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捨てられ姫は竜狂い  作者: 兎の毛
冒険者編
17/20

山狩り II


 顔合わせのあと、ミスティエルたちは新しく入ったメンバーであるリディアスと、村の酒場で軽食を取りながら話し合いをしていた。

 戦闘についての打ち合わせが主だった目的だ。周りを見回すと、同じ目的でここにきている人たちが見れた。


「一応ベルスくんから聞いてはいるが、もう一度確認しておきたい。三人がどういう戦い方をするのかを」


 そう言うリディアスに、三人は一人ずつ自己紹介する。


「まず俺はベルスだ。見ての通り長剣を使ってて、普段は前衛をやっている。近接戦闘なら俺が一番だろうが、正直何も考えず戦えるだけだから、搦め手を使った戦闘は苦手だ。状況分析もいつもフリアに任せてるしな。同じ前衛として、リディアスさんが入ってくれると心強い」


「私はフリア。後衛で戦闘中の状況の確認とか、あとは戦いの後の治癒魔術師(ヒーラー)をやってる。それから、攻撃魔法も少しだけ。自慢は燃費の良さかな。詳しいことは言えないけど、たくさん魔法を使うのは得意だから」


「ミスティエルです。基本的に魔術師です。ただ純粋な魔法使いというよりは、魔術を使った物理攻撃だったり、相手の状態に悪影響を与える戦い方が主ですね。多少は格闘戦にも対応できて、斥候みたいなこともします。ポジションでいえば、遊撃型って感じですかね」


 そんな感じの説明を一通り聞いて、リディアスはうなづいた。


「なるほど。つまり俺がやるべきことは、前衛でパーティを守る(・・)ってことか。たしかに、今はそれができる人がいないように見える」


「ああ、そうなる」


 すぐにリディアスは気付いたようだった。そしてそれをベルスも肯定する。

 つまるところ、今のミスティエルたちパーティには、長引いた戦闘で一時的に守りに入るとき、休むためのスペースがない。敵の攻撃をかわしながら、あるいは受け流しながら、自らの戦うための力も回復させなければいけない。

 それはこれから戦いのレベルが上がっていく中で、大きな弱点になるだろうと、そうベルスは考えたのだった。不利な状況になったときに、落ち着く余裕がないのは致命傷になりうる。


 とりあえずその件に関しては合意が取れ、次の話題をリディアスは切り出した。


「あとそれから、このあたりは冶金の腕の良い奴が多い。俺も何人か紹介できるが……今の武具から変えたい部分はないか?」


 その発言に対し、ミスティエルとフリアはともに否定する。どちらも魔術師であり、それぞれ今の革鎧、ローブで十分であると言う。一方でベルスは多少の興味を示した。


「そういえば、この剣も長く使ってたもんな。なまくらになってるから、この機に鍛えなおすのもいいかもしれない。それと安く仕上げられるなら、金属の胸当て(ブレストプレート)が欲しいんだ。人を相手にするとなると、全身が革の鎧なのは不安だと思っていてさ」


「なるほど。確かに長剣は切れ味が命だ。この後空いている時間に、都合をつけておこう」


 それを聞いたベルスは喜ぶ。早速リディアスに付きまとい、どんな伝手で作るのかとウザいくらいに話をしたがる。

 そのはしゃぎ方を横目にして、フリアがぼそっと言葉をこぼしたのを、ミスティエルは聞いた。


「本当は人間相手の戦いなんて、できるだけやりたくはないのに。……ごめん。そんなのは冒険者をやるなら、現実的じゃない話よね」




 その数日後。日も明けないうちに、ミスティエルはたたき起こされた。ミスティエルたちを起こしたのは、乱入してきたリディアスだった。

 どうやら鉱山を占拠する山賊どもに動きがあったらしい。最悪、敵襲があるかもしれない。

 村一番の屋敷を冒険者たち用の臨時拠点していたのもあり、みなそこを宿替わりに使っていた。それで屋敷の大広間まで集合させられる間、ほかの冒険者たちも似たように起こされていたのが見えた。


「朝早くからすまないが、仕事の時間だ。鉱山近くに派遣していた斥候から連絡があった。賊が村に向かってくるのが確認された。数は目視で五人。それにしたがい、冒険者の皆は、村の周りを警備しろとの指示が出た。俺はそれをベルスくん達に伝えに来た」


「わかったわ。それで、どこをどう守ればいいかとか指示はされてるの?」


「ああ。俺たちの担当は西の街道沿い、その先鋒の守りになる」


 なるほどとミスティエルたちは納得する。


「ほんの少しだけ時間をくれ。それで用意を終わらせる」


「わかった。急がなくていいが、準備は怠るな。俺は広間で待っているぞ」


 そう言うと、リディアスは先に外に出て行った。

 ベルスのほうを見ると、もう準備を始めていた。先日新しく買ったらしい銅製の胸当てを付けるのに苦戦していて、心底迷惑そうにフリアがそれを手伝っていた。

 ミスティエルは身だしなみを整えて、ローブを羽織る。魔石と薬草を詰めて、すぐについていった。




 村から西に数百トルス(一キロメートル)程度行った先、街道の途中に四人で陣を張る。地図とコンパスを取り出しながら、フリアは告げる。


「ここで合ってるはず。ただ向こうからは丸見えだよね、私たち」


「そりゃあ俺たちは村を守るためにここにいるんだからな。食いついてくれなきゃ逆に困る」


 不安げなフリアに対し、ベルスの答えは身もふたもない。そういうことを言ってる訳じゃないのに気が利かないやつだと、不満げにベルスをつつくフリアに、ミスティエルは笑った。


「もっとも相手は四人、守るは冒険者全員。それに村の周りを取り囲むように陣を張ってるから、俺たちが戦う可能性は低いんじゃないか」


 そう考えるベルスに対して、ミスティエルは異論を唱える。


「推測ですが、私たちが戦う可能性は高くなると思います」


「ほう。それはなぜだ?」


 そうリディアスが問えば、ミスティエルはフリアから借りた地図を開いて説明を始める。


「あちら側の斥候の目的は私たち全員(冒険者)の戦力の把握です。そのために、彼らは偵察を計画したはず。しかし私たちにそれが伝わり、今こうして警戒体制に入った。冒険者側がここまで大々的に動けば、こちらが斥候の存在に気付いたことに、向こうも気づいているはずです」


「そうだな。なるほど、となると相手がそれを踏まえてどう動くか、という話になるのか」


「ええ。偵察には二種類あります。実際に戦って相手戦力を確認する方法と、隠れて相手側を観察する方法の二つ。いわゆる威力偵察と隠密偵察ですね」


 どちらを選ぶと思いますかと、そうミスティエルはフリアに話を振る。


「向こうの斥候は四人で、私たちが動いてることは賊側にも伝わってるんでしょ? そしたら斥候は、激しい戦闘は望まないと思う。だから、後者かな」


「そうですね、私もそう思います。しかし隠れて私たちを観察しようにも、問題が一つあります。それは、私たちが村の周りに散らばっているということ。村の戦力全体を一度に見渡すことが、非常に困難になっているはず」


 頷きつつも、フリアは疑問に思う部分があるらしい。


「一度に冒険者全員を見渡す必要はないんじゃない?」


「何回かに分けて偵察すると、どうしても見落としが出てきますから。できるだけ避けたく思うはずです。それに、向こうからしたらここらは敵中ですから、移動もできるだけ減らそうと考えます」


 フリアが納得した様子を見てミスティエルは続ける。開いた地図へと注意を向けさせる。


「ただここは山中の村、地形の起伏が激しいですからね。地図を確認した限り、村全体を見回せる場所はそんな多くないんです。たぶん、片手で数えられるくらいなんじゃないかな。それの一つが――」


 ミスティエルが地図の一点を指さす。それは今布陣している場所のすぐそば。向かいの丘の上だった。


「俺たちのところを通る可能性が高いってことか……!」


 ベルスがまとめてくれた通りだった。大方ここを襲うことがあるだろうと、ミスティエルは予想していた。



「でも、一方的に場所がバレてるっていうのは、やっぱりちょっと気分悪いかなぁ。哨戒任務だから、それが普通なのかもしれないけどさ」


 フリアの意見ももっともだと思ったミスティエルは、陣の周りに魔法を一つ張り巡らせることにする。

 薄く魔力を伸ばし、地形全体にいきわたらせる形をイメージする。そして詠唱する。


ダィ=ハスト(示せ)ニエルス(揺らぎを)


 山で狼退治の時に使った見張りの魔法とほとんど同じだ。ただ向こうは人間、知性の低い獣ではない。もしかするとこれで私たちの存在を逆に探知されるかもしれない。

 だがそれはそれでいいのだ。どちらにせよ元々、主導権は向こうにある。こちらからも探知してそれを五分の状態にできるなら、それで上等だった。


「あとは……そうですね。敵襲があれば、こちらから知らせます」


 ミスティエルはそう言う。他にやることはない。とりあえず警戒しつつも自由行動になったミスティエルに、ベルスが話を続けたがる。


「それにしてもミスティエルくんは、どうやら兵法に詳しいようだ。地図の読み方も知っている。どこかで心得を学んだのか」


「買いかぶりですよ。このくらいのことなら、一つずつ考えていけば難しいことじゃない。私より上の冒険者なら、無意識のうちにやってることだと思います。それに……リディアスさんも、それに気づいていたのでしょう?」


 その指摘に一瞬だけ固まったリディアスは、そのあと苦い笑いを顔に浮かべた。


「まあ否定はしない。ああ、いや、言わないつもりではなかったんだ。ただ君に先に言われてしまった」


 居心地悪そうなリディアスをフォローする目的で、ミスティエルは言う気のなかったことをこぼした。


「兵法に縁があって、昔そういうことを学んだのは事実なので、リディアスさんの指摘もあながち間違いじゃないですけどね。さすがの観察力です」


「そう言ってもらえると嬉しいよ。それでも、君ほどじゃない。そうだね――」


 そこで一呼吸おいて、雰囲気を少し変えたリディアスがふと漏らすように、でも明確にミスティエルに伝える意図で告げた。


「ミスティエルくん、君は不思議な子だ。そして君のおかげで、俺は少し気分が晴れるような気がするよ」


 視線を合わせ、優し気にそう告げられた。軽い空気だが、その言葉が嘘ではないことはすっとミスティエルにも理解できた。

 それでミスティエルは、心を大きく揺さぶられたように感じた。

 彼を信じられるわけでもなく、心を開く気もない。それでも、得体の知れない感情が沸いた。自分の存在を、認められたような気がしたのだ。



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