4.魔王が復活しちゃった
この世界には一応魔王がいます。だから、ハイファンにするか異世界恋愛にするか血迷ったのです。しかし、恋愛要素が皆無だったからジャンルに困りました。主人公以外には恋愛がたくさん・・・もちろん中心は主人公です・・・しかし、本人にはないんですよね・・・
俺様とあーちゃんは、この国から逃亡する事にした。幸い王都から、隣国のムー共和国へは馬車で1週間の距離だ。王都は元々、隣国との貿易で栄えた経緯があり、ムー共和国の首都への距離は近いのだ。ムー共和国はかなり昔から同盟国だ。パシフィス帝国が昔から強大だった為、アトランティス王国はムー共和国と昔から同盟を結んでいる。
真夜中に屋敷をあーちゃんと脱出する。子供の頃、屋敷から抜け出して王都の街へ遊びに行っていた頃の経験が役にたった。
「クリス様、準備できました?」
「おお、準備万端だぜ!」
「お化粧道具は持ちましたか? 最低限のアクセサリーは?」
「一応言われたから、持ったけど、いらなくねー? 真っ先に捨てるべき物だと思うぜ!」
「クリスお嬢様の美しさが損なわる様な事があってはならないのです!」
「そ、そんな・・・」
俺様はかなり情けない顔をしている。・・・メンドクサイ・・・
屋敷を抜け出し。王都の街を歩く、少々危険だ。夜の街を女の子だけ歩くのはかなりこの街では危険な事なのだ。むろん、屋敷の周辺は比較的安全だ。貴族が多く住む住宅街にそんな悪い奴はたむろしていない。いたら、警察にあっさり連れていかれる。
「おそらく、あの人達だと思います」
あーちゃんの指し示した先には冒険者のパーティが3名いた。護衛だ。俺様達を、馬車のつく場所まで連れて行ってもらう事と、馬車での旅を安全にする為だ。馬車を襲う盗賊もいるのだ。
「あなた達が冒険者団シリウスですか?」
「ああ、冒険者団シリウスの団長シモンだ。よろしく頼む」
「では、前金を渡します。残りはムー共和国の首都、ベルリンで渡します」
あーちゃんが冒険者とやり取りする。俺様はしゃべるなと言われている。フードを被り、容姿が良く見えない様にしている。あーちゃんの話では、俺様、有名だから、しゃべると直ぐばれるんだそうだ。まあ、自分の事、俺様と言う女はこの国に、多分俺様だけだから、当然かもしれない。
「よし、約束通りだ。引き受けた。任せろ、必ずベルリンに連れて行ってやる」
こうして俺様達は無事、王都ローデンブルグを出発した。そして、1週間が経ち、この国アトランティス王国を無事出国できた。偽造の身分証明書など、あーちゃんの手配には手抜かりはない。
その頃、王都は大変な事になっていた。むろん原因は全て俺様だったらしい。
☆☆☆
「それで、かの聖女は出奔したというのか?」
ここは国王陛下のおわす宮殿の謁見の間だ。国王は不機嫌だった。第三王子がよりにもよって、ケーニスマルク家の令嬢に婚約破棄を言い渡したからだ。その事を聞いた王はすぐさまケーニスマルク家へ使いを出し、詫びを入れた。ケーニスマルク家の当主は現在の右大臣を務める、この国の有力者だ。その令嬢に対して婚約破棄等、前代未聞だ。しかも、原因が王子の嫉妬からであり、先方に何の不備もないのだ。更に最悪なのは、第三王子が深い悲しみに落ちている事だ。自身が招いた事とはいえ、全く、救いの無い話だ。しかも、婚約破棄の直後、聖女はパシフィス帝国の第二王子から求婚されると言うおまけつきだ。更に、その後、新しい勇者にも求婚され、困った聖女は家を出奔したという。
「馬鹿な王子だ。我が子ながら、愚かだ・・・」
「大変です。国王陛下!」
「なんじゃ、騒がしい。本日の謁見は新しく勇者になった者との謁見の筈じゃが?」
「それが、至急ご報告すべき情報が北の聖地アウグスブルクよりございました」
「どの様な内容じゃ?」
「聖地の聖殿の聖なる鏡に亀裂が生じました」
「な、な、な、、なんじゃとぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
聖なる鏡とは北の魔境の魔王の封印の象徴だ。それが割れるという事は・・・
「それは魔王復活の兆し、聖職者の長、教皇を直ちに呼べ! 勇者の謁見を早々に済まし、教皇と協議する!」
「は!直ちに教皇様をお迎えに参ります」
官吏が教皇を迎えに行くと、新たな勇者との謁見の為、新しい勇者と、王族の立ち合い人として第一王子から第三王子が謁見の間に入ってきた。官吏も多数入る。
「新たな勇者達よ。女神の祝福を得た、そなた達に期待する。この国を魔物や魔族から守ってもらいたい。我ら王族、この国も全面的に支援する事を約束する」
「「「は!」」」
だが、国王は気になる事があり、一人の勇者へ声をかけた。
「勇者アルベルトよ」
クリスの幼馴染の勇者の事だ。
「はっ! 国王陛下、なんでございましょうか?」
「立ち入った事を聞く、これは王としてでは無く、第三王子の父親としてそなたに聞きたい事がある」
「何でございましょうか?」
「そなたが、あの有名な聖女、今は本当の聖女になった、クリスティーナ・ケーニスマルク穣の幼馴染な事は存じておる。しかし、そなたは彼女が我が第三王子セーデルマンデル公カールの婚約者である事を承知でなぜ、頻繫に、かの令嬢と逢っておったのじゃ? 令嬢はきちんと門限に帰り、決して、不義理な事があったとは思えぬ。じゃが、人じゃ、かの令嬢はそなたに好意を寄せておったのか?」
「いえ、クリスティーナ様は僕を男として見てくれた事はございません。もちろん僕は昔から好意を寄せておりましたが・・・クリス、いえ、クリスティーナ様はカール王子様の誕生日のプレゼントを探す為に僕を頼ってきました。幼馴染として、当然の事としてご案内しました。クリスティーナ様の幸せに貢献できるものと考えて行動しました」
「そ、そんな!!!! クリスは私より幼馴染のアルベルトに好意を寄せていると思い込んでいたのに・・・・・・」
「カール様、邪推です。クリスティーナ様は僕に好意を寄せていたとしたら、僕に合わなかったでしょう・・・クリスは正義感の強い女性でした」
「た、確かに、彼女はそういう女性だ。だが、何故、婚約破棄を承諾したんだ? なにも後ろ指さされる事がなければ、婚約破棄等受け入れなければ・・・私だって、婚約破棄を拒絶して欲しかった! 私にすがって欲しかった! 愛していると言って欲しかった!」
第三王子の懺悔の告白を聞いた幼馴染の勇者アルベルトは
「カール様、クリスティーナ様はアン・マリー様の親友で、彼女の事を良く、楽しそうに話しておりました。また、アン・マリー様がカール様を愛していた事をご存じでした」
第三王子のカールは”はっ”とし、
「まさか、アン・マリーを正室にする為に身を引いたのか?」
「おそらく・・・彼女はそういう女性です。自身の事より、親友の幸せを望んだのでしょう」
『なんと心根の美しい、流石ケーニスマルク家の聖女!!』
もちろん、クリスはそんな事は考えていない。ただ、結婚したくないだけだ。だが、それを知らない彼らは勝手にクリスの好感度を爆上げしていた
「なんと、第三王子カール、貴様は宝石のごとく貴重な女性を逃したな!」
「ち、父上、わ、私は!」
「もうよい、貴様は妃となる、アン・マリーを幸せにする事だけを考えろ。既に、かの令嬢は帝国第四王子、そして、この勇者アルベルト殿に求婚されておる」
「はい。父上、私がアン・マリーを愛しているのも事実です・・・」
「二人の女性を同時に愛したか・・・罪深い・・・女神様はよく見ておられるな。今後の人生の糧とせよ、カール」
「は、はい。父上」
力なく答えるカール王子・・・
しばらくすると、官吏に付き添われ、聖職者が現れた。教皇だ。
「国王陛下よ。重大な事態、我が教団も既にアウグスブルクの聖殿より聞き及んでおります。そして事態の原因もわかりました」
「教皇よ。是非教えてくれ。かの地で何が起きた?」
「国王よ。起きた事は、かの地でではございません。問題はかの聖女です」
「かの聖女というと、今を時めく、あの、ケーニスマルク家の聖女か?」
「おっしゃる通りです。女神エリス様は、かの聖女不在でしたが、かの聖女の役割は告げられました」
「ま、まさか!!」
「そのまさかです。ケーニスマルク家の聖女は戦いの聖女です。魔王の封印が破れたのは、おそらく、かの聖女が国外に出奔し、聖女の加護が途絶えた為でしょう」
「な、なんという事じゃ!」
事態は深刻になった。この国にとって、聖女クリスにとっても、そんな簡単に修道院にいかせないよ。ヘッヘッへ(ニヤリゲス顔)
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