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21.アリス・ヴァーサ

「ひっ……ひぎゃああああああ!」

 私の名はアリス・ヴァーサ。左大臣ベネディクト・ヴァーサの娘、この国で一二を争う名門貴族ヴァーサ家の娘だ。父は子供の頃から優しく、そして厳しかった。貴族の娘と言っても甘やかしすぎたりしなかった。愛情と厳しさ、両法を与えてくれた。そのせいか、子供の頃から正義感の強い子に育った様に自負している。


 優しい父、素敵な家族に囲まれて育った私には一つ悩みがあった・・・それは真の友達がいない・・・取り巻きはたくさんいた。だけど、私がヴァーサ家の娘だから近づき、ヴァーサ家の娘だから、一定の距離をおかれた。貴族に生まれるという事がどういう事なのか? 名門貴族に生まれる事がどういう事なのか?


 私は孤独だった。趣味は読書位だった。取り巻きの令嬢とお茶会や、おしゃべりをしても、一緒に遊んだり、本当に気を許して話す事はできなかった。私は籠の中の鳥、所詮、貴族の娘等、政略結婚の道具でしかなく、まともに友人さえ作れない。子供の頃、友人になった子はいたけれど、私がヴァーサ家の娘だと知ると、離れて行ってしまった。真に親しくしたい友人はそうだった。そして残った友人は打算で近づく取り巻き達。彼女達は私を友人だ等と思ってはいないのだろう。私をヴァーサ家の娘・・・ただ、そう思っているのだろう。


 そんな私に新しい風が入って来た。それも二人も! 一人はアン・ソフィ! 平民の娘! 信じられない。彼女は貴族に物おじせず意見を言った。勇気ある行動だ。いや、むしろ無謀とも言えた。だけど、私には眩しかった。その曇りの無い正義感と勇気が! 貴族社会を良く知るにあたって、たくさんの正義を無視しなければならなくなる。それらの正義を無視しないという事は自身の名門貴族の地位を否定する事になる。


 アンは私との距離をあっさり縮めた。彼女にとって、私は唯の貴族らしい。彼女から見れば、私の取り巻きも、私も大して変わらないのだ! 最初は信じられなかったが、私はどんどん、彼女の魅力に引き入れられて行った。私に正面から意見をぶつける! 一切の妥協も計算も無い発言! そんな子は今まで会った事がなかった。私がヴァーサ家の娘だという事を知っても、何も変わらない友人。初めて私は真の親友に会えた。そう思った。そして、変わって欲しくない、心からそう願った。


 そして、もう一人はクリスティーナ・ケーニスマルク、あの、右大臣ベルンハルド・ケーニスマルクの娘! クリスも又、信じられなかった。私の父と彼女の父は盟友にして、政敵という難しい関係だった。その私に彼女は容易に近づいた。そして友達になった。アンに巻き込まれて友人同士となったが、何故か意見があった。アンが私の貴族の取り巻きに虐められている処を助けたものの、アンの行動や発言は危険なものだった。私はアンを諭そうとしたが、うまくいかなかった。だが、クリスティーナは簡単にアンを納得させた。クリスティーナ、いや、クリスも又、私と同じ価値観と正義感を持つ同士だった。彼女との意見交換は私に安らぎを与えた。


 同じ立場で話せる事が、これ程心地いいもの? 信じられなかった。クリスは噂に違わぬ、精錬潔白な人物だった。見た目も、女性の私が”はっ”としてしまう位の美しさだ。そのくせ、自分の一人称を”俺様”という。正義感厚く、勇ましいけど、それでいて、どこか抜けている。そんなアンバランスさが彼女の魅力だった。


 クリスからみんなで遊びに行こうと言われて、私はお断りしたけど、本当は行きたかった。クリスの婚約者である、カール様がいなければ、確実に参加しただろう。それ位魅力的な話だった。しかし、ヴァーサ家の人間として、クリスの婚約者に近づく事がどれ程危険な事か? 事実は関係ないのだ。噂だけで十分に危険なのだ。


 しかし、後日、アンとクリスと私の三人で街にお忍びで遊びに行く事になった。初めての経験だった。籠の中から初めて一人で出られた。そんな気がした。


 でも、最初に困ったのが、お金だった。街中ではお金がないと、何もサービスが受けられない。それ位の常識は私にもあった。だが、私には自由に使えるお金はなかった。自分で物を買いに行った事がなかった。物は使用人に買ってきてもらうもの。そう思い込んでいた。私にはお金がないという事に気がついて、アンとクリスに話すと、アンは随分と驚いた。そして、おかしかったのが、クリスだ。クリスは・・・「そうか、お金がないと遊べないじゃ無いか! 俺様お金持った事がねぇ!」・・・って・・・おかしかった。私だけじゃなかった。クリスに親近感がわいた。


 アンはクリスと私の二人に呆れたが、由々しき問題だった。街で遊ぶ事が出来ない。折角友達ができたのに、遊べないなんて! 私はその日、急いで帰って、お父様に頼んで、お金を少しもらった。少しだけいいから! そう言った。だけど、父様にとって、少し位という事がどれ位かが、わからなかった様だ。結局大金を持って歩いていた。クリスも同じだった。クリスも私も、お金の数え方や価値が解らなかった。特に少額硬貨はさっぱり解らなかった。見た事もなかったから・・・


 私とクリスがジェラートを買うのに、金貨を1枚出した時、店員さんが驚いた。ジェラートとは金貨で買う様なものでは無いし、そもそも、金貨1枚に対して、お釣りが用意できないとの事だった。仕方なく、アンにお金を借りた。恥ずかしかったけど、クリスがいたから、我慢できた。仲間がいなかったら、耐えられない屈辱だった。


 アンがお手洗いに行っている間にクリスと話した。


「アンに嫌われないかな?」

「大丈夫だ。あの子は図太いから平気だ」


 何故かクリスは断言した。そして実際その通りだった。アンは私達の事を揶揄したりしなかったし、その後も何も変わらなかった。


 街でのお買い物は楽しかった。何時、この服着る事があるのだろか? そのアクセサリーは偽物で、私が身に着けて出歩ける筈もないのに・・・そんな物をたくさん買ってしまった。いつの間にか私はテンションが上がり、一人、お買い物魔人になってしまっていた。気が付くと、そこにはたくさんの私のお買い物の成果を両腕に抱えたアンとクリスがいた。


「ご、ごめんなさい。わたくしってば、なんて事を・・・」

「大丈夫ですよ。初めてのアウトレットはこんなものですよ」

「まあ、アウトレットはこういう物らしい。気にすんな!」


 二人は私を慰めてくれた。でもアウトレットて何だろう? 二人は時々当たり前なのかの様にわたくしの知らない単語を使う。これは平民では常識的な知識なんだろうか? 少し、アンのクリスの間柄に嫉妬した。


 それにしてもアンとクリスの関係は不思議だ。何故かアンはクリスをいじめる。本来、いじめ等、私の許容できるものではないのだが、アンのいじめは中途半端で、どうも憎めないのだ。例えば、上履きに画びょうをいれたり・・・十分酷いと思うだろうが、針はわざわざとってあり、靴箱には足元注意という張り紙がしてあったりする。他にも、机の上に悪口をマジックで書いたり・・・「クリス綺麗すぎる!」とか・・・本気でいじめる気あるのかを疑問視せざるを得ない。他にも、言葉でいじめるのだが、主に、クリスの美しさを褒めたたえ、嫌がるクリスをいじめぬくのだが・・・私なら嫌な気持ちにはならないだろう。美しさを褒められて、何故悪い気がする? これに関しては、いじめというより、クリスがおかしい。確かに、アンはクリスが嫌がるのを承知で言っているので、いじめには違いないが、顔を赤らめ、その長い睫毛を伏せ、恥ずかしがる表情やその仕草を見ると、何故か魅入られる。これに関しては私も同罪なのだ。可愛いクリスを見ていたいから、放置して、クリスに魅入ってしまう。


  クリスのいない時にアンに聞くと、最初はいじめのつもりだったけど、今は趣味らしい。私同様、頬を赤らめ、恥ずかしがるクリスにアンも魅入られているのだ。だから、最近は私もこのいじめには参加している。クリスがその美しさを褒めたたえられて、悶絶する姿はとても可愛い。最近わかったのだが、美しいより、可愛いと言われる方がその羞恥心は大きくなる様だ。最近は美しさから可愛さを褒めたたえる方向にシフトしている。


 心の共、アンとクリス、楽しい学園生活、楽しい友達との外遊、そして楽しいクリスいじめ! 今、私は最高に楽しい時間を過ごしている!!

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