出立の準備を整えると、クリスティナの実家に向かった。そして、ある事を依頼した。
「ケーニスマルク侯爵様、お久しぶりです」
「おお、アルベルト、本当にあのアルベルトなのか? いや、あいすまない。お余りに立派になった故、見違えてしまった。是非、娘を連れ戻してくれるのだな! 私は少々、あの子を我がままに育てすぎたらしい」
「いえ、ケーニスマルク侯爵様、僕が悪いのです。僕が突然、求婚して、クリスティーナ様を困らせてしまったのです。しかし、僕の彼女への恋は本物なのです。帝国の第四王子からの求婚がありながらの、僕の方こそ、申し訳ございません」
「いや、私はクリスティーナが幸せになってくれればよいのだ。幼馴染のそなたと結ばれるのが娘の一番の幸せなのかもしれん」
「お父さん!!!」
「有無、是非、娘の事は頼む」
作者より解説:勝手に話を進めていく、ケーニスマルク侯爵は本当に楽しいX困った〇貴族です。全く、クリスティーナの意見など聞いていません。
「そこで、クリスティーナ様を探索するにあたって。お願いがございます」
「なんじゃ。当家でできる事なら何でも協力するぞ。この国一の早馬か?それとも最速の馬車か?」
「いえ、クリスティーナ様のハンカチか何か? できれば洗濯をしていないものが必要です」
「クリスティーナのハンカチ?」
「はい、匂いを追いかけます」
ドドーン!
作者より解説:侯爵様ドン引きですが、勇者として目覚めたアルの身体能力は常人の数十倍で、嗅覚も犬並み、いや、クリスに関してはそれ以上になる。その為、クリスティーナのハンカチを所望したのです。なお、当初、下着にしようかと思いましたが、お下品すぎるのと、クリスは下着を着けないので、止めました。
「ミランダ、ミランダはおるか?」
「はい、ここに」
「クリスのハンカチか何か、所持品で、まだ洗濯していない物はないか?」
「ハンカチでしたら、ございます。幸い、クリス様が出奔されて、みな、混乱し、洗濯などしている余裕がございませんでした」
「うむ、直ちにここへ持ってきてくれ!」
「かしこまりました」
侍女のミランダが絹製の上質なハンカチを持ってくる。
「アルベルト様、どうぞ、お収め下さい」
「ありがとう。ミランダさん。これで、クリスの手がかりが手に入りました」
「では、頼むぞ!アルベルト!」
「お任せください!」
そういうと、アルベルトは愛おしそうに、ハンカチの香りを嗅いだ。
「ああ、間違いない!クリスの香りだ!」
ドドーン、皆、ドン引きだが、誰も突っ込まない。
「早速、クリスを追います。失礼いたします」
「ああ、頼む、私も早く、あの子の顔がみたい」
アルベルトはクリスの実家を早々に出立した
クリスは実家からムー共和国に向かっているので、アルベルトは容易にクリスの追跡が可能だった。最強ストーカーが正に誕生した瞬間だ!
アルベルトは正確にクリスの香りを追跡した。馬車に乗ってからの、ほんのわずかな香りも逃さなかった。既に犬の領域は越えていた。
街中では遠慮気味に早足で歩いたが、街道にでると、全力で走った。その速度はこの国一の駿馬でも勝てる速度では無い。クリス達が1週間で辿った道を、アルベルトはわずか2日で踏破した。一睡もせずに! クリスの為に、寝ている余裕はないのだ。辛い時はクリスのハンカチの香りを嗅いだ。懐かしいクリスの香り、子供の頃から変わっていない。プロレスごっこしていた時のクリスのいい香りは、今は数十キロメートル離れても嗅ぎ取る事ができるだろう。クリスの香りに触れるとアルベルトは心が癒された
「香りの移動が止まった!」
アルベルトは既にクリス達の近くまで、来ていた。何事もなければいいのだが・・・
アルベルトに嫌な予感が襲った。杞憂だといいのだが・・・
しかし、アルベルトには、既にクリス達の声まで聞こえていた。
「ク、クリスが大変だ!」
クリスが冒険者達に痛めつけれている様子、土下座をしてアリシアを助け様とする様子が耳に入る。
「クリス、何て、心の綺麗な聖女なのだろうか?」
アルベルトは感激していた。クリスはお転婆だった。だが、まさか、メイドのアリシアを助ける為、暴漢に立ち向かい、なおかつ、アリシアだけでも助けてほしいと懇願するなど!
そして、絹づれの音、男がクリスを辱めている音が聞こえてきた!
「よくも、僕の愛しいクリスを!」
アルベルトの心にはもう暴漢への怒りしかなかった。最初はどれだけ痛めつけてやろうか? だった。だが、俊足でクリスの元に辿りついた時、アルベルトが目にしたのは・・・・
暴漢に組み伏せられ、あられもなく、衣服は乱れ、その白い肌が露わとなり、艶めかしい両脚が露わになっていた。クリスの目には涙が・・・そして、アルベルトの目に入ってしまった。クリスは下着を身に着けていなかった。そして彼女の脚の近くには・・・血が・・・
汚された・・・僕の・・・僕のクリスが! 僕のクリスが!
最悪の事態、もう、アルベルトには殺意しか沸いていなかった。それも、どれだけ残酷に殺してやろうか? どれだけ、痛みを伴わせてやろうか? そして、彼らに怒鳴った
「貴様ら! よくも僕のクリスをこんな目にあわせたな!」
アルは怒りに満ちていた。孤独な僕を救ってくれたクリス、僕の大切な人、そのクリスを慰みものにしようなど・・・・・・殺すしかないだろう?
「なんだお前さんも仲間に入りたいのか?」
「ふっ」
思わず、苦笑する。こいつらは男が皆、この様に醜悪なものだとしか思っていないのだろう
「なあ、お前さん、一番最後になら、してもいいぜ」
「ああ、お互い面倒はごめんだろ?」
『ぶちん』
アルの中で何かが切れた音がした。彼らは、自分達の死刑執行書にサインをしてしまった事に直ぐに気が付くだろう。そう、血の雨が降ることになる!!!
美しいものの傍にあるからこそ、その醜悪なものの醜悪さが際立つ。暴漢が放った不用意な一言は完全にアルベルトの理性を失わせた。暴漢が下卑た笑みを浮かべ、次の言葉を発しようとした時!
シュン
残音を残し、アルベルトは消えた
「えっ!・・・・・・」
暴漢は意表を突かれ驚くが、次の瞬間、暴漢アーネの体はクリスから引きはがされ宙に舞った!
斬!
肉が斬られる音がした。そして、
「痛えぇ!、俺の手が!手がぁぁぁぁ!!!!」
血しぶきが舞い、血はクリスにも飛んだ
「僕としたことが、クリスに汚らしい血を浴びせてしまうなんて、クリス、すまない。僕がもっと早く到着していれば・・・」
他の二人は何が起こったかわからなかった様だ。クリスを組み伏せていた暴漢の他の二人もクリスの体をまさぐっていた。しかし、突然、組み伏せていた暴漢が吹き飛び、手が斬り落とされた。
「い、一体、何が起こったんだ?」
「どうなってるんだ?」
そんな二人にアルベルトは冷たい声で言った
「なあ、お前たち、いつまで僕のクリスに、その薄汚い手で触っているんだ?」
二人はようやく悟った。それは肉食獣に出会ってしまった草食獣の本能にも似た感覚だ
「ち、違うんだ。違うんだ。俺達はただ」
「本当だ。脅かすだけのつもりだったんだ」
全く、嘘もまともにつけないとは、醜悪な者は脳まで醜悪に出来ているらしい。
「もう、我慢ならん!」
シュン
再び、アルベルトの姿が消えると
「い、痛い、痛いよー、俺の脚がぁぁぁぁぁぁぁ」
「死にたくない、死にたくない。頼む助けてくれぇえぇぇ」
最後に悲鳴があがった。予想外の人からだった
「ひゃっ、ひゃぁ、ひゃぁ、手、手、手、手、手がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
クリスだった。しまった。僕が斬り落とした暴漢の手がクリスの上に落ちてしまった。全く、重ね重ねの失態、よりにもよって、美しいクリスに汚らわしい男の血まみれの腕などふさわしくない
よろしければ評価・ブックマーク登録をお願いします。