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18.アン・ソフィとアリス・ヴァーサ

メインヒロインはポンコツなんです。実は・・・

 アン・ソフィはおそらく転生者、これは大きな事件だ。もしかしたら仲良くなれるかもしれない。逆に天敵となるかもしれない。事態は急変した。アン・ソフィを見極めなければ。乙女ゲームの世界のアンは謙虚で、穏やかな性格だ。誰からも愛される女性。しかし、中の人が現代日本からの転生者だったとしたら? 俺様やあーちゃんの様に・・・俺様にはわからない。


 事件は入学式当日、また起きた。やはり平民とはいえ、アン・ソフィの美しさは目を引く、俺様も見かけたが、アンは第三王子カールと話しこんでいた。廊下の曲がり角でぶつかるというベタなシチュエーションで、偶然、王子と出会い、話すきっかけを得た。そして、カールと仲良く話す光景が多くの者の目に触れた。かくゆう俺様も見た。俺様はもちろん気にしないし、俺様に何故か憧憬する貴族の女の子達三人組も俺様が何とも思っていない事で仲良くなった様だ。今では、俺様より彼女達とアンの仲はいい位だ。しかし、貴族の令嬢は他にもいた。そして、平民が一国の王子と歓談する等とんでもないという考えの令嬢もいるのだ。


 入学式が終わり、今日はもう下校という感じの状態の時、4人程の明らかに貴族の令嬢という出で立ちの女の子が4人程アン・ソフィを取り巻いた。俺様はしばらく見ている事にした。おそらくアンをいじめるつもりだろう。とても仲良く話す雰囲気ではなかった。だが、アンの中の人が転生人であるという事を考えると、少し様子をみたい。見定めたい。


「あなた! ねぇ。どういうおつもりなのかしら?」

「本当に、身分をわきまえないにも程がありますわ!」


「私、貴族の方には敬意を持っております。私は何か失礼な事をしましたでしょうか? 何分、下賤な身、教養も皆さま程ございません。何か、誤りがございましたら、おっしゃってください。直ちに誤りは直します。立場もわきまえます」


「あなたね。今朝、誰と話していたか、わかっているの?」

「そうよ、あれはこの国の第三王子カール様よ! あなたごときが簡単に話していい人ではないの! 私達ですら、お声をかけるなんておこがましいのに!」

「そうよ、ちょっと綺麗だからって生意気よ!」


 どうも、4人は嫉妬にかられたらしい。俺様も見ていたが、積極的に話していたのは王子のカールの方だ。カールはあれでも女性には優しい。だから、ぶつかって、誠心誠意、謝ったのだろう。それはカールからの行動で、アンに罪などある筈がない。でも、嫉妬がそうさせてしまうんだろうな・・・多分、このエピソードも俺様が率先していたのかも・・・


 しかし、アンの様子が変だった。ぶつぶつと何かつぶやくと、突然顔をあげた。


「貴方達貴族がなんでそんなに偉いんですか? ここは身分の関係ない魔法学園じゃないですか……!」


 アンは自らを奮い起たせ、立ち向かう事を選んだ。ゲームの世界のアンじゃない。アンは謙虚で控えめだ。例え、相手が悪くてもこんなに簡単にキレない筈だ。

 沢山の敵を前にしても折れない心、傷付いても、なお真っ直ぐに前だけを見つめる姿は尊い、しかし ……!


「一人を取り囲んで、恥ずかしいのはそっちだわ!」

「なんですって……貴方、自分の身分を分かっているの……!?」

「生まれも身分も関係ない、そんな事で人を判断するなんて心が貧しい証拠じゃない!」


 争いは加熱した。まずい、学園内に身分は関係ない。それは確かに学園規律で決まっている。だけど、そんなの建前に決まっている。実際、この学園を出た瞬間、身分差は発生する。俺様は頭が痛くなった。このメインヒロイン、ちょっと馬鹿だ。


 しかし、今回はどうも俺様がらみではない様なので、その点には安心した。


『それにしてもどうしたものか?……』


 このままだと平民のアンは貴族達に潰されかねない。彼女自身をではなく、彼女の実家がおそらく危険だ。貴族の力がどの様なものか、知らないのだろう。現代日本の常識はこの世界では通用しないのだ。


 俺様はつかつかと歩いて、アンの近くに近づいた。そして、アンと令嬢達の間に入る。そして、


「俺様の知り合いに何をしてるんだ!」


「あなた、何者よ!」

「何よ! 俺様って! 女の癖に・・・女の子なのに、俺・様・・・」

「ちょっと、令嬢で、俺様って言うなんて、まさか!」


「あの、私のお友達のクリス様って、そんなに有名なんですか?」


 ドドーン、アンはかましてきた。いつから友達になったのか? 今だろ? 今でしょ! 俺様も知らなかったよ!


「俺様の友達のアンが何かしてしまったのなら、俺様からも謝る。だから機嫌を直してほしいな」


「いえ、クリスティーナ様はその娘が、今朝、カール王子様と仲良く話していたのをご存じないのでしょう?」

「そうですわ。ご存じなら、そんな事、お許しになる筈が!」


「いや、知ってるけど、別に気にしてないよ」


「ええっ!」

「そ、そんな!」

「嘘でしょ!」

「そ、そんな、そんな人いるの・・・」


 四人共絶句する。しかし、このままだとまずい。俺様の好感度は上がるかもしれないけど、アンの貴族からの好感度が下がる。友達の好感度が下がるのは良くない。俺様はアンにも説教する事にした。


「アン。アンも何をしてんだよ!」

「な、何をって・・・」

「馬鹿にされて喧嘩に発展するのは当然だ。攻撃されて、自分が傷いたなら、受けて立つ事に問題はない。その時、傷付けられた事実をうやむやにする必要もない・・・だけど、この方々は貴族なの! 生まれや身分で判断する事は貴族にとって、当たり前の事なの! 間違っているのはアン、アンの方だよ!」


 アンは顔色を悪くしている 


 言ってしまってから、しまったと思った。アンの為、そう思った。だが、アンは理解してくれるだろうか? 生まれや身分で人を判断する事は、平民にとって、傷つく事だろう。当然だ。そんなの関係ないの一言で済ましたいだろう。


 四人の令嬢と一人の平民が顔色を悪くしている中、一人の令嬢が近づいてきた。


「あなた達、それ位にしておいて、退散した方が良くてよ。ケーニスマルク家の力・・・貴族なら、当然わかるわよね。あなた達、自身が言っていたのだから、身分が違うと!」

「アリス様……あの、これは」

「ヴァーサ家に助けを求められても困るわよ。内戦でも起こせって言うの?」

「あっ……っ」


 四人の令嬢は早々に退散した。そして、この貴族の令嬢、アリス・ヴァーサは俺様に挨拶してきた。アリス・ヴァーサ、左大臣ベネディクト・ヴァーサの娘。そして、この乙女ゲームのサブヒロインの一人、そう、破滅フラグ要因なのだ。思わぬ邂逅に俺様は焦った。


「初めまして、クリスティーナ・ケーニスマルク様、私はアリス・ヴァーサと申します。それにしても、噂に違えぬ美しさ。そして、噂通りの尊さ。感服しましてよ。私の友人が失礼を致しました」

「俺様の事、なんで知ってるの?」

「この貴族世界に、ご自身を俺様と言うご令嬢、そして、これ程の気品と美しさを兼ねた方は、他にいないでしょう。クリスティーナ様ではないのですか?」

「いや、そうだけど・・・」

「それにしても、平民と友人関係にあるとは、本当に噂通りの方なのですわね。感服しました。私なら、相手への圧迫感を考えると、お付き合いできないですわ」

「それは大丈夫です。クリス様は変だから、圧迫感無いです!」


 アン・ソフィが頑張る。頑張る所間違えているけどね。


「まあ! 本当に仲の宜しい事で! 私はただ、羨ましいだけ。別にあなたに害を成す気はございませんわ。そもそも、今を時めくケーニスマルク家の関係者のご機嫌を損なう様な事は致しませんわ」

「アリスさん、あなたは、アンを守る為に言ってるでしょう?」


 俺様はこのサブヒロインの性格を知っている。生まれながらの貴族、そして、心は尊い。正義感の強いこの令嬢がメインヒロインと仲が良くなる。彼女の羨ましいという気持ちは本当だ。そして、アンの態度が悪かった事も・・・そして、ゲームの世界で、アンを守る為、ヴァーサ家の名前を出していた。今、その役目は俺様になった。だから、ケーニスマルク家の名前を出した。


「何の事かしら? 私には何の事やら」

「いや、いいや。直球で聞いた俺様が馬鹿だった」


「あの、クリス様、アリス様、そのう・・・」


「どうしたの? アン?」


「お二人共、お友達になって下さい!」


「よ、宜しくてよ・・・」

「俺様は元々友達だ」


 アンはそう言うとにっこりと流石にメインヒロインという笑顔で微笑んだ。怖ぇー、このメインヒロイン怖すぎる! 中の人、そうとうな玉だ。


俺様はこの日自宅に帰るといつもの様にあーちゃんに全部話した。


「本当に今日は大変だったよ。メインヒロインの中の人、転生人だし、ちょっと馬鹿だし、急に、サブヒロインのアリス・ヴァーサ出て来るし・・・」

「でも、結局、お二人共、お友達になってくれたのでしょう」

「あ、ああ、アンに無理やりかな」

「まあ、早速、女の子を二人も誑し込んだのですね。上出来じゃないですか」

「ちょっと、あーちゃん、その言い方酷い、俺様、変なホストじゃ無いぜ!」

「本人に自覚無くても、もう、クリス様は男も女も誑し込む、ジゴロですわ」

「どこがだよ!」

「あら、私もベアトリス様もアニカ奥様も、旦那様も、カール王子様も、他のたくさんのご令嬢達も、お嬢様に誑し込まれてますわ。そろそろ自覚して頂かないと!」

「な、なんだよそれ! 俺様そんなの知らないよ!」

「だから、お嬢様は可愛すぎるのですよ」


あーちゃんは今日は特大の丸太を俺様の心にぶっ刺した。

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