20.それでもアンとカールの仲を良くしてあげよう
だから、アンいじめないで!
例の貴族論事件より数日、相変わらず、俺様はアンに意地悪されている。貴族である事を揶揄されてしまう。怒ればいいのだが、それではアンの思うツボだ。そこで、俺様は一計を講じた。
要はカールとの仲が進行すればいいのだ。アンの目的はカールと仲良くなりたいのだろう。だから、アンとカールが仲良くなる手助けをすればいいのだ。もちろん、あまり仲良くされると俺様がカールにとって邪魔になってしまう。邪魔にならない程度に仲良くなってもらう。それに、アンとの仲が良好なら、邪魔でも、死刑にまではしない筈・・・
魔法学校で、いつもの様にアンとアリスと三人でおしゃべりする。幼年学校では結構ぼっちだったから、ちょっと嬉しい。でも、アンがチクチクと俺様を虐めるのが困る。まあ、中の人の基本スペックがドジで、普通の女の子のアンはそれ程、酷い意地悪はできないんだけど・・・
「ああ、やっぱり、クリスの様な虐めができない・・・」
アンが物騒な事を言う
「あの、アン、いつも思うのですけど、あなた、クリス様にどうしてそんなに当たるのですか? 私にとってはとても良いお友達ですけど、少し、クリス様が気の毒に思えてよ」
アリスが俺様をフォローしてくれる。頼む、お願い、アンゆるちて
「私、精錬潔白なクリス様を虐めると、とっても気持ちが良くて・・・美しいものを汚す事がこんなに気持ちがいいものだなんて・・・すいません。駄目だとわかっているのですが、好きだからこそ、虐めてしまうんです・・・」
「そ、そういうものなの?」
アリスはちょっとドン引き気味だ。俺様もちょっと・・・だが、絶対、嘘だ。このアンの中の人、かなりの玉だ。予め考えてたに違いない。
「まあ、俺様は気にしてないし。それより。今度遊びにいかないか? 街の郊外に!」
俺様はアンとアリスをいつも幼馴染のアルベルトと一緒に遊びに行っている郊外の森や山への探検に誘うつもりだ。そして、何よりの餌が、カール王子だ。実はかなり前からカールも誘って、3人で遊んでいたのだ。アンとアリスがカールと接点を持ついい機会だ。
「クリス様はどんな遊びをされるのですか?」
郊外という言葉を聞いて、アリスは少し顔を曇らせた。それは仕方無いのかもしれない。カールも初めての時は少し、動揺したし、初めて本物の蛇を見た時、びっくりな速度で逃げ出した。アリスが郊外に行くのを警戒するのももっともだ。そういえば、俺様にからかわれて、カールは後日蛇を克服した。今はこの世界で一番の野生児の王子がカールだ。俺様が教育したんだから当然だ。
「私はご遠慮致しますわ。ごめんなさい。私、虫や動物が苦手で・・・」
「それなら仕方無いよ。あまり女の子向けの遊びじゃないし」
「私は行きます! カール様に逢えるんでしょ?」
「そうだよ。カールと会えるよ。カールはいい奴だよ。だから友達を紹介したい」
「私は、より遠慮させて頂きますわ。カール様はクリス様の婚約者、私がカール様に近づく事は遠慮した方が宜しくてよ。変な誤解が生まれると、ケーニスマルク家とヴァーサ家の間に緊張が走りますわ」
「仕方無いか、じゃあ、アンと来週末行ってくるよ」
「冒険譚は教えて下さいね。お願いします。私も興味事態はございますわ」
「もちろん、面白い事、いっぱいあるから、たくさん話す事になるよ」
こうして、週末、俺様と王子カール、幼馴染アルベルト、友達のアンの4人で、裏山に探検に行くことになった。
☆☆☆
週末の土曜日の朝、俺様とアルベルトはいつもの郊外の場所に集まった。
「あ、クリス。おはよう」
「おはよう、アル!」
アルは相変わらずナヨナヨして優男だ。幼馴染のアルベルト。勘違いするなよ。俺様、幼馴染属性とかに特にないぞ! そもそもアルは男として見れないから安心して付き合えるんだ。ちいさい頃から一緒に居て、何かと行動を共にする弟の様な存在だ。
アルの性格は、少し内向的で、俺様としか、あんま話す機会の無い、冴えない内気な少年だ。顔は悪くない、もっと男らしくすれば、男の友達も女の子の友達も一杯できそうなのに・・・
そうこうするうちに、この国の王子カールが到着した。もちろん歩いてだよ。お忍びだから、正式に街の外を歩いている訳じゃない。結構みんなやってるみたいだ。去年のクリスマスイブに国王陛下が街のおもちゃ屋さんにプレゼントを買いに来て、必死に子供への贈り物を探すというエピソードがある位だ。俺様の前世の日本では考えられないが、この世界の王族も貴族も意外とセキュリティとかの考えはがばがばだ。
「あはよう。クリス! それとアルも!」
この6年間で、カールともすっかり幼馴染みたいになった。彼はずいぶん変わった様だ。最初は結構、性格悪い奴だった。アルの事を見下したり、街で遊ぶ時、横柄な態度をとったり。でも、アルが郊外の探検やチャンバラごっこで、大活躍すると、アルへの接し方も変わったし、俺様が街の人への接し方を注意すると、彼は理解した様だ。要は貴族どころか王族として育った彼には一般常識が欠如していた。かくいう、俺様も、前世の25年の記憶が蘇らなかったら、カールと同じだったろう。
そうしてしばらくするとアン・ソフィがやって来た。心なしか、はあはあ、息遣いが荒い。王子と逢えるから、興奮したのかな? いや、中の人が転生人でも、彼女は中身も女性だ。そんな変態とは思えなかった。とすると・・・
「ごめんなさい。待たせちゃいました? 私、迷子になって、本当は1時間前に到着するつもりだったんです」
涙目のアンは可愛えぇ!! いや、本当に自身の性別が女なのが憎い、男だったら、確実にハーレムの一員に加える!! 今の俺様の心の底の奥のハーレム順列は第一位があーちゃん、第二位が妹のベアトリス、第三位がアン、第四位がアリスだ。乙女ゲームだから仕方無いが、どうせなら、エロゲーの主人公に転生したかったぜ! と思ったが、エロゲーのヒロインに転生したらと思ったら、ゲロ出そうになった。足る事を知らなければ・・・そう思った。女だって、破滅フラグを全て回避できれば、もしかしたら、ひっそりと修道院で生活できるかもしれない。前の人生よりマシかもしれない。
「よし、今日はまず、ちゃんばらからだぜ!」
「クリスは相変わらずだね」
「なんだよ、女が剣の練習しちゃいけないのか?」
「ううん、そんなことないよ。でもクリスって結構華奢な方だから、怪我とかしないか心配で・・・」
「はぁ? 俺様が華奢だぁ? アルなぁ、それは失礼すぎるぞ! 子供の頃、一度も勝てなかった癖に!」
「今年の戦績は99勝0敗で僕が圧勝だよ」
「俺様も漢だ。負けは認める。だが、いずれ、俺様の能力が開眼して、ひっくり返るんだ!」
「クリスはそもそも……女の子だよね?」
「う、うるさいな! そんな細かい事いいから、ちゃんばらするぞ!」
「ちゃんばらって……僕は、出来ればおままごととかしたいな……」
「あああ・・・もう、アルは男だろう!」
「・・・・・・」
何故かアンが無言になる。そして、
「ぎゃはははははっはははっは!! 可笑しい! 可笑しすぎる!!」
アンはびっくり仰天な位、大笑いをした。
「アンちゃん。どうしたの? そんなにおかしな事あった?」
「だって、だって、女の子のクリス様がちゃんばらしたくて、男の子のアルベルトさんがおままごとだなんて......それにちゃんばらの戦績が99勝0敗で、まだ止めないだなんて、クリス様ドMですか?」
「「ド、ドM?」」
聞きなれない言葉を聞いて、カールとアルが???となった。俺は悦明した。
「アンちゃんが言うには、負け負けの癖に何度も挑む俺様は真性のマゾだと言いたいらしい。度が過ぎたマゾだから、ドM、ちくしょー!」
自分で、自分の恥ずかしい説明する羽目になった。アンちゃん、酷い・・・
こうして、アルとカールと3人で、ちゃんばらする事になった。アンちゃんは華奢で怪我しそうだから、仕方無いか・・・ あれ? 俺様と腕の細さあんまり変わらん様な気がする? 気のせいだ!
「あっしには関わりのないことでござんす」
「てめぇら、人間じゃねえ。叩ぁ斬ってやる!!」
「ひとつ、人の世の生き血をすすり。ふたつ、不埒な悪行三昧。みっつ、醜い浮世の鬼を・・・退治してくれよう、桃太郎侍!」
色々な俺様の前世の時代劇の決め台詞に伴って、チャンバラが開始される。そして、色々木の棒でやりあった。
「雷神剣!」
「彗星斬!」
「魔人剣!」
必殺技が飛び交う、もちろん唯の棒きれの打撃だ。そして、いつもの様にアルがほぼほぼ勝ったかに見えた時、アンが言い出した。
「静まれい!!! 静まれ静まれ、静まれい!!!」
アンちゃんが突然、言い出した。これはあれだ! そして、アルとカールはキョトンとする。俺様は二人を指導した。
「二人共、この言葉を聞いたら、すぐ整列して、跪ずくしかないんだよ。特に午後8時45分頃に言われたら、絶対なんだ」
「そ、そうなのか? 庶民の世界ではそうなのか? また、私の知らないびっくり常識が!」
「ク、クリスが言うなら、そうなんだろうな・・・」
二人は、アンちゃんと俺様の方を向いて、跪いた。この世界には土下座的な控えるという姿勢が存在しないから、跪せた。
「ええ~い、控えぃ控えおろう! この紋所が目に入らぬか!! この方は先の副将軍水戸光圀公にあらされるぞ! 頭が高ーい!」
「いや、ちょっと、意味分かんないだけど!」
アルが珍しく、俺様の意向に反発する。すると、アンは、
「これだけの悪事が明るみになって、越後屋よ、そちも悪よのぉ。クリスさん、カールさんこらしめておやりなさい」
アンがそういうと、俺様とカールで、アルをボコボコにした。そして、アルが降参すると。
「これにて一件落着!」
何故かいいところをアンに全部持っていかれた。それに、あれ? 何故かアンが黄門様の立場になってる! ずるくねぇ~!!
こうして、アンとの街の郊外での交友が始まった。以外とアンはノリノリだった。男の子の遊びにも斜め上の視点で、入ってきた。その上、男の子の遊びだけじゃ嫌だから、アルベルトの意見も含めて、おままごとしましょうと言い出して、生まれて初めて、おままごとをさせられた。アルは大喜びだったが、俺様とカールは凹んだ。
王子のカールは帰り際、とても面白かったと興奮していた。アンにも好感も持ってくれた様だ。このまま一気に寝取ってもいい! アン!! だから、いじめないで!
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